イメージに訴えて、要件定義を効率化すべしエクスプレス開発バイブル(2)(3/3 ページ)

» 2008年11月20日 12時00分 公開
前のページへ 1|2|3       

業務イメージ図の勘所

 さて、以上から、要件定義を進めていくうえでは、記号で表した業務フロー図、およびテキストベースの業務記述書のみで打ち合わせを進めるよりも、それらとともに業務イメージの絵を使った方が効率的に進められることはご理解いただけたかと思います。

 このイメージ図制作の勘所は、「分かってもらいたいところ」を中心に制作することです。例えば、図3の左端、本社でデータを作成するプロセスについては、フロー図の文字要素を残したまま、ごく簡単に図解しています。

ALT 図4 例えば通常のウォーターフォールと比較してみると、要件定義という作業自体を図のように短縮化できる

 普段の生活においても、新聞記事で読んだときにはよく分からなかったものが、絵や図をふんだんに用いた雑誌記事を読んでみたら容易に理解できた、といったことがよくあります。それは絵や図の多さだけではなく、訴求ポイントを絞って、うまく図版を活用していることもあるのです。

 これを要件定義に応用するとしたら、現行業務と新しい業務、それぞれ1枚ずつイメージ図を作成し、改善点を絵で解説するのも効果的でしょう。文字情報だけの業務フロー図、業務記述書のみに頼らず、業務イメージ図も作成するエクスプレス開発手法では、関係者全員の正しい理解を促進するとともに、図4のように要件定義という作業自体をスピードアップし、全体の工程を短縮化することができるのです。

業務イメージ図の利用の現実

 実際、筆者の経験でも、イメージ図を利用した案件の多くが、利用していなかったころの半分程度の期間で要件定義を完了しています。ただ、これは絵の力だけではなく、プレゼンテーションの順番も重要な要因となっています。最初の提案時にイメージ図を提出するのです。

 なぜ、最初にイメージ図を利用するかというと、そうすれば経営幹部などの決定権限者、システム管理者、担当者、ユーザーの関係者全員が正確にイメージを共有できるからです。

 特に、経営幹部とユーザーに理解してもらえることは重要なポイントとなります。例えば、最初の提案時に業務フロー図を持って行った際、経営幹部がシステム開発などの経験があればいいのですが、そうでない場合、前述の例のように「それではよく分からない」といわれてしまうことがあります。しょっぱなから「分からない」となってしまうと、その後「分かった」に持っていくまでには、かなりの時間を要します。

 従って、提案時にはまず業務イメージ図を提示し、そのイメージを関係者全員で共有したうえで、それから業務フロー図、業務記述書などを活用し、詳細な定義を確認していく方法が早道となります。

 ただ、絵を使う目的は、あくまで「正確に、迅速に伝えること」にあります。つまり常にこの方法を使うのではなく、相手に合わせた対応を考えるべき、ということも付け加えておきます。ここ数年間、筆者は特にRFIDのシステム開発などで、さまざまな業種・規模の顧客企業と付き合ってきました。その経験から言えば、特に流通業界ではイメージ図を好む企業が多いように思います。もちろん、ほかの業界でも図を好む企業は多いのですが、例えば製造業の場合、「仕様」や「品質管理」などのテキストによるドキュメントに慣れているケースも多いようです。

要件定義は待っていてはいけない

 また、要件定義にはどうしても、ある程度は時間がかかるものだ、という認識も忘れるべきではないでしょう。例えば、実際のシステム開発では、顧客企業が自ら業務フロー図や業務記述書、手順書などを作成して要件定義に臨む場合と、システムエンジニアが提案をし、それを顧客企業が承認していく2つのパターンがあります。前者の顧客主導型の場合は、顧客のスケジュールに、後者のシステムエンジニア主導型の場合は、その提案を顧客企業が理解し、社内で検討・確認する時間が必要となります。

 とはいえ、重要なのは、システムエンジニアやシステム企画担当者は回答を待っているだけでは要件定義は先に進まないということです。進まない理由があれば、それを早期に明確にして、1つ1つつぶしていかなければなりません。その進まない理由というのが、実は「新システムの利用イメージが分からない」ということであれば、今回解説したイメージ図をぜひ使ってみてください。そして積極的に提案を進めてください。顧客との信頼関係がいっそう高まるはずです。

筆者プロフィール

西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社 マーケティング本部フィールド・イノベーションプロジェクト員。物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、数々のプロジェクトを担当する。@IT RFID+ICフォーラムでの「RFIDシステムプログラミングバイブル」「RFIDプロフェッショナル養成バイブル」などを連載。著書に『RFID+ICタグシステム導入構築標準講座』(翔泳社/2006年11月)などがある。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ