ITインフラの最適化は業務の区画整理に始まるIT共通基盤を整備せよ(1)(2/2 ページ)

» 2010年03月01日 12時00分 公開
[生井 俊,@IT]
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企業の業務は“区画整理”できる!

 「リアルタイム」とは具体的には、物流や生産などの業務だ。例えば、流通業なら顧客や取引先が商品がサプライチェーン上のどこにあるかを知りたいというとき、求められるのはリアルタイムな所在地である。「コミュニケーション」とは顧客・営業系の業務で、アプリケーションでいえばCRMやSFAなどが該当する。「バックオフィス」とは会計・人事といった業務であり、「インテリジェンス」は経営戦略の策定や実施状況の把握などを行う業務である。

ALT 図3 ビジネスプロセスは4つに区分できる

 「バックオフィス」と「インテリジェンス」はマネジメント関係の業務といえるが、これは高いリアルタイム性は求められない。例えば、会計データも人事データも重要な情報であることは間違いないが、会計業務は基本的にバッチ処理であり、人事事務で常時頻繁な大量データ処理が必要になることはあまり考えられない。

 これに対して「リアルタイム」に分類される業務は、リアルタイムかつミッションクリティカルな処理が要求されることが多い。実務オペレーションがある業種ではこの部分こそが本業であり、差別化のポイントであることが少なくないのだ。

 小坂氏は「リアルタイム以外の業務は、どの会社でもかなり似通っています。業種によって違ってくるのは“リアルタイム”の部分です」と語る。そこで、EMCジャパンではここをさらに「フルフィルメント」「ビリング」「アシュアランス」の3つに整理している。

 「フルフィルメント」とは、企業が顧客にサービスや製品を供給するための一連のプロセスをいう。「ビリング」は逆に、企業が顧客から対価を回収するための一連のプロセス。「アシュアランス」はこの2つのプロセスが適切に行われているのか、より良いオペレーションにするにはどうすればいいかというような業務品質の向上や改善を検討する業務領域だという。

 「ビリング」は、リアルタイム性が要求される「フルフィルメント」ほどの緊急性はなく、基本的には月次のバッチ処理で問題ない領域である。緊急性は求められないものの、バッチ処理が始まったらアベンド(異常終了)はさせたくない、その日に処理を終えたいというニーズがある部分だ。従ってその要求に応じて、インフラのデザインとしては可用性保障を手厚くしておくことも求められる。

 「アシュアランス」は、例えば過去3カ月の実績を分析して業務改善の視点からメスを入れるとすると、どこが一番効果的か、あるいはコストが抑えられるかを判断するといった領域となる。こうした支援システムが充実しているかどうかで、その企業の管理レベルが分かる。この領域を支えるシステムはデータウェアハウス/データマートを利用することが多く、システムには緊急性が求められない。

 このように業務はその緊急度やミッションクリティカル性(重要性)を軸にして、インフラ視点で区画整理できる。この業務区画を基にして「ここはお金を掛けてでもクラスタリング構成にする」「バッチ処理に強いようなインフラにする」というようにシステムを作るとアプリケーションと親和性の高いシステムインフラを低コストで実現できるというわけだ。

納得感のある基準で理論武装を

 企業の情報システムに掛かる費用のうち、運用管理コストが6割とも7割ともいわれている。これは冒頭に述べたように個別最適による多重投資、システム複雑化に起因する運用管理の手間の増加などもあるが、オーバースペックなシステムに固執しているためという側面もあるようだ。

 システム部門としては「本来、あなたたちの業務はサービスレベルBでいいのではないか?」と思っていたとしても、社内ではなかなか通用しないのが現実だろう。一般に会計データは社内の重要情報ということになっているが、上述のテンプレートでは「緊急性がないのでBクラス」ということになる。しかし、会計システムは絶対にメインフレームでないと駄目なんだと主張する担当者は少なくないという。「そういう場合に、情報システム部門だけでは理論武装できないので弊社のサービスが使われる場合もあります」(小坂氏)のだそうだ。

 本来的にいえば、ITの全体最適はアプリケーションを含むビジネスプロセスの。BPRを進めることでしか実現できない。しかし、業務プロセスの改善は社内の利害調整や役割変更などが発生し、改善の指標としてビジネス貢献度をどう設定するかなど、どうしても時間が掛かる。

 それに対して、インフラは最適化しやすい。サーバやストレージなどの物理的ハードウェアは減価償却やリース契約の期限、演算能力や電力消費量などの性能向上ロードマップがあって入れ替えの時期を計画しやすく、導入時に標準を決めてそれを徹底しやすい。小坂氏も「実現容易性、速効性、コスト削減効果の大きさのどれをとってもインフラから始めるのが一番有利」と主張する。

 インフラ最適化を進めるに当たってビジネスプロセスの区画整理をするのは、これに基づいてビジネスインパクト分析をしてインフラデザインに活用するためだが、同時にアプリケーションを含むIT全体の最適化の基礎を築くうえでも、優れたアプローチだといえそうだ。

 次回はアプリケーション部分の最適化とクラウド化の関係についてみていこう。

著者紹介

▼著者名 生井 俊(いくい しゅん)

1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコー、都立高校教師を経て、現在、ライターとして活動中。著書に『ディズニーランド「また行きたくなる」7つの秘密』『本当にあった ホテルの素敵なサービス物語』(ともにこう書房)。


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