中国とまったく対照的なベトナムオフショア事情世界のオフショア事情(3)(2/4 ページ)

» 2008年08月04日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ株式会社]

中国のカントリーリスク、競合になったインドのIT大手

――その後、すぐにベトナムを視察されましたね。そのときの印象はいかがでしょうか

廣中氏 お客さまへの提案内容に信憑(しんぴょう)性を持たせるため、パートナーにお願いしてベトナムの開発現場を複数見学させてもらいました。行ってみて驚いたのですが、日中の暑いさなか、かなりの密度で開発していました。

 彼らに聞いてみると、日本からの案件の急増に伴い、開発スペースの確保が追い付かないとのことでした。長机にパソコンをたくさん並べて仕事をしています。CRTを使用しているということもあり、とにかく暑いのです。

――私は沖縄出身者なので、うだるような熱さがどれだけ作業効率を低下させるかを体で理解しています

廣中氏 ベトナム人技術者たちは、それでも平然とコーディングしていました。その開発会社は近日中に大きいビルに移転するとのことでした。アウトプットの品質を確認したかったので、作成した内部設計書を見せてほしい、とお願いしました。

ALT 資料だらけのテーブル

 早口で大声の開発会社副社長がベトナム語で部下に指示します。すると、部下は階段を駆け上がり5センチのバインダを持ってきました。日本語で書かれた内部設計書でした。全体的にざっと内容を確認、構成を把握して部分的にしっかり読んでみましたが、よくできた設計書でした。日本人の担当者と相当数のやりとりがあったことがうかがえます。

 「では、単体テストの結果報告書を見せていただけますか?」

 すると先ほどと同様に、部下の方は階段を駆け上がり、5センチバインダを持ってきました。こんなやりとりを繰り返すうちに、打ち合わせテーブルの上は、資料だらけになってしまいました。開発会社はこうして、正しい手順で高品質な開発を行っていることをとても熱心に私にアピールしてくれました。

――その後、すぐにベトナム開発が始まったのでしょうか?

廣中氏 いえ、すんなりとはいきませんでした。

 私がお世話になるシステムインテグレータさまに頭を下げて、何とかベトナムオフショア開発のトライアル案件を発注していただけるよう提案を繰り返しました。しかし、当然ながら、システムインテグレータさまも、すでに自前でオフショア開発を推進されています。

 ところが、たまたま私がお世話になっているお客さま企業の担当者が、中国オフショア開発のカントリーリスクを気にされていました。その会社は、私が提案するまでオフショアといえば中国一辺倒でした。

――中国のカントリーリスクとは?

廣中氏 詳しく話を伺ってみると、SARSウイルスや為替、政治体制などをカントリーリスクとして認識されているようです。最近では、2006年12月末に起きた台湾南部沖地震による海底ケーブル切断事故によって、一極集中のリスクがもろに顕在化しました。こういった理由では、中国沿岸部の人件費高騰を嫌って中国内陸部に進出しても、カントリーリスクは回避できません。

――最近はベトナムではなく、インドを選択する会社が増えていると思います

廣中氏 確かにインドも有力な選択肢の1つかもしれません。

 ですが、弊社のお客さまであるシステムインテグレータさまにとって、インドIT大手はパートナーというよりも競合会社です。そういったなかで、ベトナムでのトライアル実績は、システムインテグレータにも有意義だという認識がなされたのだと思います。

英語に疲れ切ってしまったトライアル発注

――後から振り返ると、単純ですが苦労されてベトナム発注の第一歩を踏み出されたわけですね

廣中氏 はい。何度も提案書をやりとりした後に、ようやく小さなトライアル案件を頂けました。

 ベトナム委託先への発注工数は5人月弱。案件は、工場向けの出荷用の製品の品質管理システムで、かなり専門的な業務知識が要求されます。ただし、新規の開発ではなく既存システムの改修作業です。画面に絵も出てきますので、業務や設計の説明は多少楽です。

 体制は以下のようになります。

ベトナムでの体制
エンドユーザー

SIer

T-Hoppers
ICHI Vietnum
開発会社
 
 
SIerのSEが設計レビューと総合テストを担当
 
T-Hoppersが外部設計とキャリー、受け入れテストを担当
 
ICHIのベトナム法人が、翻訳・通訳・開発PMを担当
 
ベトナムの開発会社が内部設計・開発・単体テストを担当

――では、早速トライアル案件の開発状況についてお聞かせください

廣中氏 中国での開発の場合でも同じなのですが、弊社で開発を行う場合には常にメーリングリスト(ML)を用意します。

 Webベースの掲示板的なシステムを利用する方法もあるのですが、日本国内にサーバを置いて中国やベトナムからアクセスする場合、開発会社はレスポンス面でストレスを感じると思います。

プロジェクト概要
  日本SE ベトナムSE
外部設計支援
0.5
オフショア開発コーディネート
1.3
内部設計
1.5
開発
2.0
内部結合テスト
1.3
合計
4.5人月
1.8人月

 MLであれば、各メールに自動採番された番号が付与されますので、コミュニケーションが楽になります。また、送信者自身にもメールが配信されますので、送信ミスや不達といった問題に気付きます。ささいな内容でも、MLベースでコミュニケーションを実施し、エビデンスを残します。電話を使用するのは、催促の場合くらいです。

 プロジェクトを発注していただいた段階で、システムインテグレータさまから頂いた要件定義書と改修元となる既存システムのソースコード一式をICHIのベトナム開発拠点(以下、ベトナム開発拠点)に送付しました。ただし、この要件定義書にはエンドユーザーさまの専門用語がちりばめられており、説明なしでは日本人でも理解するのは難しいものだと思います。

――業務知識について、中国とベトナムには違いがありますか?

廣中氏 お付き合いの長い中国オフショア会社のSEならば、エンドユーザーさまが作成した要件定義書が提供された後に、外部設計書以降で説明が入ることが分かっています。

 ですから、日本から専門用語がちりばめられた要求仕様が送られても、全体的な概要を把握するための参考ということが分かっていただけます。ところが、ベトナムの技術者から見ると今回が初めてのお付き合いです。不安だったのでしょう、多くの質問が発生してしまいました。

――Q&Aでは、どのような問題が発生しましたか?

廣中氏 最初に届いた質問票はすべてベトナム語で書かれていました。中国では、現地の通訳がすべて日本語に翻訳してくれましたので、まさに予想外の展開。思わず焦ってしまい、「せめて英語にしてください」と即座に投げ返してしまいました。

――とんだダメ会社をつかまされてしまいましたね?

廣中氏 いいえ。そうではなくて、実は私の勘違いでした。当時の質問票が添付されたメールには、以下のような一文が添えられていました。

There are possibly some points, we would like to confirm you about the requests. Although we can understand a little bit about the entire system. However, there are some unclear points we would like to ask. We are trying to collect, translate and give you the questions from the developers of ICHI VN soon by tomorrow.

 無料の自動翻訳サービスで日本語に訳すと以下のようになります。

「私たちは、すぐ、明日までに集まって翻訳して、質問をICHI VNの開発者からあなたに与えようとしています」

 後からメールを読み返して気が付いたのですが、どうやら私の独り相撲だったようです。ベトナム語で書かれた添付ファイルの質問票だけを見て、慌てて「せめて英語にしてください」と返しています。先方もさぞ驚いたことでしょう。

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