業務を邪魔する“諸悪の根源”は、こうして突き止めるプロが教える業務改善のツボ(2)(2/2 ページ)

» 2010年06月01日 12時00分 公開
[松浦剛志,プロセス・ラボ]
前のページへ 1|2       

「問題」と「原因」の因果関係を明確化する

 ここまではよろしいでしょうか? では、引き続き2つ目のポイントを紹介します。それは「『なぜ』で縦方向に掘り下げていく際に、因果関係を整理しながら横の広がりを作っていく」ということです。

 因果関係とは文字どおり「原因と結果」の関係です。原因は必ず結果よりも過去に存在します。また、常に「1つの原因が1つの結果」を引き起こしているとは限らず、「複数の原因(n個の原因)が1つの結果」を引き起こしていることもあります。

 このn:1の関係のときが要注意です。それは、複数の原因が相互に「ANDの関係」か、「ORの関係」かということです。例えば「品質に関するクレーム対応に割かれる時間が多い」という問題を縦に掘り下げた際、その原因として以下の3点が挙げられたとします。

  1. 他社より品質が悪い
  2. 品質が他社より劣っていることに、消費者が納得していない
  3. クレーム対応担当者が少ない

 この場合、品質を改善すれば――つまり1を解決すれば、2、3の解決を待たなくても「品質に関するクレーム対応に割かれる時間が多い」という問題は解決します。同様に、2と3のいずれか1つでも解消できれば問題は解決します。このような関係にあるとき、1〜3は「ANDの関係」にあると言います。

 一方、「従業員の残業時間が多い」という問題の原因として、以下の3つが挙げられたとします。

  1. 長時間にわたる会議が多い
  2. クレーム対応に取られる時間が長い
  3. 報告書作成に取られる時間が多い

 これらの場合、すべての原因が解決されないと問題は完全には解決できません。このような関係を「ORの関係」にあると言います。

 ロジックツリー上では、この2種類の因果関係を明確に区別しておく必要があります。というのも、「改善策を打つ」とは「問題の連鎖を断ち切る」ことだからです。「ANDの関係」の場合、その結果をもたらす複数の原因のうち、どれか1つとの関係を切れば「連鎖を断つ」ことができます。一方、「ORの関係」の場合、その結果をもたらすすべての原因を解決しないと連鎖を完全には断ち切ることはできません。

 このように、因果関係の種類によって、どの原因に改善策を施せば良いのかが変わってきます。この「ANDの関係」「ORの関係」については、ロジックツリー上で、以下の図2のように書き分けておくと良いでしょう。

ALT 図2 左側の「ANDの関係」の場合、原因a、bのどちらかを解決すればよく、右側「ORの関係」の場合、a、bの両方を解決しないと問題は解消しない。ロジックツリーに問題と原因を整理する際、図のように書き分けておけば、対処すべき原因を一目瞭然に把握できる

最も影響度の強い原因はどれか?

 さて、3つ目のポイントは、「ORの関係」で結ばれた各原因の影響度の強さの調査と可視化です。前段で「ORの関係」については「すべての原因を断ち切らないと、問題は完全には解決できない」と述べました。しかし、「ORの関係」で並んでいる複数の原因は、すべてが同じ重要度ではないのです。

 皆さんはパレートの法則をご存じかと思います。これは、イタリアの経済/社会学者、ヴィルフレド・パレートが発見した所得分布の経験則のことですが、現在では所得分布に限らず、ほかのさまざまな現象にも当てはまるとされています。例えば「不良品の80%は、20%の原因に由来する」「売り上げの80%は、全顧客の20%によるものである」など、不良品の発生や企業の売り上げなどの分配・分布・発生原因を考えたとき、「その大勢は、少数の主要な要因によって決まる」という傾向を明らかにしたものです。

 問題の原因を掘り下げるときにも、このパレートの法則を利用します。すなわち、「ORの関係」で結ばれた各原因について、「問題」に対する影響度を調べ、“大勢を決める小数の主要な原因”に該当するものを突き止められれば、それが優先的に解決策を打つべきところとなります。

 また、これをロジックツリーにまとめる際には、「問題」から「主要な原因」に対して伸びている線を太線で描きます。こうして問題に対する影響度の強さを可視化すれば、「業務改善のために、どの原因から対処すべきか」が一目瞭然となり、業務改善を効率的に実践できるというわけです。


 さて、今回は原因の掘り下げに当たって、横の関係を整理する際のポイントを紹介しましたが、いかがだったでしょうか。最後にもう一度まとめておきましょう。

  1. 原因の所在を特定する
  2. 因果関係を「AND/ORの関係」に整理する
  3. 「ORの関係」にある各原因のうち、影響度の強いものを調べ、可視化する

 「なぜ?」という問いかけによって縦方向に問題を掘り下げていくと、原因は1つではない以上、ロジックツリーは自ずと末広がりの形を形成します。その際、以上3つのポイントに沿って原因を横方向に整理していくと、縦方向の原因追究の精度が向上するとともに、ロジックツリーが完成するころには、「どの問題にひも付いた、どの原因が重要なのか」という因果関係のラインが明確に見えるようになります。加えて「問題の連鎖を断ち切りやすい部分はどこか」も把握できることによって、「業務改善」の定義どおり、決められた期間内に、システマティックかつ効率的に業務を改善できるというわけです。

 次回は、業務改善はどんなステップ(手順)で進めていけばよいのか、また、ステップにおいて特に注意をすべき点はどこか、という疑問に答えていきたいと思います。

筆者プロフィール

松浦 剛志(まつうら たけし))

株式会社プロセス・ラボ 代表取締役

京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル、人材事業)にてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。2002年、人事、会計、総務を中心とする管理業務のコンサルティングとアウトソースを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。プロセス・ラボでは、業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った、業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ