ベトナム人の購買行動世界のオフショア事情(8)(1/2 ページ)

オフショアの開発拠点としてだけでなく、市場としても可能性を秘めているベトナム。今回は現地の消費者の購買行動について紹介する

» 2010年08月04日 12時00分 公開
[霜田寛之(オフショア大學 講師),Global Net One株式会社]

今後拡大する市場を見極める

 「今日からあなたは、アジア太平洋地区の営業部門責任者です」と突然辞令が下りてきました。アジアでの売り上げに全責任を負うことになったのです。

 アジアでものを売る。ここからどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。大変そう、投資に効果が見合わない、サポートはどうするのか……などマイナスのイメージが強いかもしれません。しかし、もしも売り上げが伸び、会社の業績が良くなって、あなたの評価が高まったとしたらどうでしょう。

 もう1つ質問です。今後、経済が拡大していく市場はどこでしょうか。

 例えば、中国はどうでしょう。世界中が注目しています。特に最近は欧米企業が非常に速いスピードで中国進出しています。一方で日本企業は、何十年、何百年と中国と付き合ってきたにもかかわらず、その姿を見て慌てて取り組んでいるように見えます。

 東南アジアという意見もあるでしょう。日本の製造業に対して次の有望国を聞いた2009年のアンケート調査でベトナムは3位につけており*1、その理由として「現地マーケットの今後の成長性」「安価な労働力」が挙げられています。オフショア開発の発注先では、2009年度の件数でベトナムがインドを抜きました*2。オフショア開発の発注先としても認知が高まってきました。

 現地に拠点を構える日本企業も多く、NTTグループや富士通、味の素、日産自動車、本田技研工業(ホンダ)などが進出するほか、エースコックはベトナムの即席麺市場で7割のシェアを占めるそうです。ネット系企業では、サイバーエージェントの子会社「サイバーエージェント・インベストメント」が現地のネット企業に投資しています。

 今回は、市場としてこれから広がりを見せるベトナムにおける一般的な消費者の動向に焦点を当てます。

経済成長の概況と個人消費者の購買行動

 先日、ベトナムにいる知人が「iPad」を買いました(執筆時点で、ベトナムでは公式発売していない)。少しの期間で、家庭におけるPCもいつの間にか増えてきていることを実感します。ベトナム人のハイテク商品に対する購入意欲は強く、生活費以外の出費で新しいテクノロジに投資する人の割合は53%と、中国の43%、シンガポールの22%を上回ります*3

 ベトナムでは、3G携帯のサービス開始とともに、新たなモバイル時代が始まりました。「iPhone」もその盛り上げ役の1つとなっています。見栄か、実用かは人それぞれですが、たとえ高くてもiPhoneを買う人は一定数いるようです。

 ベトナムでは、経済成長に伴い購買力が上がっています。つい3年前には700ドルだった1人当たりのGDPは現在、1000ドルを超えています。2014年には1600ドルを超えるといわれています(※インドは1000ドル強、中国は3000ドル強、日本は3万ドル強が現在の目安)。2009年現在、ホーチミン市に限れば2800ドルを超えています。共働きの場合、世帯年収が1万ドルを超えている家庭もあります。ベトナム人の知人は月収約30万円の仕事をオファーされたそうです。このように、日本で働く日本人よりも給料が高いこともあります。

 これは何を意味するでしょうか。物価は上昇してきているものの、日本に比べてまだまだ安く、生活費以外に使えるお金も増えてきているため、消費は増え、嗜好品にも手が伸びます。もちろん現実にはエリート層と貧困層、都市部と農村部では経済格差があります。一部の富裕層が国全体の購買力を決めるわけではありません。それでも、停滞、もしくはマイナス成長の日本と比べると、力強い成長が見られます。

 実際に、ベトナムにおける小売・サービス業の売上高は2009年に1200兆ドン(約632億ドル)で前年比18.6%増加、2010年度の予測値は1440兆ドン(約758億ドル)で、前年比20%増加です*4

 企業の景況感は良好で、新規投資も増えてくるでしょう。調査によると95%の企業幹部が今年の増収、92%が増益を予想しています 。増収に向けた設備投資や雇用増加を実施、検討しているようです。

 ベトナムと日本の人口ピラミッドを見ると、市場の特性が分かります。日本の人口ピラミッドで少ない若年層が、ベトナムでは中心層です。先細りが確実な日本市場を、ベトナム市場が補完できる可能性があるということです。

ALT ベトナムと日本の人口構成

(*1) 国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」(2009)
(*2) IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「IT人材白書2010」(2010)
(*3) Nielsen Vietnam「Vietnam Grocery Report 2008」(2008)
(*4) ベトナム商工省(2010)


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