「失敗」から学ぶ、SCMの基本「もう二度と失敗しない」SCM完全ガイド(1)(2/2 ページ)

» 2008年07月07日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]
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システム中心の姿勢が本末転倒を招いた

 さて、前のページに引き続き、3つ目の失敗事例を紹介します。すでに1つ目、2つ目にも現れているのですが、「SCM構築」を「システム導入」と同義にとらえ、システム中心=業務無視というスタンスで計画を進めた結果、失敗というパターンも数多く見受けられました。

 現場で行われている業務には、非効率な業務、標準化できる業務もありますが、たいていは何かの理由や必要性に基づいて行われています。そうしたことを無視して、勝手な「あるべき」姿を描いて、システムを押し付けても使われるはずがありません。

図2 現場業務は業種、業態によって特異性を持っている。考えなしにシステムを導入しても業務とかみ合わず、単なる重しになってしまう

 それでも強制した会社もありました。消費財メーカーB社、ハイテクメーカーC社などはその1例で、そのSCM導入は当時、あらゆるメディアで「大成功」と賞賛されていました。しかし、裏から見れば、業務部門は使えないシステムを無理に使わされて、塗炭の苦しみを味わっていたのです。

 その使えないシステムは、次のようなものでした。システムの出した結果をデータ出力し、人間がExcelでフォーマットを修正して、再びシステムに入力していました。立案は人力で行っていたので、システムはデータの受け渡しをするだけのものだったのです。数億円のシステムが、人間に負荷を掛け、単なる入力マシンになっていました。これらの会社はすでにこのシステムを廃棄しています。業務を無視した勝手なシステム導入が、当時は横行していたのです。


当時のSCMシステムはどうなったのか? 答え「廃棄、やり直し」

 さて、最後は有名パッケージソフト信仰に陥り、その本当の必要性や使う目的を理解していなかったがゆえの失敗を紹介しましょう。

 文明開化の余韻でしょうか、いまだに日本人は舶来品をありがたがる傾向が強いようです。2000年ごろ、SCMの大ブームに乗って有名パッケージを導入した企業がたくさんありました。「これがあれば、世界のエクセレントカンパニーと同じSCMが完成します。BPRができます」というセールストークをうのみにして、数億円から数十億円のライセンス費と開発費を掛けて、有名パッケージを何の疑いも持たずに導入したのです。

 しかし、そもそもブームに流されてノーアイデアのまま導入したのですから、誰も「自動最適化」など使いません。「需要予測」でさえ、条件付きでないと使えません。そのうえ、計算に時間がかかり、見たいようにデータが見えず、ちょっと条件を変えると数時間計算しっぱなしで、ちょっとした再検討すら即座にできないありさまでした。やりたいこと、業務として必要なことができず、結局あっという間に使われなくなっていきました。

 それでも多くの企業がSCMシステムを導入しました。そのシステムはどうなったのでしょうか。答えは「廃棄、やり直し」です。 もちろん上手に導入して、いまでも使っている会社は多くあります。現に、私が2000年前後に手伝った会社では、いまだに海外の有名SCMシステムを上手に使っています。しかし、そうでない会社の多くはやり直すしかないのです。

 ただし、冒頭でも述べたように、システムを使ったSCM体制をうまく構築できなかった会社は多いにもかかわらず、業務としてのSCMは厳然として営まれています。 モノを作り、滞りなく市場に届ける手段であるSCMは、会社の存続とともに競争力を支える根幹の仕事であるからです。

 では、これらの失敗要因を踏まえたうえで、われわれはどうSCMの業務体制を見直し、システム構築に取り組んでいけばいいのでしょうか? ここで確認しておきたいのが、「そもそもSCMとは何か」という定義です。

SCMとは、無駄なく、儲け続けるためのビジネス体系

 といっても、SCMの定義として共通理解されたものは、実は現時点では存在しないのです。ある人は物流をSCMと呼び、ある人は在庫管理をSCMと呼び、またある人は調達業務をSCMと呼びます。それはまるで、盲人が象の足を触って「象とは太くて木のようだ」、鼻を触って「細長くてホースのようだ」、耳を触って「ひらひらとして団扇のようだ」といっている寓話のようなものです。

 しかしそれでは話が先に進まないので、SCMの普及啓蒙に当たっている米国の団体、サプライチェーンカウンシル(SCC)の定義を参照してみましょう。

「価値提供活動の初めから終わりまで、つまり原材料の供給者から最終需要者に至る全過程の個々の業務プロセスを、1つのビジネスプロセスとしてとらえ直し、企業や組織の壁を超えてプロセスの全体最適化を継続的に行い、製品・サービスの顧客付加価値を高め、企業に高収益をもたらす戦略的な経営管理手法」


 一生懸命、全体像を表現しようという努力が現れています。よく練られたすばらしい定義だと思います。しかしこれを実務の現場に適用するには、あまりに難しすぎます。難しくて私のように揮発性メモリー型の人間には、覚えられません。そこで、私なりの単純な定義を表してみると、以下のようになります。

必要なモノを、必要な時、必要な場所に、必要な数量だけ届けるために組み上げられた、儲け続けるためのビジネスの体系


 いかがでしょうか? もちろん、サプライチェーンカウンシルによる定義はすばらしいものです。迷ったときに振り返ると指針を与えてくれるでしょう。しかし、先に述べたように、それが絶対的なものというわけではありません。そして何より、皆さんの目的は、毎日の実務の中でSCMをどう構築し、どう展開すれば、“全体最適”や利益につながるか、ということです。本質的な部分はできるだけにシンプルにとらえて、「実際どうすべきか」に考えを巡らせることが大切なのではないでしょうか。

 次回から、こうした定義に基づいて、そもそもの「SCMの狙い」と、今後SCMを考えていくためのフレームワークを明らかにしていきたいと思います。「今度こそ成功する」ために、SCMをというものをもう一度シンプルに、正しくとらえ直していきましょう。

筆者プロフィール

石川 和幸(いしかわ かずゆき)

株式会社サステナビリティ・コンサルティング

株式会社インターネット・ビジネス・アプリケーションズ

大手コンサルティングファームであるアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、日本総合研究所、KPMGコンサルティング(現ベリングポイント)、キャップジェミニ・アーンスト&ヤング(現ザカティーコンサルティング)などを経て、サステナビリティ・コンサルティングインターネット・ビジネス・アプリケーションズを設立。SCM、BPR、業務設計、業務改革、SCM・ERP構築導入を専門とし、大手企業を中心に多数のコンサルティングを手がける。IE士補、TOCコンサルタント。『だから、あなたの会社のSCMは失敗する』(日刊工業新聞社)、『会社経営の基本が面白いほどわかる本』(中経出版)、『図解 SCMのすべてがわかる本』(日本実業出版社)、『中小企業のためのIT戦略』(共著、エクスメディア)など著書多数。


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