CIOは、“効果額”で攻めのIT活用を啓蒙せよ進化するCIO像(8)(1/3 ページ)

リーマンショック以降、多くの企業でコストカットの風潮が渦巻いている。だが、そうした中でも、企業を取り巻く環境は変容を続け、顧客は常に新たなサービス、新たな付加価値を求め続けている。“攻めのIT活用”を考えるべきCIOは、この厳しい状況の中、いったいどう振る舞えばよいのだろうか?

» 2009年12月17日 12時00分 公開
[碓井誠(フューチャーアーキテクト),@IT]

コストカットの風潮をどうみるべきか

 第7回『CIOは、ITをものにすべく努めよ』以降、しばらく休ませていただいたが(「近況報告」参照)、その間も本を著したり、大学で教鞭を取るなどしつつ、さまざまな角度から世の中の変化とCIOの在り方を見直し続けてきた。そうした中で、あらためて感じたのが「CIOは本当に進化しているのであろうか」という疑問である。

 表1は「各国のICT投資のGDP比率」、表2は「IT投資の方向性」についての参考データである。

セブン-イレブンが「ITをものに」してきた軌跡 表1 各国のICT投資のGDP比率。日本は諸外国に比べ、常に低位置にある(クリックで拡大) 出典:論文『Estimates of Multi Factor Productivity, ICT Contributions and Resource Reallocation Effects in Japan and Korea』Kyoji Fukao、Tsutomu Miyagawa、Hak K. Pyo、Keun Hee Rhee=著/『EU KLEMS Series Vol.?』/EU KLEMS/2008年(日本、米国、EU加盟国を対象とした生産性に関する国際比較プロジェクト、EU KLEMSに寄せられた論文)

 2001年のITバブルの崩壊以降、日本のIT投資は低迷を続けている。特に昨年よりの世界経済の構造破綻の中で、業務プロセスの革新や新たなビジネスモデルを創出するためのIT活用はいっそう影を潜め、陳腐化の回避や情報セキュリティ、内部統制、技術インフラの乗せ替えといった“守りのIT投資”が大半を占めるようになった。特に、インターネットやブロードバンド、携帯電話にけん引されたコンシューマ領域の進展に比べると、企業のITシステムは技術力、活用力、競争力の点で、その危うさを増している。

セブン-イレブンが「ITをものに」してきた軌跡 表2 諸外国に比べ、日本は“攻めのIT投資”に対して非常に消極的だ(クリックで拡大) 出典:ガートナー「IT投資目的の日米比較調査」(2008年)より

 しかし、こうした中でも、先進的な挑戦や、横展開を図ることで大きな効果が期待できるITの活用事例は一部の企業で生まれ続けている。すなわち、IT活用やサービス・イノベーションは停滞、低迷の危険をはらみつつも、新たな革新も並行して進展している以上、テクノロジが進化するほどに、その活用効果の優劣の格差は広がっていくとも思われる。

 では、多様化・多極化する社会、環境問題や持続的発展社会の形成という世界的な課題、生活者起点へのパラダイムシフトなど、新たな時代へ大きな転換点を迎えている中で、CIOは、自らの役割をどうとらえ直せばよいのであろうか。

 話が大袈裟になったが、ITの有効活用が進まない理由の1つは、ITバブル以降に広がりを見せた「ITをコストとしてとらえ、リストラの対象と考える」流れも影響している。そして、ITを投資効果でとらえられなくなった背景には、「攻めの経営」や「攻めのための守りの強化」、業務改革や新たなビジネスモデルの創出が少なくなっていることとともに、「IT部門がIT活用の効果を明確に打ち出せなくなっている」ことも一因である。

 その点、私は「IT活用は“投資額”ではなく“効果額”で考える」べきだと提案したい。今回はその一例として、私がセブン-イレブンに在籍していた際に開発し、現在は多くの小売業でも導入されつつある「店舗会計業務の自動化と伝票レスの推進」に取り組んだ折の事例を紹介しよう。

近況報告〜サービス・イノベーション活動のさらなる啓蒙に向けて〜

 本連載は2009年3月16日の第7回以降、しばらく休ませていただいたが、この間私自身の活動も“進化”といえないまでも複数の“変化”があった。 会社での日常業務と並行して行ってきた、サービスの生産性と付加価値を向上させるサービス・イノベーション活動において、私は多くの方々から学び、新たな視点を得、答えが1つではないことを知り、世の中の変化を痛感してきた。その1つのまとめとして『図解 セブン-イレブン流 サービス・イノベーションの条件』を7月に上梓した。 これは、約30年間にわたるセブン-イレブンのサービス・イノベーションの進展について、業務改革とシステム構築という2つの視点からまとめたものである。また、セブン-イレブン以外にも、10業種にわたるサービス革新の事例を幅広く取り上げている。システム構築や業務プロセス革新に携わる方には、ぜひご一読いただければと思っている。

 もう1つの変化は、2009年9月より芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科の教授を務めることになったことである。ここでは、実務経験豊かな20代〜50代の学生にMOT(Management of Technology)の教育を行っている。担当科目は「ITビジネス論」「IT経営の進め方」などである。 これにより、私自身の役割は、企業と大学という2つの場で、「サービス・イノベーションの推進と、ITシステムの活用提案」を図って行く方向へと変化しつつある。ただ、活動の場に変化があったとはいえ、私自身のテーマは何ら変わったわけではない。今後も常にビジネスの現場とその課題を見据え、自らの感覚を研ぎ澄まして世の中の変化に対応していきたい。


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