ITサービスをマネジメントする「ITIL」とは?特別企画 あらためて学ぶITキーワード(2/2 ページ)

» 2009年03月12日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]
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ITIL導入のメリットは“IT運用の見える化”

 では、ITILを導入するメリットには、どのようなものが期待できるのだろうか。

 導入メリットは、「システム運用者」と「経営者」の2つの視点から考えることができる。システム運用者にとってのメリットとは、運用をシステム化することで、日常業務の効率化が期待できる点だ。トラブル対応を例にすると、ITIL導入によって「ITリソースの構成が把握できている」ことや、「過去の事例を参考にできる」「対処の手順が明確化されている」ことなどから、効率的に対応できるようになる。

 他方の経営者のメリットは、見えにくいIT運用の負荷やコストを“見える化”できる点だ。例えば、ITILではインシデント管理のログをすべて記録する。そのため、サポートの負荷や作業量がどの程度なのかを定量的に把握することができるのだ。この見える化がきちんとできていれば、運用コストを正確に算出できるほか、作業量に対して人が少なすぎるのか、多すぎるのかを判断できるようになる。

 このように経営者は、システム運用者の業務量と運用コストのバランスを定量的/合理的に判断することで、サービスレベルを保ちつつ、コスト削減を図ることができる。そして、ITシステムの顧客であるユーザーに対して、サービスの質を改善することも、ITIL活用のメリットだ。

これからのスタンダード、ITIL V3が登場

 このように多くの企業に浸透してきたITILは、2001年にITILバージョン2(ITIL V2)が、2007年5月には最新の「ITIL V3」が出版された。ITIL V3では、どのように変わったのだろうか。

 旧バージョンであるITILやITIL V2では、最もITILとの利害関係が深いシステム部門が導入を始めるケースが多かった。この場合、システム部門は自部門の負荷軽減を重視して導入しがちになるため、本来ITILが目指すべきである全体最適を忘れて個別最適を目指した結果、失敗するケースがあったという。また、ITILの中心である「サービスサポート(通称:青本)」と「サービスデリバリ(通称:赤本)」のみしか参照しないことが一般化し、これも誤解を招く原因となっていた。

 最新版のITIL V3では、こうした反省に基づき、ITサービスを新たな枠組みで提示している。まず、ITIL V3ではV2の7冊構成から、「サービス戦略」を核にして、「サービス設計」「サービス移行」「サービス運用」「継続的なサービス改善」という5冊にまとめた。

 また、ITILやITIL V2で重視されていた「サービスプロセス」に対し、ITIL V3では「サービスライフサイクル」という考え方に変わっている。サービスライフサイクルとは、さまざまなプロセスが相互に関係できるように再構成したものだ。これにより、サービスサポートとサービスデリバリにしか目が向かないという企業が少なくなると考えられている。

 そのほか、従来はステップ・バイ・ステップで進んでいたバリューチェーンが、複数の組織間で連携でき、複雑な形に対応できるバリューネットワークに進化している。システム部門が提供するサービスに対しては、さまざまなプロセスからでも手を着けることができるバリューネットワークの方が融通が利くからだ。

ITILに終わりはない!

 このように最新バージョンが登場し、進化しているITILだが、ITILの取り組みに終わりはない。ITILの取り組みは、システム運用と同様に半永久的に続くものだ。定期的にPDCAサイクルを回し、メンテナンスをすることが重要となる。

 ITILでは、「プロセス(Process)」「ピープル(People)」「プロダクト(Product)」の“3つのP”の重要性がよく指摘されるが、どれが欠けても大きな効果は期待できないものだ。

 もし、「ITILに大きな投資をしたにもかかわらず、効果が上がらない」という不満がある場合には、原点に戻って「自社の何が問題か?」「その問題をITILの活動を利用することでどのくらい解決できるか?」などを、具体的な道筋を想定して考え直してみるべきだ。

 ITILは、ITサービス上の多くの問題や課題を改善するための最善の方法を提示してくれるだろう。ぜひ、ITILをバイブルとしてではなく、参考書や攻略本として活用してほしい。

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