「内部統制報告制度に関する11の誤解」の注意点SOX法コンサルタントの憂い(9)(2/3 ページ)

» 2008年04月22日 12時00分 公開
[鈴木 英夫,@IT]

“建前”では正しくても、現実には無理

誤解その4:中小企業でも大がかりな対応が必要か
誤解 米国では、中小企業に配慮する動きがあるが、日本では、中小企業も大企業と同様の内部統制の仕組みが必要である
回答 上場会社のみが対象、かつ、企業の規模・特性などの中小企業の実態を踏まえた簡素な仕組みを正面から容認
(具体例)

○職務分掌に代わる代替的な統制
マンパワーが不足している場合などには、経営者や他の部署の者が適切にモニタリングを実施することで可。

○企業外部の専門家の利用
モニタリング作業の一部を社外の専門家を利用して実施することが可能。


 「中小企業の実態を踏まえた簡素な仕組みを正面から容認」とあるが、これまで金融庁の企業会計審議会の内部統制部会長である青山学院大学の八田進二先生などは「日本の制度は初めから簡素になっており、中小企業でも同じ考えだ」といっていた。この点から少し踏み込んだことは評価したい。

 中小企業では、「統制の数を減らす、そして、統制の内容を企業の身の丈に合った程度の簡単なものとする」などの工夫ができることに留意したい。願わくば、中小企業で使える具体的な対応モデルを示してほしかった。

誤解その5:問題があると罰則等の対象になるのか
誤解 内部統制報告書の評価結果に問題がある場合、上場廃止になったり、罰則の対象となる
回答 内部統制に問題(重要な欠陥)があっても、それだけでは、上場廃止や金融商品取引法違反(罰則)の対象にはならない
(具体例)

○「重要な欠陥」は上場廃止事由とはならない(東証・上場制度総合整備プログラム2007)。

○「重要な欠陥」があっても、それだけでは、金融商品取引法違反とはならず、罰則の対象にもならない(罰則の対象となるのは、内部統制報告書の重要な事項について虚偽の記載をした場合(金融商品取引法197条の2)。


 この点について、導入企業側も特に誤解はしていなかったと思う。

誤解その6:監査人等の指摘には必ず従うべきか
誤解 内部統制の整備・評価は、監査法人やコンサルティング会社のいう通りに行わなくてはならない
回答 自社のリスクを最も把握している経営者が、主体的に判断
(具体例)

○監査人の適切な指摘
監査人の指摘は、内部統制の構築等に係る作業や決定が、あくまで企業・経営者によって行われるとの前提の下で、適切な範囲で行われる必要。

○監査人等の開発したマニュアル、システム

監査法人やコンサルティング会社の開発したマニュアル(内部統制ツールなど)、システムを使用しなければならないということはない。


 これはあくまで、“建前”の話である。実際には、監査人が指摘した点を被監査企業が行わないのは難しい。

誤解その7:監査コストは倍増するのか
誤解 財務諸表監査に加え、新たに内部統制監査を受けるため、監査コストは倍増する
回答 内部統制監査は、財務諸表監査と同一の監査人が一体となって効率的・効果的に実施
(具体例)

○監査計画の一体的作成
財務諸表監査と内部統制監査の監査計画を一体的に作成。

○監査証拠の利用
それぞれの監査で得られた監査証拠は相互に利用。


 筆者の経験からコメントすると、監査コストは倍増はしないとしても5割増にはなる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ