「失敗」から学ぶ、SCMの基本「もう二度と失敗しない」SCM完全ガイド(1)(1/2 ページ)

ビジネスのグローバル化に伴い、SCM構築の波が再びやってこようとしている。しかしSCMの第1次ブームのころ、なぜ多くの会社はSCMの効率化に失敗したのだろうか? 同じ轍を踏まないためにも、まずその失敗事例を振り返ってみよう。

» 2008年07月07日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]

もう、あの過ちを繰り返したくない

 2000年前後、多くの企業がSCMの構築に走りました。当時は全社プロジェクトを立ち上げ、鳴り物入りでSCM構築を喧伝したものですが、結果はご存じの通り、そのほとんどが失敗に終わりました。多額のコストをかけたシステムは狙い通りに機能せず、関連の組織間にはさまざまなあつれきが生じ、関係者全員が徒労感に包まれてしまいました。

 あれから7年以上の時が経ったいま、再びSCM構築の波がやってこようとしています。SCMは会社の競争力を支える根幹の仕事です。システム化には失敗しても、業務としてのSCMは当時からいまに至るまで、厳然と営まれています。そうした中、当時よりもますますグローバル化が進んだ日本中の企業が、競争力復活のために、いまあらためてSCMシステムの再構築を始めようとしているのです。

 しかし、ちょっと待ってください。そのまま突っ走ってしまっていいのでしょうか? なぜ当時、SCMは軒並み失敗に終わってしまったのでしょうか? 例えば以下の4点など、経験として、あるいは聞いた話として、思い当たる方も多々いらっしゃるのではないでしょうか。

  1. ビジネスのありようを無視して、SCMを構築しようとした
  2. SCMをオペレーションと混同した
  3. システム部門中心で、業務部門のコミットを得なかった
  4. パッケージ信仰に走り、本当の必要性を理解していなかった

 確かにいま、SCM構築の波が再来しつつあります。当時のシステムは廃棄されたか、もしくは償却が済んでいることでしょう。組織間で負ったあつれきの傷もようやく癒えて、新しい波に向けてモチベーションを高めている企業も多いかもしれません。

 しかし多くの企業にとって、SCMは初挑戦ではなく「やり直し」です。上記の4例も「よくある話」の一言で片付けてしまわず、そこから学ぶ事が、成功への近道だと思うのです。ただし、失敗を学ぶだけでは前進できません。過去の経験の中から本質的な失敗要因を汲み取り、どうすればそれを成功に結び付けられるのか、具体的に考えていくことが必要です。

 それがこの連載のテーマです。SCM構築の波が再来しつつあるいま、あえて「SCMはなぜ失敗したのか」からスタートし、成功の本質を洗い出していきます。そして、ユーザー部門や情報システム部門をはじめ、これからSCM再構築を担う方々に向けて、「今度こそ失敗しない」SCM構築のノウハウとフレームワークを、分かりやすく伝授していきたいと思います。

自社業務への無理解が悲喜劇を招いた

 ではさっそく、上記の4つの失敗パターンについて、その内容を具体的に紹介していきましょう。まずは「1. ビジネスのありようを無視して、SCMを構築しようとした」話として、私が建て直しを依頼されたA社の例を紹介します。

 A社は消費財用資材メーカーで、コンビニに納入する製品の包装資材を作っています。大規模印刷工場が1つと、印刷シートを切断して納品形態にする裁断・組立工場が納入先の近くに複数ある、といった会社です。A社ではメーカー出身のコンサルタントとERPコンサルタントが参画して、SCMシステムとERPシステムの導入を試みていました。

 「いま思い出してもなぜ、コンサルタントのあのような言葉を信じてしまったのか分からない」と、当時のリーダーはいっていました。A社では「有名なERPと弊社SCMシステムを導入すれば、SCMは完成します」とのコンサルタントの言葉を信じ、現業を無視して構築に突っ走ったのです。

 結果として生産管理は崩壊、SCMのSの字もできず、システムは使われず、工場単位のExcel生産管理に退化してしまいました。ERPは指図書発行マシン、在庫計上マシンとして、かろうじて残りましたが、結果は惨憺(さんたん)たるありさまでした。コンサルタントたちはカットオーバーの段階で引き上げてしまっており、すでにいません。

 さて、なぜA社では生産管理が崩壊し、工場間の業務連携が断たれたのでしょうか? 実はコンサルタントが持ってきたSCMシステムは、組立・加工向けのシステムだったのです。A社の印刷工場は、インク製造、印刷、エージング(安定するまで“寝かす”こと)といった工程があり、段取りも大規模かつ複雑なものでした。組立・加工型とは著しく異なる生産形態──ほとんど化学工場ともいえるほどの製造プロセスで、いわゆるプロセス型でした。

 そのうえ、印刷工場の先には複数の裁断・組立工場があります。つまりサプライチェーン全体では、プロセス型と組立・加工型の組み合わせだったのです。家電メーカー出身のコンサルタントは、自社で導入した組立製造業向けSCMシステムをそのまま入れようとしたのでしょう。しかしプロセス型工程がネックとなって頓挫したのでした。

 ビジネスのありようを無視して、「このシステムを入れればSCMが完成します」という妄想が当時はありました。そのために日本中で現実無視のプロジェクトが雨後のタケノコのように行われ、失敗に至りました。そもそも、自社のビジネスとはどのようなもので、どのようなSCMであるべきなのか──まったく検討されていなかったのです。

SCMは「マネジメント」ではない!?

 ご存じのとおり、SCMとはサプライチェーン・マネジメントです。しかし当時、SCMを“マネジメント”であると意識していた企業はあまりありませんでした。例えば、ウォルマートとP&Gの在庫補充システムがSCMの代表のように喧伝され、SCMとは「会社や組織をまたいだ情報共有による補充業務である」と、考えられていました。つまり“業務”であるととらえられていたのです。

 これを受けて、「会社や組織を見下ろす位置から、誰かが補充計画を決定し、どこかで、神のお告げのように指示すればSCMは完成する」とでも考えたのでしょう。多くの会社が「SCM統括組織を作る」とぶち上げました。

 「グローバルSCMセンター」「グローバル需給センター」「ロジスティクス・コントロールセンター」など、さまざまな名前がつけられました。そうした統括組織を作り、世界中の販売計画と在庫数を集めて、“全体最適”なシステムで“全体最適”な仕入計画・生産計画を決め、指示を行う──という構想の下、プロジェクトが開始されたのです。

 そして、失敗しました。そもそも、サプライチェーンに参加するどこかの1組織が、「世界中に存在している各組織の利害にかかわる意思決定を勝手に行える」と考えたこと自体が誤りです。販売計画や在庫計画、仕入・生産計画は、すべて各組織の方針が反映されたものであり、それらの計画実行には必ず利害が絡んでいます。

 すなわち、各組織の計画とその実行指示は、単なる業務──つまり「オペレーション」ではなく意思決定であり「マネジメント」なのです。さらに、そうした組織“間”の業務をスムーズに連携させるのも、オペレーションではなくマネジメントです。組織間の利害を調整し、高い視点で意思決定することが必要だったのです。

図1 SCMの主体企業がA社であれば、A社の経営層が社内外の利害関係を調整し、高い視点から意思決定を行わなければならない。SCMとは現場レベルの「オペレーション」ではなく「マネジメント」である

 当時、SCMがマネジメントにかかわる仕事だと思い至らなかった会社は軒並み失敗しています。このマネジメントとは、会社の儲けを最大化するために、どう利害を調整し、どう意思決定すべきか、という非常に重要な仕事です。誰も承服しない勝手な数学的“最適化”を根拠に、たった1部門が決定を押し付けようとするのではなく、各要素をどう組み合わせ、それらをどうマネージしていくべきか、組織間で検討しあったうえで、SCMの体制を構築していくことが必要だったのです。

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