ITインフラの最適化は業務の区画整理に始まるIT共通基盤を整備せよ(1)(1/2 ページ)

システム構築において「全体最適」は繰り返し語られてきたテーマだが、多くの企業において現実の情報システムは全体最適の形になっていない。EMCジャパンは「全体最適はインフラから進めるべき」と語る。

» 2010年03月01日 12時00分 公開
[生井 俊,@IT]

サイロ型システムが抱える課題

 企業の情報システムが業務ごとに別々に構築・管理され、それ故に一貫した効率的な業務プロセスが実現できず、全社的な情報共有ができない状況は、しばしば窓のない倉庫=サイロにたとえられてきた。このようなサイロ状態を引き起こす主因は、部門や部署が独自にアプリケーションを企画・開発する“個別最適アプローチ”にあるといわれる。その背景には分散型のクライアント/サーバ型アーキテクチャ、あるいはWebアプリケーションの登場と普及がある。

 すなわち、PC/UNIXサーバとインターネット技術を基礎とする“オープンシステム”はそれ以前のメインフレームなどに比べて、圧倒的に安価かつ短期間での業務アプリケーションの構築を可能にしたが、同時に安易なシステム導入をうながすことになった。“増殖するIT資産”は一定規模以上の企業の情報システム部門にとって最大の問題の1つといえる。個々別々のユーザー要求に応じてシステム構築を続けた結果、社内の至る所に多様なハードウェア、ソフトウェア、データが散在し、システムの全体像が把握できないために運用管理コストばかりが肥大化してしまっているのだ。しかも多様なソフトやデータといっても実際には似たような内容のものが多く、実態としては多重投資になっている例も多い。

 この問題に対して各企業の情報システム部門やIT業界が無策だったわけではない。ITガバナンスEASOABPMといったコンセプトやソリューションが語られた。「全体最適の視点から全社横断的な共有型ITインフラを整備し、その上に連携可能なアプリケーションが柔軟に追加できるような仕組み」を構築しようという流れだ。このコンセプト自体は間違っているわけではないが、大量の既存IT資産を持つ企業にとっては体質転換を含めて、そこへ至る道は険しいものがある。要するにどこから山に登ればいいのか分からないのだ。

 現在、声高に叫ばれている仮想化も全体最適を強力に支援するテクノロジだが、技術的に可能になったからといって全社最適の情報システムが実現できるとは限らない。インフラストラクチャを最適化する道とは何か? EMCジャパンに聞いた。

インフラ可用性の度合いは、業務が規定する

 EMCジャパンでは2000年ごろから、情報システムインフラの最適化に関するコンサルティングを手掛けている。ストレージ統合のあるべき姿を描き出すサービスとして始まり、2006年に仮想化技術を使ってサーバ統合とストレージ統合を同時にデザインする作業に取り組んだのをきっかけとしてITインフラ全体を対象とするようになり、現在では「情報インフラストラクチャ・コンサルティング・サービス」というサービス名称になっている。

 情報インフラストラクチャ・コンサルティング・サービスには6つの領域があるが、その中核にあるのが「インフラ全体最適化サービス」である。このサービスは「データ分類・テンプレート」「アーキテクチャ・テンプレート」という2種類のテンプレートを使ってコンサルティングを実施する。

 同社グローバル・サービス統括本部 テクノロジ・ソリューションズ本部 コンサルティング部 部長の小坂進氏は、「システムインフラの見直しは、ビジネスプロセスの特性に即して行われるべき」と語る。

 例えば、小売業ならばサプライチェーン上のどこに商品があるかを見たい、経営陣が現在の在庫水準を知りたいという要求が考えられるが、その際に求められるのはリアルタイム情報だ。一方で、CRMSFAのように対顧客で良質なコミュニケーションを指向する領域もある。

 両者で求められるシステム要件は当然異なる。従来のサイロ型システム構築では、アプリケーションごとにサーバやストレージ、ネットワークの要件を定義することになるが、これらのインフラ要件は非機能要件(システム性能や信頼性、拡張性、セキュリティに関する要件)であり、ユーザーが求めるものが必ずしも適正とは限らない。

 アプリケーションの機能要件は業務要件なのでビジネス現場のユーザーもよく分かっている。それに対して非機能要件はエンドユーザーにとって専門外となるため、詳細な要求を行うことはまれだ。勢い、非機能要件の定義・設計はシステム部門(インフラ担当)の仕事になる。その際、サービスレベルの程度をSIerや情報システム部門が現場に聞けば「うちの部の業務は重要だ」と答えるに違いない。すなわち、全体の中での位置付けなしに個々のシステムの要件定義(非機能要件)を行えば、必然的に部分最適のアプローチになってしまう。そこで一定の基準を定めて、それに基づいてITインフラを全体最適しようというのがEMCジャパンの主張だ。

ALT 図1 業務の単位でシステム化を進めると、全体として整合性のない個別最適なシステムが出来上がる(提供:EMCジャパン)
ALT 図2 EMCの全体最適アプローチは、業務の重要度からサービスレベルを決定し、標準化を進める(提供:EMCジャパン)

 個々の現場の主観的な判断を排除し、ビジネスプロセスの重要性と緊急性を判断するためのツールとしてEMCジャパンが用意するのが「データ分類・テンプレート」である。これは一般に企業も有する業務を4つの区画(ゾーン)に分け、それに沿ってインフラポリシーを策定できるようにしたものだ。4つの区分とは「リアルタイム」「コミュニケーション」「バックオフィス」「インテリジェンス」である。

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