SCM構築は、業務の可視化が大前提「もう二度と失敗しない」SCM完全ガイド(7)(3/3 ページ)

» 2009年05月26日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]
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サプライチェーンモデルと業務にあったシステムを選ぶ

 さて、以上のように、会社の目標からビジネスモデル、サプライチェーンモデル、業務フローまでを描くことで、業務の「見える化」を行うと、必要となるシステム機能も自ずと明確になります。併せて、計画系業務は意思決定業務であり、実行系業務は粛々とスピーディに、かつ正確に業務処理を行う業務であることが、改めて確認できるかと思います。

 そうなると、計画系業務の場合、「マネジメントや計画立案者にとって、意思決定できる材料がそろえばよい」、すなわち、それに必要なシステムがあればよい、ということが分かるはずです。

 実行系業務については、受注に基づいて伝票が流れ、「誰が、どの伝票に、何をインプットし、どう処理していくか」を正確に定義、実行できるシステムが必要だと分かるでしょう。つまり、計画系業務にはSCMシステムが、実行系業務にはERPなどの統合基幹システムが合致していると、あらためて納得できると思います。

 その点、ERPは求めるべき要件が分かりやすいほか、企業によって要件が大きく異なることもないため、ほとんどの製品が十分な機能を備えています。従って、製品の選定自体に大きな問題はありませんし、さほど難しくもないはずです。

 しかし、SCMシステムは意思決定の材料をそろえるためのツールです。意思決定を下す基準や、そのために必要な材料、意思決定に必要な材料を集めるためのマネジメント体制などは、会社によって大きく異なります。従って、SCMシステムは標準化やテンプレート化が困難であり、 「パッケージシステムを導入したが、自社には合わなかった」といったケースも数多く生じてきたのです。こうした事情が、“SCMシステムは使えない”と評される原因になってきました。

これからはコミュニケーション型のSCMが求められる

 では、SCMシステムは、どのような視点で選択すればよいのでしょうか? まず、SCMシステムは大きく2つのタイプに分類することができます。1つはエンジン型、もう1つはコミュニケーション型です。

 エンジン型とは、複雑な計算ロジックや統計モデルを搭載した、高額で高スペックなハードウェアをブン回して最適化計算を行う、というタイプです。このエンジン型は、サービスパーツの補充や、物流拠点・販売拠点への在庫補充計算のような、単純で大量な数量計算が必要な業務に合っています。実際、いまあるSCMシステムはほとんどがこのタイプであり、それなりに有効なパッケージシステムも存在しています。

 しかし、これまで述べてきたように、SCMシステムとは計画系業務に使うものであり、意思決定の材料をそろえるためのものです。そうした要件に、エンジン型は向いているとはいえません。事実、意思決定にかかわる計画系業務を「オペレーション」と混同してしまい、エンジン型のSCM製品を使って“自動最適化”しようとしたのが、過去の代表的な失敗パターンでした。すでに明らかにしたように、ほとんどの計画系業務は、PSIの過去、現在、未来を検討することを通して、リスクを勘案し、組織利益の最大化を狙う「マネジメント業務」なのです。

 その点で、いま求められているのが、コミュニケーション型のSCMシステムです。コミュニケーション型とは、サプライチェーンモデリングによって導き出した一連の業務プロセス、業務フローにかかわる各関連部門間での情報共有を、その会社のマネジメント体制に即した形で実現することにより、PSIの過去、現在、未来の「見える化」を支援する機能を持ったシステムのことです。つまり、最終的に判断を下すのはあくまで人間であり、そのために必要な材料をベストの状態で提供することがシステムに求められている、というわけです。

 今回のテーマ「SCM構築は、業務の可視化が大前提」に当てはめていえば、豊富な機能やスペックの高さだけに目を奪われて、システムを開発する側の視点だけで作られたエンジン型を安易に選んでしまうのではなく、自社の目標やビジネスモデル、マネジメント体制、サプライチェーンモデル、業務フローをしっかりと見据え、あくまで業務を行う側の視点で、自社の業務に最適なSCMシステムを選ぶことが、失敗しない最大のコツです。もちろん、これはSCMシステムに限ったことではありません。

筆者プロフィール

石川 和幸(いしかわ かずゆき)

株式会社サステナビリティ・コンサルティング

株式会社インターネット・ビジネス・アプリケーションズ

大手コンサルティングファームであるアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、日本総合研究所、KPMGコンサルティング(現ベリングポイント)、キャップジェミニ・アーンスト&ヤング(現ザカティーコンサルティング)などを経て、サステナビリティ・コンサルティングインターネット・ビジネス・アプリケーションズを設立。SCM、BPR、業務設計、業務改革、SCM・ERP構築導入を専門とし、大手企業を中心に多数のコンサルティングを手がける。IE士補、TOCコンサルタント。『だから、あなたの会社のSCMは失敗する』(日刊工業新聞社)、『会社経営の基本が面白いほどわかる本』(中経出版)、『図解 SCMのすべてがわかる本』(日本実業出版社)、『中小企業のためのIT戦略』(共著、エクスメディア)など著書多数。


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