実行系業務を支える「ERP」を正しく活用しよう「もう二度と失敗しない」SCM完全ガイド(4)(1/3 ページ)

「企業の競争力を向上させる」と、かつて鳴り物入りで登場し、多くの企業が導入したERP。しかし、実際に効果を挙げられたケースはとても少ない。その理由は、実行系業務と、それを支援するERPの本質を、正しく理解していなかったことにある。

» 2008年10月28日 12時00分 公開
[石川 和幸@IT]

上位の計画から合理的に導き出す生産・調達計画

 前回、『SCMは「人間」の仕事です』では計画業務のうち、需要予測(統計的需要予測/人的予測)、販売計画(需要計画)、需給計画(仕販在計画/生販在計画)について述べました。今回は実行系業務の説明に入る前に、まず計画系業務の残り2つ、生産計画と調達計画について解説しておきましょう。

■生産計画

 生産計画とは、需給計画を受けて、生産所要数から基準生産計画、いわゆるMPS(Master Production Plan)を決めるものです。MPSは文字通り基準としての計画であり、週もしくは月の単位(バケット)で立案し、製造現場における能力計画のインプット情報となります。

 これを基に、「小日程計画」という日単位の計画に展開し、製造指図につなげていくのですが、この領域では、計画業務と製造実行業務を明確に切り分けることが不可欠となります。この点については次回、製造現場のERP「MES」とSCMの関係をひも解く際に詳述します。

■調達計画

 調達計画には2種類あります。1つは「仕入商品」と呼ばれる外部購入品、もう1つは製造品の従属需要である部品、原材料の調達計画です。

 仕入商品の調達計画は、需給計画の「仕入所要」を基に計画します。その後は、購買指図を切り、発注につなげます。部品、原材料の調達は、MPSの結果を受けて、MRP(Material Requirement Plan)すなわち資材所要量計算を実施し、購買指図につなげ、発注します。いずれも、最終的には購買指図につなげて、実行系システムで処理できる領域にまで計画を落とし込んでいきます。

 なお、調達計画においては、調達リードタイムが長い足長部品について、ときに“枠取り”を行うことがあります。“枠取り”とは、購入数量を長期的に約束し、サプライヤからの供給を確実化するための取り決めです。枠取り数は必要に応じて見直し(ローリング)します。また、調達リードタイム短縮と在庫削減を狙って、「段階発注」を行っている企業もあります。調達計画を予定−内示−確定と分け、サプライヤが事前に納入準備を行うための余裕を与えることで、調達の確実性とフレキシビリティを確保するものです。

計画系業務と実行系業務の大きな違い

 さて、計画系業務の解説はこれで終わりです。以上のようなあらゆる「計画」を実現するための各種業務処理が実行系業務ということになります。ただ、計画系業務と実行系業務には、その性質に大きな違いがあります。

 実行系業務とは、具体的には受注→引当→出荷指示→出荷→売上・請求といった一連の販売・物流プロセスを実行するための業務や、生産指示→製造→実績計上という生産実行業務、また購買依頼→発注→入庫→仕入・買掛計上といった購買実行業務のそれぞれに、会計処理業務を合わせた業務です。

 換言すれば、実行系業務とは計画系業務で定めた計画を粛々と行う業務、といえます。あるいは、受注以降の処理を粛々と行う業務、もしくは一定の決まりに従い、粛々と会計処理を行う業務、ともいえます。すなわち、実行系業務とは経営的な判断を差し挟まず、単に決まりに従って行うべき「処理」に過ぎません。これが経営上の意思決定として行う計画系業務との大きな違いです。まずはこの点をきちんと認識しておくべきです。

■実行系業務を下支えするERP

 そして、こうした業務を下支えする仕組みとして登場したのがERPです。ご存じのとおり、ERPの基本コンセプトは“統合データベース”であり、販売・物流の業務と会計が直結されている、購買業務と会計が直結されている、生産業務と原価計算・会計業務が直結されていることが特徴です。

 “直結されている”とは、業務実行が即、会計仕分けにつながり、業務実行が即、総勘定元帳に転記される、ということです。例えば、原材料購買品の入庫があれば、入庫計上、在庫計上と同時に、仕入/買掛金と原材料/仕入が仕分けされ、総勘定元帳に転記されます。

 古いホストシステムでは、仕入や原材料在庫は月末に締めて、会計計上し、そのとき初めて取引額が分かる、というありさまでした。かつ月末の残高合わせ、計上処理に時間が掛かり、人手を要していたのです。

 それに比べて、ERPは迅速に業務実行の結果が把握できることから、「リアルタイムにビジネスが把握できる」「これで会社の競争力が劇的に上がる」と宣伝されました。日本でも2000年前後に大流行し、各社競うようにして導入していたのです。

 しかしERPを導入して、はたしてどれほどの会社が競争力を向上させられたと思いますか? 私は、競争力向上を実現できた会社は少ないと思っています。話として聞くだけではなく、コンサルタントとして各社と直接お付き合いしてきた中でも、「何も変わっていない」というのが私の実感です。

 各社とも数十億から、下手をすると数百億もかけてしまったERPなのに、なぜ会社の競争力向上につながらなかったのでしょうか。実行系業務のポイントを認識していれば自明の理ではあるのですが、ここではあらためて、ERPの本質を私なりに考察してみましょう。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ