ここで、コミュニケータについて説明をしたいと思います。なお、コミュニケータの説明に限りませんが、会社ごとにも事情が異なるため「すべてがここで説明した通りである」というつもりはありませんし、「コミュニケータ」という呼称も、すべての会社で使っているわけではないことをご了承ください。
日本企業とのプロジェクト実施に当たり、日本企業から提供されるドキュメントの翻訳や、日本企業へ納品する成果物の翻訳、(TV会議や常駐時の)日本人メンバーとベトナム人メンバーとの通訳を専門に行うスタッフを、「コミュニケータ」と呼びます。コミュニケータはプロジェクトメンバーとしてアサインされ、ベトナム企業のプロジェクトリーダーがコミュニケータの稼働状況を管理します。
彼らの大半は大学で日本語を専門に学んできた人たちで、日本語検定1級または2級程度の日本語能力を持っていることが多いです。日本語が専門ということは、極端にいってしまえばITに関しては最初は素人です。研修や実際のプロジェクトの翻訳・通訳作業を通じて、IT用語の利用方法を覚えていきます。また、各社ごとにさまざまな工夫をしています。
例えば下記のようなケースがあります。
なお、日本語を話すブリッジSEの増大に伴う、コミュニケータ需要低下の可能性に対して、将来のキャリアに不安を抱えるコミュニケータもいます。
コミュニケータの中には、そのままコミュニケータとしてのキャリアを歩んでいく人もいれば、日本企業のニーズに応じて、ブリッジSEとして成長していく人もいます。日本の大手企業にはコミュニケータとして働いていた人を中途採用して、日本に連れてきて数カ月間トレーニングをし、ブリッジSEとして活用する企業もあります。日本でも多くの文系出身のITエンジニアが活躍していますし、ブリッジSEとしてコミュニケーション能力を重視するのであれば、この手法も興味深いです。
ところで「コミュニケータの工数はどう金額に影響するのか?」を、気にされる方もいるのではないかと思います。企業によっても違いますが、ほとんどのケースでは、開発費総額の5〜10%前後を開発費に乗せるか、コミュニケータ工数を意識させずに、開発者の単価に含まれているかのどちらかになります。
ベトナム企業とのプロジェクトを実施するに当たり、日本語の話せるブリッジSEがいたとしても、膨大なドキュメントをブリッジSEだけでは処理し切れないため、それらの翻訳にはコミュニケータが活躍します。これは中国・インドでも、大量のドキュメントの翻訳には翻訳者を使うケースがあるのと同様です。
また、ベトナム側企業のプロジェクトリーダー(窓口)が日本語を話さない、かつ、日本側企業が日本語でのやりとりを希望する場合には、普段のメールもコミュニケータ経由となってしまい、顔が見えにくくなるという欠点があります。
筆者は、相手がコミュニケータでもブリッジSEであっても、文書ベースであれば英語でのコミュニケーションを行う方が有効であると訴えたいです。
というのも、私たちはベトナム側企業の窓口となるメンバー、つまりコミュニケータやブリッジSEとだけプロジェクトを行っているのではなく、ベトナム側の開発者たちも含めたチーム全体でプロジェクトを行っています。従って、その一体感と信頼関係の構築には、リアルタイムでチーム全体に情報が伝わる英語の方が、より優れていると感じるからです。
やはり、コミュニケータやブリッジSEだけとのやりとりに終始してしまい、開発者の顔が見えなくなることは避けたいのです。メールで連絡する場合にはメーリングリストなどを使って相手チーム全員にメールがいくようにしたいのですが、連絡経路が複雑になってしまわないように、必ず双方の会社で発信者を限定するなど、いくつかの注意点が必要です。
英語でのコミュニケーションというと、身構えてしまうかもしれませんが、開発に使う言葉は大して難易度は高くないので、ぜひ試してみてほしいと思います。
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