ただ、サーバ統合やシステムの延命措置、開発・テスト作業の効率化とは、いってみれば“短期的なコスト削減”に寄与するものといえる。この点について、入谷氏は、「仮想化のメリットは、単なるコスト削減ではなく、システム運用の柔軟性を大幅に高められる点にある」と指摘する。
その核となるのが、実行中の仮想マシン全体を別の物理サーバに無停止で移動させられる“モビリティ”という技術だ。これを利用すればシステムの可用性を大幅に高められるという。
例えば、システムをメンテナンスする際、従来はいったんシステムを停止させなければならなかった。そこで業務に影響のない週末の深夜帯や年末年始に行うケースが一般的だった。だが、モビリティを使えば、別環境でメンテナンスしておいた仮想マシンを、瞬時に本番環境の物理サーバに移すことができる。これによって、システムを止めずに随時サーバのメンテナンスが行えるほか、システムの信頼性向上、メンテナンスの人件費削減が狙える。
これまで、仮想化に対するユーザーの意識は、サーバ集約をはじめとする“物理的なコスト削減”にとどまっていた。しかし「物理サーバは減っても、仮想サーバが増えて管理が煩雑になった」といった課題から、ユーザーの関心は単なる「コスト削減」から、いかに「確実、効率的に仮想化環境を運用するか」といったフェイズに移りつつある。現に、モビリティについても、すでに多くの企業が注目し始めており、「仮想化の波は、確実に次の段階に向けて動き始めている」という。
こうしたトレンドを受けて、入谷氏はIDCジャパンが想定したという「仮想化ソリューションのロードマップ」を示す。同社では仮想化技術利用の発展を、大きく4段階に分けている。それによると、現在はサーバ統合やリソース配分を主目的とした“バーチャライゼーション1.0”のフェイズ。今後はモビリティや計画ダウンタイム短縮への活用が進む“バーチャライゼーション2.0”に移行する。
さらに計画外ダウンタイム削減やHA(高可用性)、ディザスタ・リカバリ、またリソースの最適配分を自動化するワークロードバランシングが進む“バーチャライゼーション2.5”、そして最終的には、必要なときに必要なだけリソースが割り当てられ、必要なアプリケーションをネットワーク越しに利用できる、いわゆるユーティリティコンピューティングやクラウドコンピューティングを実現する“バーチャライゼーション3.0”のフェイズに移行するという。
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