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» 2009年09月10日 12時00分 公開

全社の営業マインドを変えたERP中堅・中小企業のためのERP徹底活用術(1)(1/2 ページ)

近年、ERPは中堅・中小企業にとってもだいぶ身近な存在となった。しかし、導入したがうまく活用できていない例も数多く見受けられる。では、どうすれば望ましい効果が得られるのか? 年商50億〜500億円規模の企業に向けて、ERP導入・活用のコツを伝授する。

[鍋野 敬一郎,@IT]

ERP導入には、成功・失敗のパターンがある

 近ごろ、ERPはずいぶん身近な存在になりました。以前まで、ERPの導入には数億〜数十億円もの費用とぼう大な手間が掛かるのが当たり前でしたが、近年は数千万円レベルの、幅広い業種・業態に向けたERPパッケージ製品が多数登場しています。これを受けて導入に乗り出す中堅・中小企業も着実に増えつつあるようです。

 ERP市場動向にもその傾向は表れています。ノークリサーチの調査『2008年 中堅・中小企業向けERP市場実態調査報告』によると、2007年度のERPパッケージライセンス売上高は、市場全体で1064億円、前年度比106.6%と好調な数値を示しました。このうち、中堅・中小企業向けERP市場は778億円と前年度比104.9%を記録。2008年度は899億円で同115.6%になると、この調査では見込まれています。2009年度は多くの企業がIT投資を絞り込んでいるため、減少傾向に転じるでしょうが、ここ数年で中堅・中小企業でのERP導入が進みつつあることは間違いありません。

 しかし、残念なことに、導入件数が伸びた分、導入に失敗するケースも増えているようです。その原因はさまざまですが、あらゆる事例を客観的に眺めていると、「ERPを従来のシステム構築と同じ考え方で導入してしまった」「業務とシステムのギャップを放置したまま導入してしまった」など、ある程度、失敗パターンを整理できるように思います。

 ERPを導入する中堅・中小企業の多くは、老朽化した既存システムを置き換えることを主目的としています。しかし、ERPは従来の業務システムと違い、複数の業務にまたがる機能を持っています。この点で、既存システムの機能をそっくりそのままERPに置き換えるのではなく、各システムの機能を整理し、必要なものを絞り込んだうえで“統合する”ことが導入のポイントとなるのですが、これを理解していなかったために、導入したがうまく活用できない、といったケースが数多く見受けられます。

 逆に、導入に「成功した」と目されている事例では、そうした“統合”作業をクリアしているのはもちろんですが、ERPで集計した数値を“見える化”する仕組みを作り、然るべき情報を全社員で共有して着実にPDCAを回している、といった例が多く見受けられます。つまり、失敗、成功ともに、いくつかの“パターン”が存在するのです。

 コスト面では、ERPは確かに導入しやすくなりました。しかし現状をみる限り、導入・活用のノウハウ、ポイントが十分に知られていないため、中堅・中小企業が“使いこなす”には、まだハードルが高い部分が残されているように思います。

 そこで本連載は、そうしたハードルを少しでも下げるべく、年商50億〜500億円規模の中堅・中小企業に焦点を当て、ERP導入のさまざまな成功・失敗事例を紹介していきます。これを通じて導入・活用のポイントを浮き彫りにすることで、皆さんのケースにも適用できる“成功の法則” を、分かりやすく解説していこうと思います。

1つの機能がトップと会社全体の行動を変えた!

 では、第1回は成功事例から入りましょう。“成功”の中でも代表的なパターンとしてERPを使った情報の「見える化」により劇的な効果を挙げた、中堅専門商社 A社のケースを紹介します。

事例:中堅専門商社A社の“トップの行動を変えた1つの画面”〜機能構築編〜

 「社長、 このボタンを押してみてください。全社のリアルタイムの受注状況が、ひと目で分かるようになりましたよ! これまでは月初めに集計した一覧表を紙で報告していましたが、今後はこのボタン1つで、まさしく“いま”の状況を自動集計して、その一覧を瞬時に表示できるんです。例えば、誰かがいま1000万円の受注入力をすれば、その数字は即時集計されてデータに反映されます。最新のデータを集計するにはこの更新ボタンを、印刷はこの印刷ボタンを押してください。操作はそれだけです」

 経営トップにERP導入効果をひと目で実感してもらえる仕組みを作ろう──中堅専門商社、A社の情報システム担当者らがそう考えてSIerに作ってもらったのが、この「受注状況一覧」レポート機能であった。複数ある営業部門の営業担当が受注入力を行うと、そのデータを即時に自動集計し、全社の受注計画と実績値、達成率などに反映、一覧表示するという機能だ。「取引先別状況一覧」レポート機能も作った。こちらは取引先別の受注実績、売掛金額、未回収額、与信データ、前年実績など、営業と経理財務のデータを一覧表示する。

 当初は「老朽化した経理システムと販売管理システムをERPパッケージに置き換える」ことがERP導入プロジェクトの目的だった。しかし、社長や役員から「ERPを業務改革の手段として利用したい」との強い要望があったことを受けて、導入に合わせてこれらの機能を用意したのである。

 従来は、複数ある営業部門が、それぞれ販売管理システムを使って月の最終日に受注額を集計し、これを本部で取りまとめて、翌月の初旬に紙ベースで報告していた。しかしA社では、そうした実績値を報告する直前の月末に、今後の営業方針を決める「見通し会議」を実施しており、その場では会議数日前までの実績を基に集計した仮の報告書を使用していた。

 だが、見通し会議で使われる仮の報告書は、その後に集計される実績値とは隔たりがあることも多かった。見通しを立てるうえで、そうした実績との乖離(かいり)に、以前から強い懸念を抱いていた社長は、今回のERP導入を機に、販売活動の動きがリアルタイムで見える仕組みを要望したのである。


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