ベトナムオフショア、言葉の壁は厚い?世界のオフショア事情(4)(3/3 ページ)

» 2008年09月02日 12時00分 公開
[霜田寛之(オフショア大學 講師),Global Net One株式会社]
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コミュニケータとのコミュニケーションの勘所

 コミュニケータがプロジェクトに割り当てられたら、彼らは開発メンバーと同様にプロジェクト成功のために一丸となるチームの一員になります。

 プロジェクトが長ければ長いほど、チームメンバー個々のスキルや特徴が見えてくるのと同様に、コミュニケータに関しても、どのような傾向を持っているのかをつかめます。当然ながらベトナム側に常駐していると、さらに細かく分かります。

 例えば、どのくらいのスピードでしゃべれば一番スムーズに理解するのか、どのような言い方をすればコミュニケータにも開発者にも分かりやすいか、どのような言葉を間違えやすいのか、などです。

 口頭で伝えたことや決めたことは、必ず後で文章で確認することが必須です。日本人同士でもこの点で失敗することが多いのに、ましてや間に1人入って、違う言語でコミュニケーションを取るのですから、当然といえば当然です。

 TV会議ではベトナム側に議事録を書いてもらい、日本側がチェックをするという方法で問題ありません。この議事録をそのまま輸出管理の記録にも使用できますので、一石二鳥です。

ブリッジSEとのコミュニケーションの勘所

 上記のコミュニケータとのコミュニケーションで挙げたこと、つまりコミュニケーションスキルの把握を意識して行うことは、日本語の分かるブリッジSEに対して接するときにも、同様に努めるとコミュニケーションのレベルが一段と上がると思います。

 特に日本語レベルが向上してくると、ベトナム人のプライドの高さもあって、分からないことを分からないといわないことがあります。そのような雰囲気を感じたら、理解した内容を要約して反復してもらいましょう。また、こちらから要求しないでも、業務内容の説明の際には常にそのように反復してもらう癖をつけてもらうと、理解不足であったときの対処が即座にできるでしょう。

 なお、日本への留学経験者は、もちろん語学力は相当に高いのですが、プライドも比例して、やはり相当高いといえます。間違いや理解不足は、相手の意見を「認めて」「質問して」「誘導して」正解にたどり着かせることができると、お互いに何の心理的負担もなく、むしろお互いの理解と成長につながります。

マネージャ層とのコミュニケーションの勘所

 日本市場との取り引きに絞った企業以外の場合、マネージャ層が日本語を話せる率は低くなる傾向にあります。

 また、そのような企業でまだ日本市場に対して慣れていない場合には、日本企業の特性をまだあまり深く理解しておらず、欧米顧客のような急速な規模の拡大を希望したり、大げさで過大なプレゼンテーションの実施を行うなど、日本企業からしたら若干戸惑うことがあるかもしれません。

 これは、どちらが良い悪いというわけではありませんが、予備知識として持っているといいかもしれません。

コミュニケーション言語における短期的な利益と長期的な利益の対立

 先ほど、「英語でのコミュニケーションを取り入れることにより、メンバー全員との一体感を出すことができる」と述べました。これは、いままで日本語だけで完結できていた仕事のやり方を変えるということにほかなりません。オフショア委託先企業に対する日本語運用能力を重視してきた発注側企業には、努力が必要かもしれません。

 短期的には、日本語運用能力の高い企業を選択することで、オフショア開発を効率的に行うことができることは間違いありません。ですが、発注者側の論理で日本語ばかり要求するのではなく、発注者側の語学スキル、コミュニケーションスキルも同時に磨いていくことが、長期的にはお互いに良い影響を出していくと考えます。

ALT ハノイの湖畔風景。ハノイは非常に湖が多く、湖畔で涼む人も多い。手前には屋台が見える

 少し大げさにいってしまえば、日本市場に対して過剰に最適化するということは、将来の変化に対して、また世界市場に対して柔軟性を欠き、全体最適されていない状態です。当然ながら、既存顧客の要望に最大限応える姿勢は悪いことではありません。ですが、より広い比較対象と知見をもって、ご用聞きにならずに提案を自らしていく姿勢が必要となっていきます。

 それはベトナム企業にもいえますし、私たち日本企業にもいえることだと思います。これまでの日本のシステム開発会社は、日本国内の市場だけで仕事をしてきており、その市場は現在も十分な需要があります。世界的に見て低い利益率と低い生産性に目をつぶれば、それで何の不都合もありませんでした。しかし、私たちが気付かないうちに、確実に世界の市場は変わってきています。ビジネスのルールそのものが変わってきています。また、日本市場がいつ突然不測の事態になるとも限りません。

 もし、この状態で“ゆでガエル”にならないようにするのであれば、日本企業も成長しなければいけないと思います。もちろん語学だけの問題ではありません。

 筆者は先日、米国のあるソフトウェアハウスに出張してきました。彼らは150人ほどの規模で(米国では珍しくありませんが)、最初から世界市場を相手にしたソフト開発を堂々と行っています。

 母国語の問題もありますし、全面的にそのやり方が素晴らしいという気はもちろんありませんが、日本のガラパゴス化(注:外界から遮断されているため、他者の影響を受けずに独自の進化を遂げること)を防ぐためにも、まずは視野を広く持って、何がこれから必要であるかを見極める力が必要となってきます。その一端として、オフショア先とのコミュニケーション言語から現場主導で少しずつ変えてみてもいいんじゃないか、そう筆者は思っています。まさに現場から変わっていく日本流の変革といえます。

 なお、筆者の実感としては、いまどきの大学生の英語力は以前と比較して徐々に伸びてきており、これから先の日本のIT業界においても、高い英語力と広い視野を有した人材が増えていくのではないかと期待しています。

 ベトナムも日本も、世界に出て行けるだけの潜在力は持っていると確信しています。どちらも周りの雰囲気に乗って力を発揮する国民性を持っているだけに、全員が強く自分たちの可能性を信じることで、日本もベトナムも、(日本は再び)世界のリーダーになることができると筆者は強く信じています。

 なお次回は地域ごとの人、企業、教育事情について執筆する予定です。

筆者プロフィール

霜田 寛之(しもだ ひろゆき)

オフショア大學 講師

Global Net One株式会社代表

日立ソフトにおいて、ベトナム最大手ソフト開発企業とのブリッジSEとしてオフショア開発プロジェクトに参画。現地ベトナム人の人間性の体験や優秀なエンジニアたちとの出会いを通してベトナムの可能性と魅力に取りつかれ、Global Net One株式会社を設立。

ベトナム活用のメリット、注意点をより多くの日本企業とシェアしてオフショア開発を成功に導くために、ベトナムに特化したオフショア開発コンサルティングやオフショアベンダ情報の提供と選定支援、ベトナム進出サポートなどを行う。

オフショア大學ではプロジェクトへの影響要因としてのベトナムの地域特性、文化特性について教鞭(きょうべん)を執る。


Global Net One株式会社http://www.globalnet-1.com/j/

オフショア大學http://www.offshoringleaders.com/


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