顧客のために、仮想化技術を使う〜本田技研工業〜各社に聞く「グリーンITにどう取り組むか」(2)(2/2 ページ)

» 2008年04月17日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT]
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メインフレームを3台削減。22億円のコスト節減効果

 1つがメインフレームの集約化だ。同社は埼玉県・和光製作所、三重県・鈴鹿製作所、そして関連会社のホンダアクセスにデータセンターを持ち、和光製作所、鈴鹿製作所に2台ずつ、ホンダアクセスに1台のメインフレームを置いていた。

 このうち2002年に、ホンダアクセスにあった1台を和光製作所の2台に集約。2004年には、鈴鹿製作所の2台を和光製作所の2台に集約し、計3台を削減した。

 「基本的に和光は営業系、鈴鹿は生産系をカバーする機能を持たせていた。しかし共通するアプリケーションも多くあったため、それらを極力1つにまとめる方向で集約化を進めた」

 ただ、営業系、生産系のメインフレームを別立てしていたことには、それなりの意味がある。ユーザー部門への配慮もその1つだ。「省電力化してもシステムの機能性、操作性を落としてしまっては意味がない。従来と変わらない、あるいはそれ以上の使い勝手を確保して初めて効率化といえる。機器を集約する技術は一般的なものでも、従来の業務プロセスを阻害しない、オペレーション上の工夫には高いレベルが求められた」

「効率化はすでに一巡。IT部門として環境に対する考えを発表する機会も増えてきた」と新井氏

 また2001年4月時点で、同社は全国に1000法人2500拠点の販売会社を構えていた。その1000法人それぞれがIBM AS400を持ち、営業、経理、サービスなどのアプリケーションを個別に使用していた。

 この1000台あったAS400を和光製作所データセンターの5台に集約。全店共通のアプリケーションについては各店の端末にネットワーク経由で機能提供する形とした。

 「それ以前まで、新車登場時などデータの更新時には、新データを入れたメディアを1000枚用意して配布することもあった。1000台のAS400も無駄だが、メディアの配送コストもばかにならない。販社側でデータを更新し忘れる可能性もあり、完全なデータ統一が難しい点も課題だった。集約化はこれらの解決に大きく寄与した」

 もちろんネットワークを二重構造とし、AS400のバックアップ機も鈴鹿データセンターに用意するなど集約化によるリスクにも備えた。

 これらによるコスト削減効果は実に22億円。各部門にまたがる作業のためIT効率化によるCO2削減量は算定していないが、省電力化をはじめ、環境面に大いに貢献したことはいうまでもない。

仮想化で3100トンのCO2を削減2を削減

 一方、現在取り組んでいるのがサーバの集約化だ。今年3月から2011年3月までの3年間でサーバ台数を40%削減する。

 具体的には、仮想化技術を用いてサーバとソフトウェアを1対1で用いていた冗長構成から、N+1構成に変更。サーバ単価当たりの処理能力を1.5倍〜2.0倍に引き上げ、CPU使用率を従来の50%から80%に伸ばす。さらに省電力のインテリジェントスイッチを採用してネットワークの消費電力を半減させるという。

仮想化によりサーバ台数を削減(クリックで拡大)

 「例えば和光製作所のデータセンターでは、サーバ成り行き台数1718台を1027台に削減する。これにより、消費電力を1045万kWhから625万kWhまで低減できる。これらによるCO2排出量削減効果見込みは3100トン。東京ドーム133個分の森林面積に相当する」(新井氏)

 サーバ集約化が貢献するのは環境面ばかりではない。和光データセンターは6階建てであり、4階までマシン室となっているが、「システム機能を拡張しても、5階以上をマシン室にする必要がなくなる。これにより3億円の工事・移設費用を節約できる」。こうした取り組みに対する投資コストについて、具体的な数値は公表していないが、2011年までの3カ年で回収できる見込みだという。

大切なのは仮想化ではなく、それによって何をするか

 このほか、会員間で走行情報を共有するサービス、「インターナビ・プレミアムクラブ」を使った渋滞回避によるCO2削減、ICカードなどセキュリティ管理ツールを使ったカーシェアリングサービスによる車両台数削減など、同社はさまざまなCO2削減対策を打ち出している。

 ただ、新井氏はこれらの施策について、「大切なのは効率と環境の両立」と強調する。仮想化にしても、どんなトランザクションで、どれほどのデータ量を扱い、どの時間帯に業務が集中しているのか、現状を正確に洗い出したうえで、環境性と業務効率を天秤にかけるという。

「大切なのは技術ではなく目的」と新井氏

 「仮想サーバという箱に、どうアイテムをつめるのがベストなのか。どうつめれば、より少ないエネルギーで、ユーザー部門の使い勝手が向上し、エンドユーザーの満足につながるのか、妥協せずに考え抜く。重要なのは単に省力化を図ったり、仮想化技術を使ったりすることではない。それらを通じて、最終的に何を実現するかだ」(新井氏)

 ちなみに、同社では経営トップを交えた全社的な戦略会議でも、効率、環境、安全、品質をポイントに、最終的な顧客満足を見据えた議論を展開しているという。

 「ただ儲けを追及するのではなく、エンドユーザーの望むものを、望む形で提供して喜んでいただく。その結果、利益がついてくる。社会や顧客のために何をすべきか、各部門がそれぞれの立場で考え、実行に移す──これがホンダフィロソフィーの基本的な考え方だ」(落合氏)

 新井氏も「環境、効率という観点は企業風土として深く根付いている。グリーンITというキーワードも、長年続けてきた活動を表現する言葉が、後からついてきたという印象が強い」と話す。

東京・青山本社ショールーム入り口にあるASIMOのオブジェ。今後も環境トップランナーを目指す

 実際、同社は1971年、当時世界一厳しいといわれた排出ガス規制、米マスキー法規制に世界で初めて適合するなど、環境、効率というテーマには以前から取り組み続けている。 

 2007年3月期の連結純利益は5923億円、連結販売台数2044万台と、堅調に推移し続けている実績も、そうした企業姿勢がユーザーに支持されている1つの証といえるのかもしれない。

 新井氏は、「ITは幅広い企業活動を根底から支えるもの。効率化や環境施策は今後もさまざまな可能性が考えられる。社会一般に浸透し始めたグリーンITというキーワードを一過性のものにしないためにも、ホンダIT部門として継続的に環境保護に取り組んでいきたい」と強い意欲をうかがわせた。


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