実行系業務を支える「ERP」を正しく活用しよう「もう二度と失敗しない」SCM完全ガイド(4)(2/3 ページ)

» 2008年10月28日 12時00分 公開
[石川 和幸@IT]

ERPにまつわる“幻想”を捨てよう

 例えば、ERPの導入ブームが起きたころ、「ERPが会社の競争力を高める」という言葉に付随して、以下の3つがキーセンテンスとなっていました。それぞれを落ち着いて検証してみれば、問題や矛盾をはらんでいることがすぐに分かります。

  • リアルタイム経営の実現
  • ERPのベストプラクティスを実装すれば競争力を向上できる
  • 業務をERPに合わせるべき

■「リアルタイム経営の実現」

 まず指摘したいのは、「そもそも企業はリアルタイム経営など行わ(え)ない」ということです。2000年当時は「日々決算」などと、いま聞くと噴飯もののキャッチフレーズがまことしやかに語られていましたが、「日々決算」などもともと不必要ですし、業務的にも不可能です。

 経営上の意思決定とは、ある一定のサイクルで行うものです。日々の状況変化に応じてリアルタイムに行うようなものではありません。実際、いちいち毎日の売り上げを見て、「明日はああしろ、こうしろ」という経営者がいるでしょうか。もし、いたとすると、いままさに倒産の危機にあって、日々の資金繰りしか注視していない「危ない企業」くらいで、大方は現場に任せているはずです。

 ましてや、毎日、決算数値を必要とするはずもありません。売り上げや来店客数、客単価や在庫などのシンプルな先行指標で状況を判断し、“日々決算”など不要のはずです。また、原価計算、在庫計上、本支店取引、海外取引、連結決算などがある会社では、そもそも毎日は決算などできません。毎日、決算修正が必要になり、現実的ではないのです。

 「販売サイクルが週や月で回る企業が、毎日決算する必要があるのか」といった見方もできます。 例えば、週末に商品が売れる傾向が強い企業が、週頭に決算してどうするのでしょう。月末に売れる企業が、月頭に決算してどんな意味があるのでしょう。

 “日々”行う必要があるのは販売現場での“売上集計”くらいです。むろん、その程度であればERPに頼る必要はありません。現場のスタッフが自ら集計し、明日の売り上げをどう伸ばすかを考えるだけでよく、“決算”業務など不要です。

 つまり、企業は“リアルタイム経営”など必要としていません。ITシステムは、あるサイクルでの経営判断に資すれば十分であり、それはせいぜい月次レベル、現場でも週次レベルです。仮に毎日決算をするとしても、そのためには莫大な時間と労力が掛かり、実行は不可能です。すなわち、 “リアルタイム経営”とはフィクションであり、ERPを売るためのセールストークだったのです。

■「ERPのベストプラクティスを実装すれば競争力を向上できる」

 結論からいうと、ERPにベストプラクティスなど入っていません。導入各社の平均的な実装結果を標準機能として取り込んだだけです。それにERPを導入するとき、どのパラメーターを設定してどの機能を実装するか、いつも問題になります。そもそもバリエーションが多すぎて、理解できないし選べないのです。

 まったく多くの“ベスト”プラクティスがあるものです。果たして、“ベスト”プラクティスの組み合わせが、理解できないほどたくさんあるものなのでしょうか。

 「これしかない」といった絶対的な意味での“ベスト”ではなく、「標準化され、多くの企業で使われている業務機能こそがベストだ」と理解すべきなら、それでもいいでしょう。では、各社で汎用的に使える標準化された機能が、会社の競争力向上につながるのでしょうか。答えは否です。せいぜい各社横並びが関の山でしょう。 まずここで、売り文句と矛盾が出てきます。

 加えて、競争力の源泉となる業務機能は、そもそも実行系システムには実装できません。ERPはあくまで実行系業務を支援するものです。受注、引き当て、発注、会計仕分けの仕方などを効率化するものであり、それらは企業の競争力にはほとんど関係ありません。差別化要素となるのは、製品開発力や、マーケティング、意思決定の迅速性、低コストのオペレーションなどであって、それらはすべて実行系業務ではありません。

 つまり、単なる“実行”機能しか持たないERPは差別化要因にはなり得ないのです。 そもそも企業の競争力とはシステムに実装できるような類のものでしょうか。答えはみなさんで考えてみてください。

■「業務をERPに合わせるべき」

 多くの企業が苦しんだのは、やはりこの点でしょう。この言葉を真に受けたばかりに、長年をかけてノウハウを蓄積してきた競争力ある独自業務を台なしにしてしまった企業を何社もみてきました。逆に、独自業務にこだわったのはいいものの、ERPを改造しすぎてほとんど手組みシステムと変わらなくしてしまった例もあります。

  この失敗の原因は、ERPに合わせるべき業務領域がどこなのか、最初にきちんと切り分けておかなかったことです。「ERPは差別化要因にならない」と書きましたが、ERPはそもそも差別化に無関係な業務領域に導入すべきなのです。

 例えば会計がそうです。会計は、さまざまな規則に縛られた業務であり、決まりに従った処理がなされるべきものです。受注、引き当て、購買発注なども同じです。競争力に関係のない業務は徹底的にERPに合わせればいいのです。

  一方で、競争力に関係する部分はERPに合わせる必要はありません。コアの競争力を生む業務をERPに合わせて、ダメにしてしまってはいけないのです。例えば、製造、開発、設計、需給計画などがそうです。意思決定が関係していたり、専門特化していたり、といった高度な業務を支援するシステムは、ERPとは切り分けて別に実装すべきなのです。

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