事例で学ぶ、スマートデバイス導入・活用の鍵“革新を起こす”新アーキテクチャ活用術(3)(2/2 ページ)

» 2012年07月25日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]
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「このままでは、新しい基幹システムの価値を享受できない!」

事例:スマートデバイスを主役にしたB社の試み

 こうした状況に危機感を感じたベンダD社とコンサルタントは、ITの活用度を底上げする方法を考えることにしました。ただ、不幸中の幸いだったのは、ヒアリングを進めていく中で、パソコンが苦手なスタッフでも「詳細かつきめ細かいデータは営業活動にも購買活動にも使える」と、システムの有効性を理解していたことです。「営業レポートをプリントアウトして、日々の営業活動に使っている」という回答がこれを裏付けていました。

 従って、課題はノートPCの操作性にあると考え、試験的に導入したのがiPadでした。「どうしても使い慣れない」というノートPCの代わりとして、数名の営業担当者にiPadを渡し、そこから業務システムを利用できるようにしてみたのです。新しく導入した基幹システムは、ブラウザを入出力インターフェースとして使うものだったため、営業レポートや在庫レポートなど、業務担当者が使うレポートをそのままiPadからも簡単に閲覧できるようにすることができました。

 その結果、現場スタッフから予想を超える大絶賛を受けることになりました。iPadは起動も早く、操作も簡単で、画面の文字を拡大することも縮小することも直感的に行えます。間違ったオペレーションをしてもホームボタンを押して、またはじめからやり直せば良いだけです。さらに、そうした新しいものが苦手そうな熟年の営業担当者が営業先にiPadを持って行くと、それだけで商談が盛り上がることもありました。彼らにとってもiPadを使って商談情報を見せることで顧客の興味を引くことが快感のようになり、積極的に触るようになっていきました。

 また、休憩時間などに囲碁や将棋などのゲームアプリを利用することを認めていたため、iPadを自宅に持って帰って使いたいという声が自然に出始めたことも、iPadの社内への浸透を後押しすることになりました。ノートPCと違い、端末に業務データを保存していないため、こうした要望にも簡単に応えることができたのです。

 こうしたiPad利用の評価を踏まえて、ベンダD社とコンサルタントは、B社のIT化を進めるために、「営業部門や購買部門には、ノートPCではなくiPadを主役としたシステム活用に切り替える」ことを社長に提案しました。すると、社長自身もiPadを気に入っていたことから、提案はその場で許可されました。

 こうしてB社の社内システムは、iPadでの利用とノートPCでの利用の両方に対応したシステムとなり、担当者の希望でどちらを選ぶこともできるようになったのです。その結果、営業部門や購買部門など、社外との接点が多いスタッフは大方がiPadを選択し、経理部門や管理部門など社内業務が多いスタッフはノートPCを選択する傾向が高いということも分かってきました。これは前者がデータの閲覧やレポートの参照といったシステム利用が多いのに対して、後者はデータ入力作業や加工作業が多いことによるものです。

 こうして、老舗企業B社がiPadを使いこなして営業活動をしていることは、次第に業界でも話題になっていきました。また、紙を使って説明していた資料を、iPadで詳細かつビジュアルに見せながら説明するスタイルが商談にも好影響を与え、受注率も向上していきました。

 現在は、iPadを利用している外回りのスタッフの意見をまとめ、スマートデバイス用の業務アプリケーションを開発・利用して、同業他社にさらなる差をつけるべく次の要件の実現を計画しています。

  • 基幹システムの各種レポートの参照/データの確認はブラウザ画面で行う
  • 入力作業を伴う処理については、スマートデバイス専用のアプリケーションを用意する
  • カタログ・プレゼン資料を素早く、表現力豊かに見せるために、スマートデバイス専用のアプリケーションを作る。レポートをPDF化するだけではなく、営業部門で作成・編集できるようにする
  • 仕事に使えるスマートデバイス専用のアプリケーションをさらに取り入れる
  • 経費精算や人事システムなど、バックオフィス業務もスマートデバイスで行えるようにする

 B社のスマートデバイス活用は、今後さらに活発化することが予想されます。


“入力”するならPC、“見る・魅せる”ならスマートデバイス

 B社のケースは、ある意味けがの巧名と言える事例かと思いますが、このケースはスマートデバイスを活用するポイントを浮き彫りにしています。例えば、業務レポートなど、顧客や取引先との商談で“情報を見る・魅せる”道具としては、ノートPCよりもスマートデバイスの方が向いていると判断していることです。表現力は、話の説得力、提案力を向上させる上で大きな意味を持ちます。ノートPCではなく、iPadを使ったことが新鮮に見えて、取引先に好印象を与えたのも面白い副産物です。また、これまでシステムやデバイスに全く興味を示さなかった従業員が、iPadの活用について熱く語るようになった点も注目すべきポイントです。趣味やゲームなど、豊富なアプリケーションが存在するので、その情報交換やノウハウを話すことを楽しんでいます。セキュリティに配慮した上で、あえてプライベートでの使用を制限しなかったことも、浸透を大きく後押ししたと言えるでしょう。

 また、今回の事例で大きなポイントとなっているのが、スマートデバイスを生かす素地として基幹システムの刷新をしていることです。これが導入効果を倍加させていると思います。これまで見えなかった詳細かつ精度の高い情報を、簡単かつ表現力豊かに“魅せる”手段として、スマートデバイスがピッタリとはまったわけです。

 スマートデバイスの企業導入はますます活発化していくでしょうし、デバイスをより有効に生かすためのツールも増えつつあります。自社システムとスマートデバイスを上手に利用することで、ビジネスに差をつける時代がすぐそこまで来ているのです。

Profile

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。SAPを中心としたシステムの設計導入支援を行う株式会社エス・アイ・サービスにて、ERP導入のセカンドオピニオンサービスも提供している。


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