SCM構築は、業務の可視化が大前提「もう二度と失敗しない」SCM完全ガイド(7)(1/3 ページ)

SCMシステムは、性能で選ぶのではなく、“自社の業務”に最適かどうかで選べばよい。ただ、そのためには、自社の目標やビジネスモデル、サプライチェーンモデルや業務フロー、関連部門間の関係性など、“自社の業務”を熟知していなければならない。

» 2009年05月26日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]

 第6回『「全体最適」の本当の意味をご存じですか?』では、全体最適とはサプライチェーンの動的特性を理解したうえで行う「意思決定そのもの」であり、あるべきSCMシステムも「経営層の意思決定を支援するシステム」だと解説しました。

 特に大切なのは、各社が自社のSCM戦略を考え、“自社にとって、あるべきSCMシステム”を個別に導き出していくことです。今回は、こうした前提に立ったうえで、SCMシステム構築を成功させるためのアプローチを具体的に解説していきます。

SCMはビジネスモデルそのもの

 SCMシステムを構築するに当たって、最初に行うのはSCM戦略の立案です。SCM戦略とは、中長期的な目標と、その目標達成のための仕組みを考え、ヒト、モノ、カネなどの経営資源の配置方針を決めることです。このことは、まさしくビジネスモデルそのものを論じることと同義になります。

 ビジネスモデルを整理するに当たっては、どの会社でも基本的に策定すべき項目から整理します。まずは中長期的な経営目標を決めるのです。財務数値的な目標でも、状態目標でも、業務目標でもよいでしょう。財務数値的な目標なら、売上、利益、ROA(総資産利益率)ROE(株式資本利益率)、在庫月数などを定めます。

 一方、状態目標とは「市場シェアNo.1」とか「顧客満足No.1」など、達成した状態を目標とすることです。こうした目標をさらに事業単位や業務単位に分解し、業務目標として「在庫ヒット率95%」「納期順守率99%」などとしてもよいでしょう。目標はできるだけ数値目標とすることで、測定ができ、長期的にトラッキングできることが望ましいと思います。トラッキングできれば、達成状況が分かり、さらに努力を重ねるべきかどうかが判断できるため、自ずと目標達成に向けたドライバーになっていくからです。

 目標が決まったら、いよいよその目標を達成するためのビジネスモデルの検討に入ります。「誰に、何を、どのように届けて、どのように収益をあげるか」といったビジネスの在り方を定義するのです。これはまさしく、「必要なモノを、必要なタイミングで、必要な数量だけ、必要な場所に、適切に届ける」というSCMの在り方を決めることに直結します。

 例えばパソコンメーカーの場合、一般的なメーカーは、製品であるパソコンを見込みで生産し、倉庫に在庫し、流通や小売を通して店舗に陳列し、最終顧客に販売する、という形のビジネスモデルです。一方、“ダイレクトモデル”と称する独特のビジネスモデルを構築したデルの場合は、製品在庫を持たずに、部品の状態で在庫し、Webを通じて注文を受け、その注文に基づいて製品の状態に組み立てて、顧客に直接送付する、という形態を取っています。

 つまり、一般のパソコンメーカーの場合は、見込みで生産し、流通・小売を通して販売する「間接販売モデル」となりますが、デルの場合は受注生産方式による「直接販売モデル」ということになります。ビジネスモデルによって、生産の在り方から、在庫の構え方、顧客に製品を提供する形態まで──すなわちサプライチェーンの業務の在り方すべてが大きく異なってくるのです。これが、SCMシステムを構築するに当たって、まず最初にビジネスモデルを策定する理由です。

 ビジネスモデルを定義したら、今度はそのビジネスモデルを支えるサプライチェーンモデルを定義します。サプライチェーンモデルとは、「誰に、何を、どのように届けて、どのように収益を上げるか」というビジネスモデルに最適な在庫の構え方、在庫の配置方針、在庫拠点、物流ネットワークを決定し、さらにそれに基づいて生産拠点、生産方式をデザインしたものです。

 そして最後に、サプライチェーンを管理・統制・運用するための、計画系・実行系業務の方針をデザインします。計画系・実行系業務の詳細については、本連載の第3回、第4回で詳述しましたので、そちらを参考にしてください。


いきなり業務設計をしてはいけない

 以上のように、SCMを構築する際は、 目標→ビジネスモデル→それを支えるサプライチェーンモデル→それを実現する計画系・実行系業務、といった順に考える必要があります。この順番はSCM構築の鉄則です。第2回『もう一度見直したい、「SCMって何?」』で以下の図1を紹介しましたが、今回はその検討の順番、内容をより具体的に説明したものです。

図1 ビジネスモデル構想からサプライチェーンモデルを導き出し、それに基づいて物流インフラを策定する。計画系業務、実行系業務以前に、上位概念がきちんと策定してあることがSCM実現の大前提となる

 最も注意したいのは、いきなり計画系・実行系業務の設計に着手してしまうことです。そうすると、たいていの場合、暗礁に乗り上げてしまいます。SCMにかかわる組織部門や企業は実に多様です。全プレイヤーが共通認識を持っておかないと、最適な業務を考えるための共通の土台が作れない恐れがあるのです。

 例えば、営業部門に所属している人がいたとします。多くの場合、その人は「工場や調達部門がどのような仕事をしていて、営業部門とどのような利害関係があり、業務上の権限・役割分担はどうなっているのか」について、分かっているようで分かっていないことが多いと思います。

 また、どちらかというと自分の属する部門の利益のために動くため、「工場や調達部門は、営業部門のいうことをきくべきだ」という考え方にもなりがちです。実際、顧客のことなどそっちのけで、組織間の利害対立に陥っているケースは多いのです。皆さんの会社ではいかがですか? 自分の所属する部門とほかの部門との関連を、すべて把握し切れているでしょうか?

図2 サプライチェーンにはあらゆるプレイヤーが存在する。皆、自分の所属する部門を中心に考えがちなため、ビジネスに対する共通認識がなければ、部門間の利害対立に陥りやすい。しかし、まず最初にビジネスモデル、サプライチェーンモデルを決め、共有することでビジネスの土台を作っておけば、各プレイヤーの協力関係をスムーズに築くことができる

 従って、時として利害が対立する組織間では、「SCM改革において、どのような組織権限と責任が生じ、どのようなメリット、デメリットが生じるか」を理解し、あるべきSCM像を共有する必要があります。そのために、まず自分たちのビジネスモデルとそれを支えるサプライチェーンモデルを「見える化」し、同じサプライチェーンに属するパートナーとして、共通の認識を持って業務設計に取り組めるようにすることが肝要なのです。共通の認識なしでSCM改革を始めると、組織利害の壁に阻まれて、必ず頓挫します。実はこうしたサプライチェーンモデリングこそが、SCM改革における最重要タスクでもあるのです。

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