事例で学ぶ、スマートデバイス導入・活用の鍵“革新を起こす”新アーキテクチャ活用術(3)(1/2 ページ)

スマートデバイスを上手に利用することで、ビジネスに差をつける時代が到来している。今回は、リアルな事例から、スマートデバイスの真価を引き出し、収益向上につなげるためのポイントを抽出する。

» 2012年07月25日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]

スマートデバイスの利用レベルで、ビジネスに差が出る

 近年、企業において、iPadなどのスマートデバイスを採用するケースが急速に増えています。衣料品店や航空会社、医薬品メーカー、中古車販売など、幅広い業種で事例が報告されていますが、いずれもIT活用に積極的な企業であり、どの事例を見てもスマートデバイスの優れた操作性と美しい描画力、携帯性を効果的に生かしていることが分かります。

 スマートデバイスの企業導入は、米アップルによるiPad提供開始直後から関心が高まり、グーグルのAndroid搭載端末が市場に参入した辺りから急速に広がりました。さらに米グーグルは2012年6月、「Nexus 7(ネクサスセブン)」というタブレット端末を発表しましたし、2012年秋には米マイクロソフトもWindows8を搭載した「Surface(サーフェス)」を発売する予定です。米アマゾンも、格安なことを1つの特長としている「Kindle(キンドル)」を、2012年6月に日本市場で発売することを発表しました。このように、スマートデバイスのラインナップは拡大しつつありますし、ノートPCに比べて安価で購入できますから、業務利用の動きはさらに広がっていくことでしょう。

 こうしたスマートデバイスのメリットを大きく整理すると、「PCよりも安価」「MDM(モバイル・デバイス・マネジメント)ツールによって、リモートでの端末管理、アプリケーション管理、ロック制御、データ消去が可能など、セキュリティ対策を実施しやすい環境が整っている」「目的や用途に合わせてブラウザと専用アプリケーションを使い分けられる」ことなどが挙げられます。今回はこうしたスマートデバイスの利点を業務改革に生かした事例をご紹介しましょう。

スマートデバイスで収益アップ。短期間で「IT先進企業」に

 最近は、シニア層を中心に、スマートデバイスの使い方を学ぶ教室の方がパソコン教室よりも人気があるそうです。操作が簡単で、画面も見やすく、文字や写真を大きく表示することもできる点で、高齢者にとっても使いやすい点が評価されているようです。今回は、ITリテラシの低かった老舗企業が、スマートデバイスの導入・活用により、「IT先進企業」と呼ばれることになったケースをご紹介します。

事例:スマートデバイスを主役にしたB社の試み

 機械器具卸業B社は、老舗として築き上げた信頼と実績、堅実な営業スタイルで、安定した経営を誇ってきました。しかし昨今は、急激なビジネス環境の変化と市場の縮小に伴い、売上額、利益額ともに減少傾向にありました。従業員の平均年齢も同業者より高く、これまでは熟練者による経験と知識が強みとなっていましたが、最近は「ITを活用した取り引きのスピードアップを実現できていない」など、インフラ整備の遅れが原因で失注するケースも出始めていました。そこで、IT化に後ろ向きだった社長もこの事態を重く見て、遅ればせながら全社システムの再構築を実施することにしたのです。

 そのために、まずは長年、B社システムの保守サポートを一手に請け負ってきたベンダD社と、社長の知人でERPや業務システムに詳しいコンサルタントに事情を説明して協力を要請しました。

 その結果、ベンダD社とコンサルタントが出した結論は、「老朽化した基幹システムを刷新し、全社の情報を詳細かつきめ細かく把握する仕組みを構築すること」と、「その情報を現場の営業担当者、購買担当者、そして経営層および管理者に活用してもらうこと」の2点にフォーカスするというものでした。

 これを受けて、B社は過去最大のIT投資を決断し、基幹システムを最新のパッケージ製品に置き換えることにしました。そのために、ベンダD社のスタッフとコンサルタント、そしてB社の若手で「システム改革チーム」を作り、パッケージ選定からシステム導入、社内研修、定着化まで一貫して取り組むことにしたのです。

 その結果、国産ベンダのパッケージ製品の中から、商社・卸売業に実績があるものを選択しました。特に重視したのは販売管理や購買管理の個別要件に対応できるカスタマイズ性でした。B社は老舗の卸売業であるため、取引先や顧客ごとに異なる商習慣にきめ細かく対応する必要があったためです。「システム再構築に伴い取り引きの在り方を見直す」という方法もありますが、B社の価値と強みは「長年築き上げてきた信頼関係と商習慣を守る」ところにあると判断したのです。

 じっくりと時間を掛けて、1年半後にパッケージ導入は完了しました。そして旧システムからの移行も滞りなく進み、新しい基幹システムが本番稼働して6カ月ほど経ったところで、システムに対する社内の評価や活用実態について調査したところ、非常に良い結果が得られました。これまでのシステムよりも格段に高いレベルでデータを管理できるほか、システムの処理速度も向上したことで、オペレーションがスムーズになり、経理部門や在庫管理部門、物流管理部門などバックオフィスにたずさわる部門の満足度は非常に高いことが分かったのです。

 しかし同時に、営業部門や購買部門、そして経営者、管理者のIT活用頻度とユーザー満足度が著しく低いことが発覚しました。新しい基幹システムの導入に伴い、IT利用とITリテラシの向上を狙って、1人1台ずつノートPCを配布したのですが、十分な研修を行ったにもかかわらず、これを使いこなすことができなかったのです。

 若手の担当者やパソコンを趣味にしているスタッフは、ノートPCを外回りに利用するなど、期待通りの活用ができていたのですが、パソコンが苦手な担当者の場合、ノートPCが机の上で埃をかぶっている状態でした。営業データの入力も、従来通り営業事務の女性スタッフにお願いする習慣が変わっていませんでした。さらに、経営者である社長自身も実はパソコンが苦手で、現場スタッフと似たような状況でした。経営層は、新しいシステムによって、現場層から経営層まで詳細な情報が入手できる環境になったことを評価しつつも、これを自ら直接操作して使いこなすのは、やはり難しかったのです。


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