コンタクトセンターの価値を高めるテキストマイニングテキストマイニングの基礎(2)(1/2 ページ)

テキストマイニングは、実際にどれほど有効なものなのだろうか。今回は具体的な事例を取り上げつつ、その活用方法を解説していく。

» 2008年06月10日 12時00分 公開
[神田晴彦,野村総合研究所]

 企業の組織を、コストセンターとプロフィットセンターというように分類する考え方がある。例えば、製品を販売したり製造したりしている事業部は、売り上げに直接結び付く組織である。情報システム部や人事部は、直接は売り上げに結び付かない組織である。

 従来、コンタクトセンターは、そのセンターの運営・維持にかかる費用がコストになってしまうため(一部の例外を除き)、コストセンターとして位置付けられることが多かった。しかしながら、企業間の激しい競争を生き抜いていくために、このコンタクトセンターをプロフィットセンター的な位置付けにしたいと考えるコンタクトセンターの担当者や経営層が増加傾向にある。なお、本連載でいうコンタクトセンターとは、メール、電話などで、消費者・業者から、問い合わせ、相談、依頼、苦情、意見などを受け付ける組織のすべてを含める。

 実際にプロフィットを上げることは難しいが、コンタクトセンターの付加価値を高めることは可能である。

 ここでは、コンタクトセンターの高付加価値化のため、2つの論点に絞って考えてみたい。

 1つ目は社内への情報発信力の強化であり、2つ目は顧客対応力の向上である。そしてその両方の側面において、テキストマイニングは威力を発揮するのである。

2-1 コンタクトセンターでの分析作業を効率化

 まずは1つ目の社内への情報発信力の強化について見ていこう。コンタクトセンターは顧客との貴重な点の場であり、さまざまな要望や意見、潜在的なニーズが集まってきやすいという性質を持つ。

 例えば、商品を購入する場合やサービスに加入する場合、事前にコンタクトセンターに相談することがある。このような場合、相談内容には商品やサービス自体の説明を求めるものや他社との比較検討上の悩みなど、購入・加入にかかわるさまざまことが含まれるだろう。また実際に商品やサービスを利用した後の不具合や各種の変更手続きなどでも、コンタクトセンターを利用して行うことが多いだろう。不具合が発生した状況や、契約内容の変更の経緯の詳細も併せて寄せられてくる。このようなコンタクトセンターは、顧客・利用者(潜在的な顧客を含め)との貴重な接点になり得るし、この情報を役立てない手はない。

 事実、野村総合研究所が2007年3月に実施した「顧客の声の活用実態調査」によると、約8割の企業が顧客の声をコンタクトセンターでデータベースに蓄積していた(グラフ1)。

ALT グラフ1 野村総合研究所が実施した「顧客の声の活用実態調査」から、企業が収集している顧客の声の種類(複数回答)。多くの方法で企業がデータを集めていることが分かる

 この蓄積された膨大な顧客の声を、社内の各事業部に発信し、商品の開発やサービスの改善などに反映させようという試みは非常に増えている。こうした取り組みにおいて昨今注目を浴びているのがテキストマイニングである。

 上記のような顧客の声は、コンタクトセンターのデータベースに、非定型な形式(文字情報)で入力される。これらの情報をスピーディに集計し、施策検討に有効なヒントを抽出するために、テキストマイニング分析が威力を発揮するのである。

2-2 事例:顧客の声からの商品改善・離反防止策

 では、実際にテキストマイニングが、いかに活用されているかを見ていきたい。

コールログを用いた商品の改善事例

 ある通販会社のケースを紹介しよう。この通販会社では、商品の返品理由を入力したデータベースがあり、年間30万件ほど入力されている。これを商品カテゴリ別や、部署別、担当者別などに分類し分析を行う。

 返品理由を分析した結果、ある衣類のカテゴリの中で、「ヒリヒリする」「赤くなる」「チクチクする」などの理由が多くあることが分かり、素材の変更を試みた。すると素材変更前と比べ、売り上げを伸ばすことに成功した。

 また、ある食品メーカーでお客さま相談室に寄せられた問い合わせ内容を分析した結果、ある商品シリーズに「賞味期限が分からない」「ラベルがない」などの内容が集中していることが分かった。

 これは、賞味期限が明記されている外袋を捨ててしまい、中の容器だけを利用していた多くの消費者から寄せられた内容である。そこでその食品メーカーでは、賞味期限の表示位置を本体のキャップに変更し、顧客の不安を解消することに努めた。

コールログから解約防止策の立案事例

 次に取り上げるのは、解約防止施策の立案に活用しているケースである。

 10人程度の解約防止専門チームを設けたある有料放送事業者がある。

 解約理由を申込者の属性(年代や性別など)ごとに分け、代表的なキーワードを分析し、その結果から解約の申し出のあった顧客に対するトークスクリプトを作成し、実際に顧客のつなぎ留めに活用している。

 例えば40代以上の会員には、電話で解約の申し出があった際に、翌月以降の映画の話題作のスケジュールを中心に紹介し、20歳以下や30代前半の会員にはコンサートの放映予定や、来シーズンのスポーツ中継予定を案内している。その結果、解約申し出のあった顧客のうち、約18〜20%が継続利用となり、顧客のつなぎ留めに成功しているのである。

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