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» 2010年04月08日 12時00分 公開

コア業務を認識すれば、ERPはもっと安く導入できる!中堅・中小企業のためのERP徹底活用術(4)(2/2 ページ)

[鍋野 敬一郎,@IT]
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“ベンダ任せ”にしないことは、コスト、業務の両面で有利

 さて、以上のようにあらためて見積もりを見直したことで、メンバーらは「社長の要求の実現はやはり難しい」と再認識します。しかし、ようやく巡ってきたERP導入のチャンスです。見積もりだけで結論を出すことなく、とにかく何か良い方法はないか、メンバー全員で情報収集を行いました。するとあるとき突然、解決への突破口が開いたのです。それはERP導入で先行する同業大手、A社の情報システム部長からの次のようなアドバイスでした。

 「ERP導入と保守運用を自社要員が中心となって行うようにすれば、費用の大半は人件費だけで済む。われわれの場合、導入はベンダに頼んだが、その後の運用や改修、グループ展開についてはベンダに頼むとコストが折り合わないため、やむを得ず自社要員で作業を行った」

 「その結果、追加開発などに時間はかかるものの、自社要員でもやればできることが分かった。むしろ保守運用については、自社要員の方がエンドユーザーのニーズを的確に把握できて、きめ細かい対応が可能となり、費用の低減にもつながった」

 沈滞していたメンバーらは、このアドバイスでにわかに活気付きます。そして再度検討を重ね、社長への報告に向かいます。では、引き続き事例に戻りましょう。

事例:ERPをできるだけ安く導入するためには?〜後編〜

 「社長、要請に従ってERP導入費用についてベンダとの交渉を行いました。その結果、当初計画ベースでベンダにERP導入を依頼すると、導入費用は約1億3000万円、システム稼働後の年間運用コストは3500万円が必要と分かりました。これでは現時点のERP導入は難しいという結果になります」

 社長の表情はにわかに曇り始めたが、プロジェクトリーダーは表情を崩すことなく続けた。

 「しかし社長、同業大手A社からいただいたアドバイスを基に、このような案を考えました。まず自社内にERP導入の専門部隊を作り、ERPパッケージの導入・開発コンサルタントを育成します。そのうえで、ERPの導入・改修をすべて自社要員で行うのです。この場合、教育期間の5カ月を含めると導入期間は15カ月となり、ベンダが提案する10カ月より長くなりますが、導入費用は1億円以下、9000万円に抑えられます」

 具体的には、次のような内訳であった。まずERPライセンス購入費用が2500万円、ERPパッケージベンダが提供するコンサルタント教育費用が1000万円、自社要員の増員および専任化による追加人件費に1500万円、ERP導入に伴うサーバやクライアントPCの入れ替え、および帳票など周辺システムの刷新費用に3000万円、そしてA社からの導入ノウハウ開示料に1000万円という内容である。

 最後の導入ノウハウ開示料とは、「現行システムを1000万円で開示しても良い。また、必要に応じて、ERP導入経験のある担当者が支援する」というA社からの申し出によるものである。A社とは業務処理上の共通点が多かった。生産管理、在庫管理という2つのコア業務をERPで実現する以上、A社の導入・改修ノウハウを学び自社要員で作業を行うことは、導入コスト削減とともに、今後の保守運用やERPの横展開など、長期的な視点から見ても意義があると判断したのである。

 なお、1億円に対する残り1000万円は、ERPパッケージベンダのコンサルタントにスポットサービスを依頼するための費用に割り当てた。プロジェクトメンバー一同、この提案に自信を持っていた。これ以外に方法はないとも言えた。

 「社長、初めてのERP導入を自社要員メインで構築するという難易度の高いプロジェクトとなりますが、ぜひともチャレンジしたいと思います。1億円でERPを導入するという条件をクリアできるのは、この手法しかありません」

 提出された資料に目を落とし、腕組みをして聞いていた社長は、やがて大きくうなずいた。「よし、勝算があるならやってみろ。そういう攻めの発想は望むところだ」

 予算削減の見通しが立てられたうえ、プロジェクトメンバーが提出した資料には、自社要員だけでERP導入に成功した事例や、その企業に実際に話を聞いた際の報告書などが多く添付されていた。机上だけで検討したものではないことは明らかであり、社長は満足げだった。だが、最終的に決断を下した要因はもちろんそれだけではなかった。

 自社要員によるERP導入が成功すれば、自社内にノウハウが蓄積され、台湾拠点など海外拠点にもこのシステムを展開しやすくなる――すなわち、自社の強みであるコア業務をシステム化したERPが、海外拠点の早期立ち上げの武器になる。社長は、プロジェクトチームからの提案が、導入コストを切り詰めるとともに、「将来のビジネス展開」というERPの導入目的をきちんと考慮したものであったことを評価してゴーサインを出したのであった。


コア業務とノンコア業務を明確に切り分けよう

 さて、今回の事例は何が成功要因となったのか、お分かりでしょうか? それは「コスト削減すべき要素を明確に把握したこと」です。これには2つのポイントがあります。1つは「ERPのコスト構造をひも解き、費用割合の大きいものを把握して、そのコストを抑える方法を検討したこと」です。D社は必要なライセンス契約数を見直すことで、予算の削減に成功しています。また、費用割合が最も大きいのは導入のSIサービス費用であり、そこがコスト削減のポイントであることを突き止めました。

 そしてもう1つは、「ERPを適用する各業務領域が、自社にとってコア業務なのか、ノンコア業務なのかを見極めていたこと」です。実はこれこそが、ERPの導入・活用コストを抑える最大のポイントとなります。

 例えば会計や人事など、汎用的かつ法改正に伴う変更が多いような業務については、ERPパッケージの機能をそのまま利用した方がコストパフォーマンスが良いのは周知の事実です。逆に、生産管理や在庫管理など、各社独自のノウハウやこだわりがある業務については、ERPの機能にアドオン開発して、独自の機能を作り込むケースが一般的です。つまり、コア/ノンコア業務を切り分けることで、ERP導入に際してお金をかけるべき部分とそうでない部分が明確に見えてくるのです。

 D社の場合、「生産管理システムと在庫管理システム、そして会計システムをERPにリプレースする」と決めていたうち、生産管理システムと在庫管理システムがコア業務だと明確に認識していました。また、「コア業務は自社の強み」である以上、コスト削減だけを追求すべき部分ではないことを社長以下、プロジェクトメンバーの全員が認識していました。そのうえでERPのコスト構造をひも解き、費用割合が最も大きなERP導入のSIサービス費用をどう削減するかを考え合わせたのです。

 逆に「何が重要なのか」が分かっていなければ、A社のアドバイスを受けても「導入・運用ノウハウを学び、自社要員で作業を行う」という結論は導き出せなかったことでしょう。コスト削減しか眼中にないと、仮に予算内で導入できても、あとで追加開発が必要になるなど不完全な形になるのは目に見えています。ERPで実現する各種業務がコア業務なのか、ノンコア業務なのかを切り分けたうえで、コスト構造の観点からも、コストをかけるべき部分、削減すべき部分を探り、総合的に判断する――これが最も安くERPを導入・活用するための秘訣なのです。

 ちなみに、大企業ではERP導入を情報システム子会社が主導で進めて、独自の導入ノウハウを蓄積している例が多くありますが、中堅・中小企業の場合、ベンダに頼り切りというケースが多いようです。これは情報システム要員が少ないことや、兼務する業務が多いために、物理的に対応できないという事情によるものです。

 しかし、結果としてベンダの言うがままに投資を迫られたり、導入したシステムがブラックボックス化したりするという失敗ケースがよく見られます。その点、仮に実作業は社外に委託するとしても、事前に社内で議論を尽くしてコア業務、ノンコア業務を切り分け、それらをERPでどうシステム化するのかを検討しておくと、導入・運用コスト削減、機能の有効活用を図るうえで非常に有利です。

 ERPをできるだけ安く導入し、収益向上の武器として使いこなすために、自社の業務をもう一度見直し、導入・活用に能動的に取り組んでみてはいかがでしょうか。

Profile

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


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