実行系業務を支える「ERP」を正しく活用しよう「もう二度と失敗しない」SCM完全ガイド(4)(3/3 ページ)

» 2008年10月28日 12時00分 公開
[石川 和幸@IT]
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ERPに任せる業務、任せない業務を、きちんと切り分ける

 さて、いっときはあれほどもてはやされたERPですが、しょせんは単純作業を処理する一システムに過ぎないということが、あらためて理解できたのではないでしょうか。システムで処理できることはシステムに任せればいいのですが、競争力に関係する部分は、やはり人間に依存する部分が大きくなります。

 ERPは単なる業務処理の道具です。変な幻想を抱かず、単なる道具として、人間の下僕として扱えばいいのです。もちろん否定しているわけではありません。きちんと使えばこれほど役に立つものもありません。どんどん上手に使いこなしましょう。ただ、間違ってもERPをやみくもに礼賛するような過ちを犯すべきではない、ということです。

業務の本質を見据えて、誤った投資を防ぐ

 実行系業務に対する認識も、ここでもう一度確認しておくべきでしょう。実行系業務とは、受注、出荷、発注、会計処理など、主に伝票を使った業務処理です。かつては業務システムのほとんどがこの領域を支援するものでしたし、ユーザーとなる現業部門の人々にも分かりやすい領域です。従って、システムを使って企業競争力を高めようというときも、つい実行系業務と実行系システムを中心に考えてしまう傾向がみられます。

 しかし、実行系業務は単なる「処理」であり、この領域には競争力など存在しないのです。SCMでいえば、意思決定である計画業務が、企業の収益性と保有資産をほぼ決定してしまいます。つまり、実行系業務は効率的に行えればそれでよく、実行系業務を支えるERPに「処理」以上の競争力を期待するのはハナから間違っているということです。

 もし機会があれば、ERPを導入した企業に質問してみてください。ERPを導入して会社の収益は向上しましたか? 売上は増えましたか? 在庫は減りましたか? 顧客は増えましたか?と。

 これらの質問に「本音」で答えるとしたら、Yesといえる企業は極端に少ないのではないでしょうか。私自身、ERPを導入済みの企業から相談を受けることが最近増えています。計画、生産など競争力向上にかかわる業務についての相談です。これはERPが競争力とは無関係であることの反証といえるのではないでしょうか。

 さて、計画系と実行系、どちらが会社として大切でしょうか。お金をかけるべきはどちらでしょうか。答えは明らかに「競争力に関係する仕事」のはずです。経営者、各業務のエキスパートは、業務の本質を見据えて、システム全般に対して厳しい審判の目を持たなければいけません。そうしないと、ERPに限らず、相変わらず莫大なコストをかけて、競争力に関係のないシステムを作り続けることになってしまいます。


 次回は、製造業にとって、競争力を下支えする製造業務をサポートする製造現場のERP「MES」とSCMの関係をひも解きます。

筆者プロフィール

石川 和幸(いしかわ かずゆき)

株式会社サステナビリティ・コンサルティング

株式会社インターネット・ビジネス・アプリケーションズ

大手コンサルティングファームであるアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、日本総合研究所、KPMGコンサルティング(現ベリングポイント)、キャップジェミニ・アーンスト&ヤング(現ザカティーコンサルティング)などを経て、サステナビリティ・コンサルティングインターネット・ビジネス・アプリケーションズを設立。SCM、BPR、業務設計、業務改革、SCM・ERP構築導入を専門とし、大手企業を中心に多数のコンサルティングを手がける。IE士補、TOCコンサルタント。『だから、あなたの会社のSCMは失敗する』(日刊工業新聞社)、『会社経営の基本が面白いほどわかる本』(中経出版)、『図解 SCMのすべてがわかる本』(日本実業出版社)、『中小企業のためのIT戦略』(共著、エクスメディア)など著書多数。


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