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» 2009年10月15日 12時00分 公開

中堅・中小企業のためのERP徹底活用術(2):毒にも薬にもなるERPの“ベストプラクティス” (1/2)

「このERPは大企業のベストプラクティスを集約した製品です。導入すれば大企業なみに経営を高度化できますよ」――そんな言葉に惑わされないでほしい。人と同様、企業の個性も各社それぞれ。他社のベストプラクティスが自社でも効果を発揮するとは限らない。

[鍋野 敬一郎,@IT]

“ベストプラクティス”はどの企業にも有効?

 近年、ビジネスやIT関連の話題において、「ベストプラクティス」という言葉がよく使われています。 「ある結果を得るうえで、最も効果的・効率的な実践手法」という意味です。

 1990年前半、欧米で誕生したERPが日本国内でリリースされた当時、「ERPは世界規模でビジネスを行う大企業の多くが採用している業務パッケージである」「ERPはベストプラクティスの集まりである」といった説明がなされていました。

 さらに、「欧米の大企業と同じERPパッケージを導入すれば、大企業と同様の業務プロセス、ノウハウ、手法を利用できる」「経営管理や各種業務を大企業レベルに引き上げられる」などといわれていたのです。これを受けて、多くの企業が「自社でも利用したい」と考え、ERPは幅広く普及することになりました。

 ERPを通じて大企業のベストプラクティスを手に入れる──この考え方は一見、間違っていないように思えます。しかし、人に個性があるように、企業にもそれぞれ文化や特徴があります。確かに、先行する大企業の業務プロセスやノウハウに学習すべき点は多いのですが、ターゲットとする顧客層やアプローチ方法などは企業によって異なります。これを無視してERPパッケージに含まれたベストプラクティスを採用し、先行する導入企業と同じことをしても、好ましい結果が出るとは限りません。むしろ従来のやり方を変えることで、それまで積み上げてきた実績や信頼を損なうリスクの方が大きいのです。

 また、日本で販売されているITシステム関連製品の多くは、欧米から輸入されたものです。ERPパッケージも欧米型の企業組織を想定して開発された製品ですから、そのまま導入しても日本の企業組織にはうまく適用できない場合もあります。日本独自の商習慣や考え方に基づいて構築、発展させてきた国内ベンダによる製品もありますが、自社の商習慣という問題がありますから、そのまま導入しても期待する効果はまず得られません。「ERPパッケージに反映されている」というベストプラクティスについても同様です。単純に成功事例だけで導入を判断すると、自社の文化や商習慣になじまないために、思わぬ失敗を招くこともあるのです。

“ベストプラクティス”を実践したとたん、クレームの嵐に

 今回はそうした失敗事例を紹介しましょう。「ERPを導入しさえすればベストプラクティスが手に入り、業績を向上できる」と考えてしまった中堅製造業B社のケースです。

事例:中堅製造業B社の「顧客の信頼を裏切った“ベストプラクティス”」〜前編〜

 「ERPを導入したという理由で、これまで通りの対応ができないというならば、残念ですが御社との契約を全面的に見直すことになりますが、よろしいですね?」──これまで最も親密な関係を築いてきた取引先の社長は、もう我慢の限界だといわんばかりに、ある日突然、最後通牒を突き付けてきた。その顧客企業を長年担当してきたB社の営業スタッフは、ただ平謝りすることしかできなかった。

 B社は汎用の機械部品を製造している中堅メーカー。その高い品質と幅広い製品バリエーションに強みがあった。近年は海外との取引が急激に増えたこともあり、今後の海外展開を見据えて老朽化したシステムをERPパッケージに置き換えようと考えたのだった。

 ERPパッケージを選定する過程で、B社のスタッフは“ベストプラクティス”という言葉や、欧米の大企業における導入事例などを知った。これにより、「この機会を生かして、先進的な発想や業務プロセスを最大限に取り入れたい」と考えるようになったのである。むろん、現状の業務プロセスとは異なる点も多かったが、将来のことを考えて、あえて「業務をシステムに合わせる」というアプローチを採用することにしたのだった。

 そして導入後、経営層から現場層まで、その“ベストプラクティス”に目を見張ることとなった。これまで在庫調整で苦労してきた同社にとって、そのERPパッケージに搭載された生産管理や調達手配の業務プロセスは画期的なものだったのである。

 従来の業務プロセスでは、「在庫回転率を向上させつつ、在庫水準を最小限に抑える」ことが難しかった。そのため、製品バリエーションが多い同社では、必然的に原材料と製品在庫を過剰に持たざるを得ない状況となっていた。しかし「受注を起点とした生産計画、生産管理」という“ベストプラクティス”を取り入れれば、無駄を大幅に削減できる。B社はそんな期待を持って「在庫を50%削減」「コスト削減効果は初年度で1億円以上」と試算したのだった。

 そしてERPシステムは、予定通りの期日に稼動を開始した。当初は何の支障もなく、期待はまもなく実現するかのように見えた。ところが、その後しばらくしてから、取引先の商社、代理店、さらには自社の営業部門から次々とクレームが届き始めたのである。


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