コア業務を認識すれば、ERPはもっと安く導入できる!中堅・中小企業のためのERP徹底活用術(4)(1/2 ページ)

ライセンス価格の引き下げなどにより、ERPは多くの企業にとってますます身近な存在となりつつある。しかし、依然として厳しい経済状況にあるいま、導入コストはできるだけ安く抑えたい。そのためには、自社にとってどの業務が重要なのか、あらためて見直してみるといい。

» 2010年04月08日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]

ERPはまだまだ高い?

 厳しい不況の中、多くの企業がIT投資を抑制し、基幹システムなどへの投資を凍結したり先送りしたりした結果、これまで堅調に成長を続けてきたERP市場も2009年はマイナス成長となりました。これを受けて、ERPライセンス価格の大幅な引き下げや導入費用の値引きが行われました。

 これにより、ERPは従来より確実に導入しやすくなりましたし、お買い得感も出てきました。しかしそれ以上に厳しい経営環境が災いして、導入を決断できる企業は多くありません。

 そうした状況にさらに追い打ちを掛けたのが、ERPの老舗で最大手であるSAPが2008年7月に発表した、ERPパッケージ保守料の値上げです。同社がそれまで年間ライセンス料金の17%であった保守料を、段階的に22%まで値上げすると発表したことを受けて、多くのユーザー企業が反発し、しばらく動向が注目されていました。最終的にはSAPが2010年1月、各国のユーザー会からの強い要望を受けて、18%の保守料を支払うプログラムと、22%とするプログラムの2つから選べるようにしたことで決着が付きました。

 しかし、保守料値上げのタイミングが世界的な景気悪化に重なったこともあり、ERPパッケージのソフトウェア年間保守料に対するコスト意識が高まるとともに、パッケージベンダに対する不信感も強まったようです。

 筆者が研修委員を務めるERP研究推進フォーラムでは、毎年ユーザー企業調査を実施しているのですが、2009年の調査によると「ERP運用に対する問題や不安」という設問に対して、「ベンダに支払う年間保守料」と答えた企業が62.1%を記録し、これまでで最も多い結果となりました。(ちなみに、2008年度調査では「バージョンアップ」の59.6%がトップで、「ベンダに支払う年間保守料」は54.3%で2番目でした)。

 いずれにしても、ITコストについては常に「より安く」というニーズがあります。導入テンプレートと呼ばれるひな形を利用したERP導入手法や、最近はやりのクラウドコンピューティングを利用したERPなどもそのニーズに応えるものです。

 今回はそうした状況を踏まえ、ERPをより安く導入するためにはどうすれば良いのか、事例を基に詳しく解説したいと思います。

導入コスト削減は、見積もりの最検討から

 今回紹介するのは中堅製造業、D社の事例です。「どの同業他社よりも安く」導入することを目指し苦慮するのですが、その取り組みはERPの導入コストを下げるための2つの重要なポイントを示唆してくれます。では、さっそく事例に入りましょう。

事例:できるだけ安くERPを導入するためには?〜前編〜

 「将来のビジネス展開を考えると、ERPパッケージをベースにした基幹システム導入は必須である。だが、わが社のビジネス状況は厳しく、ベンダが提示した費用を支払うことは難しい。そこでどの同業他社よりも安く導入する手段を検討してほしい。目標はベンダ提示額の半分だ!」――

 情報システム部門のスタッフを中心に編成された「ERPプロジェクトチーム」に求められたのは、実に無茶な条件だった。

 機械部品を製造する中堅メーカー、D社にとって、ERP導入は3年越しのテーマであった。老朽化した生産管理システムと在庫管理システム、そして会計システムをERPに置き換えるのが狙いであったが、不況による業績悪化の影響で実現を先送りし続けてきた。

 だが、ようやく景気の底が見えてきたほか、台湾にある子会社の対中国向けビジネスが好調であり、業績回復のめどが立った。そうした中、社長からプロジェクトメンバーにプロジェクトの再開が告げられたのである。その第一声がこの言葉であった。

 「今回導入を検討しているERPシステムは、将来の海外展開を見据えたものだ。知ってのとおり、生産管理、在庫管理、会計システムのうち、特に重要なのは生産管理と在庫管理だ。これらはわが社のコア業務だ。それをERPで実現することは、今後の事業展開を加速する手段として非常に重要だと理解している」

 「採用予定のERPについて、ベンダから約2億円の導入費用が提示されているのは知っている。しかし残念ながら、現在のわが社にはその余裕はない。そこで半分の1億円で実現する手段を考えてほしい。1億円に抑える方法が見い出せれば、このERP導入プロジェクトを進めたい。手段が見つからなければ、残念だがプロジェクトは見送るしかない。厳しいが、これがわが社の実状なのだ」

 メンバーの誰もが実現は不可能だと考えた。しかし社長からの要請は、「1億円でERPを導入するための実現手段を探してほしい」というものであり、完全に非現実的なことを求められているわけではない。できないとしてもその理由を説明する必要があった。そこで再度、ERP導入費用とシステム稼働後の保守運用費用のコスト構造について検討を行うことにしたのである。

 まず、提示されたERP導入コスト、2億円の内訳だが、ERPパッケージのソフトウェアライセンスが4000万円、ERP導入ベンダのSIサービスが1億円、そしてサーバやクライアントPCの入れ替えが4000万円、残り2000万円が帳票などの周辺システムの刷新に必要な費用であった。

 ERPパッケージのソフトウェアライセンス費用については、ライセンス契約数を絞り込み、再度パッケージベンダと交渉した結果、2500万円程度にまで値引きしてもらえることが分かった。しかし、ソフトウェアの年間保守料は標準価格がベースとなるため、年間約1000万円と割高だった。サーバやクライアントPCの入れ替え、および帳票などの周辺システムの刷新費用については、再見積もりした結果、3000万円程度に抑えることができそうであった。これは不況の影響で、ベンダが軒並み見積もり価格を大幅に値下げしたためだ。

 そして最後に残ったのが、約1億円近いERP導入のSIサービス費用である。どこまで抑えられるか、再度、複数の導入支援ベンダから見積もりをもらったが、最も安いベンダでも7000万円を下回ることはなかった。さらに、システム稼働後の保守運用サービスは月額200万円程度で、年間2500万円近い費用が必要とのことであった。

 つまり、ERP導入には最低でもライセンス費用(2500万円)、年間保守料(1000万円)、導入費用(7000万円)、保守運用サービス(2500万円)の計1億3000万円が必要であり、社長の要求である「ベンダによる提示額の半分」――1億円に抑えるのはかなり難しい条件なのであった。そのうえ、システム稼働後も年間保守料と保守運用サービスで毎年3500万円が必要であり、こちらも何らかの策が必要だと分かったのである。


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