仕様はどうして決まらないのか?情シス部門の地位向上(4)(3/3 ページ)

» 2008年03月27日 12時00分 公開
[營田(つくた)茂生,@IT]
前のページへ 1|2|3       

業務要件・業務仕様を固めるためのサイクル

 次に業務要件・業務仕様を固めるサイクルに話を進めたいと思います。

 業務要件・業務仕様を固めるということは、それまで言語化・知識化されていなかった事柄を、知識として組織に根付かせるという副次的な効果もあります。ここで、必要なサイクルはSECI(Socialization、 Externalization、Combination、Internalization)サイクルです。SECIサイクルとは、組織としての知識創造プロセスとしてスパイラルの形を取ります。単なるサイクルではなく、暗黙知と形式知の相互作用が起こり、知識変換の4つのモードを通じて増幅されていくことになります。

ALT 図3 業務処理の流れ

 業務要件・業務仕様については、関係するエンドユーザー部門/オーナー部門とSECIサイクル、PDCA(Plan、Do、Check、Act)サイクルとして回すことになりますが、このフェイズでの情報共有は「イテレーティブ なプロトタイピング手法」(プロトタイプ[試作品]に改良を加えながら完成品にまで持っていく開発手法のこと)がよいのではないかと思います。

 実現するITシステムのイメージが少しずつ共有化されることで、エンドユーザー部門/オーナー部門はITについての理解もできてきますし、情シス部門/情シス子会社も業務についての理解が深まります。アプリケーション・プログラムのイテレーションをするように、プロトタイプも成長させることで、問題点が明らかになったり優先度の見直しができたりという効果があります。

 「PMBOK」の中にも、プロジェクトは「段階的に詳細化される」という考え方が入っています。最初からすべてが詳細に分かっていることはあり得ず、プロジェクトの進捗(しんちょく)と共に段階的に詳細化されていくという意味です。イテレーティブにプロトタイピングを回すことで、段階的に詳細化されます。

 次に、非機能要件を考えましょう。非機能要件とは、性能や信頼性・拡張性・セキュリティ・移行や他システムとの連携など、機能要件以外のもの全般です。これはエンドユーザーからヒアリングするものではなく、ITアーキテクチャとして組み込まれるべきものです。

 業務要件・業務仕様と、非機能要件を合わせて、仕様として確定させた後には、サービスレベル(SLA)を定めることになります。SLA(service level agreement)はITILの中でもサービスサポート(日常的な運用)とサービスデリバリ(中長期の改善)を結ぶ重要なツールとして扱われています。

 一度作ったITシステムは動いたら終わりではありません。SLA、OLA(Operational Level Agreement )としてユーザー部門に対するITシステム提供のサポートおよびデリバリに関する責任範囲や障害発生時の活動、措置を定義・設定することで、情シス部門/情シス子会社の果たしている役割を明確化し、コストが適正であることや大変さについての理解を深めてもらうことができます。

業務力向上に向けた取り組み

 ここまでは、広く業務要件・業務仕様を決めるときの流れについて書き進めてきました。実際には、対象業務毎に法令・制度・監督官庁の指導などや、業界慣例などがあります。それを学ぶことで自社内/自グループ内だけの業務仕様だけでなく、広く役立つ業務力を高めることができます。業務処理として何かをしなければならないとき、必ずその裏付けがあります。その裏付けとなる事柄をつかむことができれば、業務力向上のスピードは加速するでしょう。

 最後に、1つだけ繰り返しておきます。ドキュメントがどうとか、開発プロセスがどうとか、インフラやアーキテクチャがどうとかという点は、われわれサイドには大変重要な課題ですが、<正しい>ユーザーからすれば本質的な要求ではありません。その点を念頭に入れ、業務要件・業務仕様段階でのwhatとhowの分離をお願いします。


 今回はITシステム化する業務仕様の策定をリードする、業務力について書き進めました。次回はプロジェクトとしては後続の工程になる、実装するときに必要となる内製とベンダ管理について述べたいと思います。

著者紹介

▼著者名 營田(つくた) 茂生

日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社

セキュリティサービス本部 シニアコンサルタント

大学時代は構造化プログラミングを学ぶ。日立ソフト入社後、 主として保険、証券会社システムのシステムエンジニアリングに従事後、現在は「セキュア・プロジェクト・オフィス」コンセプトの展開を推進中。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ