では、そのイメージ図とは具体的にどんなものだったのか、一般的な業務フロー図と比較しながら紹介しましょう。
最近は内部統制との関連もあり、システムの要件定義を行う前段階として、対象業務の“3点セット”を並行して作成する、あるいは見直すという動きがあります。この3点セットとは、ご存じのように、業務フロー図、業務記述書、リスク・コントロールマトリクスです。
このうち、要件定義やシステム設計に直結するのは、業務フロー図と業務記述書です。その例として、ある商品の出荷業務を業務フロー図と業務記述書にしてみました。全体概要が業務フロー図であり、その詳細説明が業務記述書となります。まずは業務フロー図から説明しましょう。
これは、ある企業の出荷業務を大きく5つのステップに分解して図解したものです。1.本社での出荷データ作成→2.物流センタ事務所での出荷データダウンロード→3.物流センタ倉庫でのピッキングリスト(出荷するために、倉庫の保管場所から抜き取る商品のリスト)・納品書発行→4.倉庫での同書類受理とピッキング→5.倉庫での仕分けと検品、の5ステップです。
業務プロセスが進む順番通り、上から下に向けて、本社、物流センタ事務所、物流センタ倉庫の各部門を配置しています。左から右に向けて時間の経過を表現しています。
一方、業務記述書では、「誰が」「何を」「どうする」という切り口で、業務フローの詳細を説明します。
これらの業務フローチャートと業務記述書は、あくまで例なので簡単にまとめています。業務の現場で実際に使うものはもっと複雑になりますが、基本構造は同じです。
さて、ここまでは要件定義の打ち合わせにおいて、顧客企業もしくはシステムエンジニアが一般的に作成する資料です。しかし、本連載のテーマは『エクスプレス開発』です。もちろんこれらのドキュメントも利用しますが、最初は以下の図3のようなイメージ図を作成し、提示します。
いかかでしょう。テキストや簡単なチャートでは、ぱっとイメージしにくいことでも、絵を見ると容易にイメージできるのではないでしょうか。では、こうした“絵”と業務フロー図の違いは何なのでしょうか? 図1と図3ををよく見比べてみてください。主に以下のことが挙げられると思います。
つまり、対象業務を行う「人」と、人が操作する「対象物」、そして「環境」が表されていることが大きな違いです。
もちろん、これらの情報も業務記述書にある程度まで入れ込むことは可能です。ただ、システムの設計や業務改善などの話に慣れている人なら、業務フロー図と業務記述書を見ただけで、対象業務のイメージまでつかめるかもしれませんが、そうでない人にとっては絵があった方が圧倒的に分かりやすいのです。業務現場の写真やシステム機器(サーバ、ネットワーク機器、専用端末など)の画像を使うのもよいと思います。
また、筆者は、イメージ図は人、対象物、環境に加えて、「時間」と「距離」も表現できると考えています。例えば、図3で倉庫作業者がラックと商品の前にいるイメージや、店舗ごとに商品を仕分けしているイメージなどはいかがでしょう。
このように絵で描いてあると、倉庫スペースの広さ、ラックまでの移動距離、荷物の数や重さ、仕分けの手間といった数々の具体的なイメージがわいてきます。広い物流倉庫の現場で作業するには、移動の手間をはじめ、それなりの時間と労力が必要となることが想像しやすいのではないでしょうか。
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