企業組織と情報システム部門――「話通じてる?」情シス部門の地位向上(1)

この連載では、ITなしでは企業経営が立ち行かない現状を踏まえ、CIO/情報システム部門/情報システム子会社に元気になっていただくための「モノの見方・考え方」を提供します。

» 2007年12月11日 12時00分 公開
[營田(つくた)茂生,@IT]

CIO/情報システム部門/情報システム子会社を元気にする

 私は若いころ(今も年齢以外は十分若造ですが)、ベンダ/SIerのSEとして、お客さま企業に常駐させていただいていました。そこで感じたのは、情報システム部門や情報システム子会社の皆さま(われわれSIerから見ると直接のお客さまです)は、なぜエンドユーザー部門(直接の利用者)/オーナー部門(利用者ではないが、その業務を取りまとめている部門)に対して遠慮がちに話をするのかという疑問でした。エンドユーザー部門/オーナー部門から強く要望されると、その企業にとって最適ではない解であっても受けるケースがあったのです。

 しばらくすると、エンドユーザー部門やオーナー部門と一緒に仕事をさせていただく機会が増えました。このとき分かったのは、エンドユーザー部門やオーナー部門からは、情報システム部門が何をやっているのか、あまり見えていないということでした。情報システム部門/情報システム子会社が苦労して安定稼働させていたり、少ない人数で開発プロジェクトや改修業務を回していたりということが伝わっていなかったのです。

 この連載では、すでにITなしでは企業経営が立ち行かない現状を踏まえ、CIO/情報システム部門/情報システム子会社に元気になっていただくための「モノの見方・考え方」が提供できればと考えています。

企業運営と情報システム部門

 そもそも、IT部門はどういった活動をしているのか。??こうした疑問に答えられるエンドユーザー部門/オーナー部門は決して多くはないのではないでしょうか?

 どの企業にも本業があります。その本業は、IT関係以外の場合が多いのは、例えば東京証券取引所(東証)の業種一覧などからも分かります。ちなみに東証では上場企業を33業種に分類しています。わたしの所属する日立ソフトウェアエンジニアリングは、「情報・通信業」に分類されています。逆にIT関係以外の業種が32もある=32業種に分類される企業は、IT関係を本業としていないということがいえる ということになります。

 一方で、「企業」でITをほぼ使わないという企業は、今やほとんどないのではないかと思います。

 最小限のところから見てみましょう。「企業」が、会計処理を手書きの帳簿でやろうとすると、日々の入金・出金・振り替え・現金出納などの記帳や、総勘定元帳への転記を手書きで行うことになります。これは仮に手書きでできると仮定します。しかし、このあと決算や納税をしようとすると、決算書を作ったり、納税額を計算したりするのも手書きした帳簿から起こすことになります。これは、かなり大変です。しかし、会計ソフトを使えば、企業会計や会社法など関連する法律に合わせた仕訳、決算書作成、税の処理などの機能が基本的には含まれています。各種帳簿への手書き作業が、会計ソフトへの入力作業に代わる以上に、作業効率アップだけではない大きな効果があります。

ALT 図1 企業内の各プロセスにはITが欠かせなくなっている

 図1に示すように、企業は資金を調達し、それを元手にビジネスを行います。例えば小売業であれば商品を購入しますし、製造業なら原材料を外部から購入して販売用の製品を製造します。購入もしくは製造された商品は、外部の顧客に対して販売され、投資した資金が回収されます。回収した資金の中から一部は従業員給与として支払われ、一部は内部留保、一部は設備投資として使われます。そして、期末には決算が行われ、資金の調達先に対して決算状況の開示が行われます。さらに会社決算に基づいて納税申告が行われます。

 図1に表された企業内の各プロセスに、それぞれITが欠かせなくなっていることは、お分かりいただけると思います。現在、どのプロセスもITを全く使わずに運営することは、大変難しくなっています。一方で、図1のどこを見ても主な担当部門として「情報システム部門」は出てきません。

 本当は会社の役に立っているのに、うまくアピールできていないのが情報システム部門/情報システム子会社ではないか、と私は考えています。

なぜ若手の人事交流が多くないのか?

 東証33業種にもあるように、情報・通信業以外の32業種の企業はITを本業としていません。これは、企業を構成している要員のほとんどは、IT以外の部分に専門性を持っているということを意味します。このため、他部門と人材をローテーションすることが難しいのではないでしょうか。

 スペシャリスト人材は、その部門の中で能力を伸ばしていくべきですが、ゼネラリスト人材は、情報システム部門/情報システム子会社も含めて多くの部門をローテーションで経験すべきです。しかし、そのローテーションから、情報システム部門/情報システム子会社が外され気味である企業が多く見られます。

 そして、もう1つの問題は、情報システム部門/情報システム子会社の人数が少ないという、日本ならではの特徴です。

 欧米では開発も維持管理も運用もインハウスで行うことが一般的です。それは、欧米では「大手SIer」というビジネス形態がほとんど見受けられないということからも分かります。

 日本では開発の多くの工数を外部に依存します。これにより人数は少なく抑えられていますが、現在の担当者に大きく依存しています。現在の担当者が他部署に異動すると、異動したその日から困る場合もあり、人材交流に対応する余裕がありません。

部門としてのアピールが必要

 上にも述べたように、企業内のITシステムは、多くの部門の業務を支えています。しかし、そのシステムの仕組みや、行われている処理の内容が直接エンドユーザーの目に触れることはほとんどありません。構築されたITシステムがほかのITシステムとどのように連携し、それによって業務がどう効率化されているのか、といったことを包括的に理解しているエンドユーザーは決して多くないと思います。

 このことは、情報システム部門はエンドユーザー部門/オーナー部門に対して、理解してもらうための説明を繰り返し行っていかなければならないということを意味します。専門外のことなのに、何も説明されなければ、理解することは難しいのではないでしょうか? また、専門外のことは、分かりやすく分かるまで教えてもらう必要があります。そして何より問題なのは、理解してもらっていないと「あの人たちは何をやっている人なの?」と思われてしまうことです。

 ITシステムを開発・構築・運用することは、情報システム部門/情報システム子会社の重要な任務です。しかし、最終目的は企業内(企業グループ内)の情報活用を促進し、現在および次世代の事業の根幹を支えることではないでしょうか。そのためには、情報システム部門自身がエンドユーザー部門/オーナー部門の業務プロセスを理解すると同時に、エンドユーザーにもITシステムの概要や、ITプロジェクトの進捗状況などを理解してもらう必要があります。

 エンドユーザーの目の前にあるPCやLANケーブルがITシステムなのではありません。その先につながっているさまざまなシステムまでを含めてITシステムであり、目に見えない部分の方が重要であるということを伝えていくべきなのです。

ALT 図2 目に見えない部分の方が重要

情報システム部門はビジネスにフォーカスすべき

 これまでの情報システム部門/情報システム子会社には、「コスト削減」のためのIT導入というタスクが期待されていました。加えて、エンドユーザー部門/オーナー部門からは、業務要件をITシステムにきちんと盛り込むことが期待されていました。結果として、ITシステムの硬直化を招き、ITシステム維持に費用が掛かるという状態を招いています。

 これからは、「コスト削減」だけではなく、企業として攻めるための対応が求められることになります。例えば次のような場合です。

  • 新たな商品開発対応
  • 新たな顧客セグメントや市場への参入
  • 新たなチャネルの活用と対応
  • パートナー企業との統合や提携

 すでにITなしには企業運営が回っていかない現状では、上記のいずれにもITが大きな役割を果たすことになります。そして、その対応の中核には、情報システム部門/情報システム子会社がいなければなりません。

 ここまで企業の本業に深く浸透し、ビジネス・ベネフィットをITによって最大化させるためにはどうすればよいのかという観点に立って考えることで、情報システム部門/情報システム子会社の立場は強くなっていきます。

 ビジネス・ベネフィットを生み出し、それを経営層に提示することができれば、本当の意味で「ITとビジネスが融合している」ことの証明にもなります。これにより情報システム部門/情報システム子会社の企業内/企業グループ内での立場も強くなるはずです。

 経営層がCIO/情報システム部門/情報システム子会社に対してコスト削減を求めてくるのは、CIOや情報システム部門/情報システム子会社がコスト面だけを説明するからではないでしょうか?

 CIO/情報システム部門は、IT投資に対してコスト面だけではなく、ビジネスに対して貢献できるポイント・価値を説明し、理解させることができれば、経営層の考え方も変わってくるのではないでしょうか。


 上述したように、CIO/情報システム部門は、ビジネスにフォーカスし、ITを道具としてビジネスに役立つ方法を考えていくべきでしょう。そこで、次回はIT戦略と情報システム部門の関係について掘り下げたいと思います。

著者紹介

▼著者名 營田(つくた) 茂生

日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社

セキュリティサービス本部 シニアコンサルタント

大学時代は構造化プログラミングを学ぶ。日立ソフト入社後、 主として保険、証券会社システムのシステムエンジニアリングに従事後、現在は「セキュア・プロジェクト・オフィス」コンセプトの展開を推進中。


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