CIOは、“効果額”で攻めのIT活用を啓蒙せよ進化するCIO像(8)(3/3 ページ)

» 2009年12月17日 12時00分 公開
[碓井誠(フューチャーアーキテクト),@IT]
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年間270億円、投資額の数十倍のコスト削減を記録

 以上による省力化、コスト削減効果は非常に大きなものとなった。まず、伝票を使った「仕入れ検品」「伝票の手修正」「伝票の本部への送付」「本部での会計入力」といった作業が必要だった時代に比べると、店舗における「1日の総人時に占める会計業務の人時構成比」は、約6%から1.5%へと、3人時以上削減できた。ちなみに残った1.5%は、1日に3〜4回行われる「レジの現金在高と、レジ締めデータとの照合作業」である。また、、店員と配送ドライバーの立ち合いでの検品作業を廃止したことにより、加工食品や雑貨などの物流コストを6分の1削減することができた。

 一方、仕入れ検品システムを使った「会計自動化」による店舗の年間削減コストは、紙の伝票を使って手作業で業務を行っていた時代に比べて、1店舗当たり平均110万円に上った。これは1店舗の1カ月当たりの平均利益金額に相当する。

 この効果を1万店規模で概算すると、店舗省力化で年間110億円、本部の会計業務では年間40億円、物流コストは年間120億円、合計270億円のコスト削減となった。年間270億円というコスト削減は、当時の店舗総合システム全体の年間運用コストの2倍に上った。この実現のために費やした、会計システム部分の年間運用コストと比較すれば、数十倍×数年分のリターンといってもよい。

 なお、270億円のうち「仕入れ伝票廃止による効果」だけを切り出しても、店舗、本部、ベンダで年間合計2億2000万ピース必要だったため、用紙代・プリント代で年間4億円、伝票の業務処理コスト、保管コストの削減で年間10億円、実に合計14億円の削減となった。仕入れ伝票廃止によるペーパーレス化は、現在、多くの企業が取り組みつつあるが、仮に日本の中規模以上の小売業全体で実現できれば、年間250億円程度のコスト削減が可能と思われる。

効果を明確に示し、“闇雲なコストカット”の風潮を打破せよ

 さて、今回は店舗会計業務の自動化について詳しく説明したが、伝えたいのは効果の大きさそのものではなく、“攻めのIT活用”の一例である「業務プロセスのワークフローシステム化」という考え方と、その効果の表現の仕方である。つまり、経営トップをはじめとする社内関係者にITシステムの機能や効果を示す際には、いかに効果額が大きく、業務の容易化と品質向上につながるかを明確に示すことが大切なのである。

 特に、情報分析システムやCRMなどのITシステムで推定効果として挙げられるものは期待値を含む予測効果であるのに対し、人件費や事務処理費などは現状の数値を基に、システムの投資効果を明確に計算することができる。ベンダやSIerなどから聞いた事例などをそのまま伝えても十分な理解は得られない。自ら考え、自社の業務に当てはめて、一般論ではない“自社における効果”を具体的に伝えるべきである。

 そのポイントとなるのが、“投資額”ではなく“効果額”である。業務改革とIT活用に投資した結果、コスト、業務プロセス、業務品質のそれぞれでどれほどのリターンがあるのか――経営や業務の舵を握る人間の視点に合わせて情報を置き換えることで初めて、経営判断をスムーズに引き出すことができる。


 CIOは、IT活用の効果を明確に示すことにより、IT活用における“コストカット志向”の風潮を打破し、正しいIT活用と投資効果の最大化に努めることが重要である。

そのためにも、ITの進化とIT活用の成功事例を幅広く学習し、「業務改革」と「システム革新」を連動して実現する必要がある。

著者紹介

碓井 誠(うすい まこと)

1978年セブン-イレブン・ジャパン入社。業務プロセスの組立てと一体となったシステム構築に携わり、SCM、DCMの全体領域の一体改革を推進した。同時に、米セブン-イレブンの再建やATM事業、eコマース事業などを手掛けた経験も持つ。2000年、常務取締役システム本部長に就任。その後、2004年にフューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)取締役副社長に就任(現職)。2005年には上海用友幅馳信息諮詢有限公司、副董事長に就任(兼務)。実務家として、幅広い業界にソリューションを提案し、その推進を支援しているほか、各種CIO団体での支援活動に努めている。また、産官学が連携した、サービス産業における生産性向上の活動でも各種の委員会活動や、独立行政法人産業技術総合研究所、研究顧問(サービス工学研究センター)を務めるなどIT活用による業務革新とCIOの在り方をメインテーマに、多方面で活動を行っている。2009年9月より芝浦工業大学大学院 工学マネジメント研究科 教授に就任(兼務)。


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