この先10年のエンタープライズITを大胆予測する特別企画:時事コラム(1)(1/3 ページ)

クラウドコンピューティングの台頭により、さまざまな方面で変化が起きつつあるエンタープライズIT業界。2010年という区切りの時期に、ベンチャーキャピタル大手サンブリッジの社長として長年業界を見てきた永山氏が、エンタープライズIT業界の次の10年を予測する。

» 2010年03月29日 12時00分 公開
[永山 隆昭,サンブリッジ 取締役]

本記事は、ビートレンド株式会社が発行するメールマガジン「【Betrend】 ひらめき わくわく通信 Vol.61 および 62」から、@ITが許諾を得て転載したものです。


 今年は次の10年の入り口ということで、エンタープライズIT分野の未来について書こうと思ったのですが、予想通りというか予想以上というかとても難しいテーマでした。

 エンタープライズ分野では、次の10年は“クラウドの活用”が最も重要なトレンドとなることは、ほぼ間違いないと思います。

 そしてこのトレンドは、ほかのさまざまなテクノロジや製品分野の流行と違い、ハードウェアベンダ、ソフトウェアベンダ、SIerといった業界の主要プレイヤーすべてに対して計り知れない影響を与える可能性を持っています。

 まずは将来のクラウドの姿から始めて、関連する業界がどのように変化していくのか大胆に予測してみたいと思います。

次世代クラウド基盤を予測する

 アマゾンなどが提供している現状のクラウドサービスは、使い勝手の良いレンタルサーバの域を脱していません。

 企業が広く自社の業務システムを移行するためには、クラウド基盤は次の3つの点で進化する必要があります。

  • サーバの性能や台数を明示的に設定するのではなく、必要に応じてほとんど無制限かつ動的にCPUリソースを増減させることができる
  • あらかじめ容量を設定するのではなく、必要に応じてほとんど無制限かつ動的にストレージサイズを増減させることができる
  • あらかじめ上限を設定するのではなく、必要に応じてほとんど無制限かつ動的にネットワーク帯域を増減させることができる

 ネットワーク帯域の問題はいまでも解決可能だと思いますが、CPUとストレージに関してはまだ技術的なハードルがあるように思えます。しかし、クラウドブームに伴って、この分野へ投入される研究開発費は加速度的に増加していますので、2010年代の前半にはいずれも解決されるべき問題でしょう。

 真に次世代のクラウド基盤となるためには、技術的にもう1つ超えなければならないハードルがあります。

 それは社内に存在するサーバとクラウドのトランスペアレント(透過的)な融合です。必要なCPUリソースが少ない場合は社内に存在するサーバで処理を行い、それが増加してしてくるとクラウド上のCPUリソースを活用する。

 ストレージに関しても、使用頻度の高いデータは社内に置いておき、残りのデータはクラウド上のストレージに格納する。それを自動的(=ユーザーから見て透過的)に行ってくれるようになれば、クラウドは1つの完成形となります。システムの“サイジング”という言葉は死語となるでしょう。

 社内のサーバおよびストレージは、クラウド基盤に対するブローカーでありキャッシュの役割を果たすことになります。一般企業では、ブローカーサーバおよびキャッシュストレージに要求されるスペックはあまり高くありませんが、金融機関のようにミリ秒単位で大量のトランザクションを捌かなければならない場合は、依然として大規模なサーバおよびストレージを社内に抱えておく必要があるかもしれません。

 この次世代クラウド基盤を提供する企業を、ここではCPP(Cloud Platform Provider)と呼びます。

 CPPは上記のようにトランスペアレントでスケーラブルなプラットフォームをグローバルに提供する必要がありますから、全世界でも最終的に生き残るのは数社といったところでしょう。CPPの候補としては、アマゾンやグーグルセールスフォース・ドットコムといったネット系新興企業、マイクロソフトオラクルのような巨大ソフトウェアベンダ、IBMヒューレット・パッカードのようなIT総合ベンダ、大規模ISP・データセンタ事業者が考えられます。誰が勝ち残るにしろ、それは規模のメリットを最大限に生かしたグローバルプレーヤーでしかあり得ません。

 規模のメリットについて若干説明しておくと、それは余剰リソースの最小化によってもたらされます。クラウド上では24時間・全世界でリソースを共有することにより、社内で保有するのと比較するとCPUについては数十分の一、ストレージについては数分の一のコストで利用可能になるでしょう。CPPの規模が大きくなればなるほど、このコストメリットは大きくなるはずです。

 無限大のCPUパワーとストレージ空間が運用の手間や可用性の心配をすることなく、しかも安価に手に入る。そしてそのCPUとストレージの活用は、ユーザーから見ると社内にあるサーバやストレージを利用するのとまったく区別できない、すなわちトランスペアレントである。そんな時代になったらいったい何が起こるのか?

 それが次項以降のテーマです。

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