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» 2008年11月20日 12時00分 公開

イメージに訴えて、要件定義を効率化すべしエクスプレス開発バイブル(2)(1/3 ページ)

システム開発の最初にして最大の難関である要件定義。ここをいかに効率的に乗り越えるかによって、その後の開発スケジュールも、顧客の信頼度も大きく変わってくる。

[西村 泰洋(富士通),@IT]

要件定義とは、そもそも時間が掛かるもの

 前回、『超短期開発を支える7つのエッセンス』として、家造りの文化について解説しました。今回からエクスプレス開発を支える具体的なノウハウを紹介していきたいと思います。

 まずは“7つのエッセンス”のうちの「提案と選択」からです。顧客の要件を定義してシステムを設計するのは、システム開発において最も重要な作業です。ここでボタンを掛け違えてしまうと、後でシステムを修正するのは困難なこともあり、システムエンジニアの間では「要件定義には時間がかかっても仕方がない」といった風潮があります。

 もちろんシステムエンジニアの立場からいえば、顧客企業側で迅速に要件を明確化してくれるに越したことはありません。しかし、顧客企業には業務上のあらゆる事情や制約があるため、すぐに詳細まで決め込むことはなかなか難しい状況にあります。

 また、新規でシステム開発を行う場合、その一部に最新のハードウェアやソフトウェアを導入するのが通例です。そのため、現在とは異なる未来の利用シーンも想像しながら話を進めることもあります。このことも要件定義に時間がかかる理由の1つです。従って、いくらシステムエンジニアが「早めに決めてください」とお願いしたところで、すぐに決定できるものでもないのです。

 では、これを効率化するにはどうすればよいのでしょうか? ここで家造りの文化に戻ってみましょう。家造りでは、顧客の要望を聞き出すのに白紙から聞くのではなく、施工例の写真、イラスト、カタログ、実物などを見せています。つまり、目に見える資料を提示しながら、具体的に確認をしていきます。システムで同じことをするのであれば、それは「イメージ図(イラスト)を使って要件を確認する」ということになります。

 十数年以上前になりますが、筆者が在籍していた日本通運では、顧客システムの要件定義をする際、システム開発に携わるメンバーは、新旧システムや業務の説明をするうえで、簡単な挿絵を資料に組み入れていました。例えば、「ハンディターミナル」という言葉の横にハンディターミナルの絵を入れるといった具合です。

 ところが、当時着任して間もなかった主任が、それをさらに発展させた資料を作成しました。それは業務を完全に絵にして、左から右に展開される4コマ漫画のようなイメージ図でした。もちろんPowerPointもWordもなかった時代です。そうした資料を作るには相当の工数が掛かることもあり、当時としては極めて斬新なアイデアでした。

イメージの力は絶大

 彼は当時、秋葉原を中心に急成長していた流通業の顧客企業を担当していました。しかし、それまで顧客に提案し、討議し続けていた業務フローについて、その企業の社長からなかなか了承が得られないという状態にありました。

 当初は彼も「業務フローに原因があるのだろう」と考えていたのですが、真の原因は違いました。実は、それまでの挿絵を付けただけの資料では、その社長が十分に内容を理解できていなかったようなのです。ある日、社長から「業務とシステムの関係がひと目で分かる資料を持ってきて」といわれて初めてそれに気付いたのでした。

 当時、ワープロ専用機のOASYSの点画機能などを使って、顧客が具体的にイメージしやすいよう、機器や設備の絵を提案資料に挿入するということは多くのメンバーがやっていました。しかし、この一件を受けて彼が作成したのは、“挿絵”ではなく完璧な“漫画”でした。そこには機器、設備の絵だけではなく、人の動きも描かれていました。

 そのためイメージ図を1枚作成するのに相当な苦労と時間を費やしました。しかし彼の描いたイメージ図を社長は大変気に入り、それがそのまま新しい業務プロセスとシステム概要を示す正規の資料となりました。以降、新旧の業務プロセスとシステムをイメージ図で表すことが、日本通運の文化の1つとして定着していったのです。

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