あなたの会社の仮想化が進まない理由特集:仮想化構築・運用のポイントを探る(1)(1/3 ページ)

ハードウェアを集約してコスト削減を狙う“サーバ仮想化”はもはや当たり前の取り組みとなった。だが、“サーバ仮想化”以上の展開を見せる企業は現時点では極めて少ない。複雑なシステム環境になり、運用管理が難しくなったことも一因といえるが、何かそれ以上に“先に進めない理由”があるのではないか? 仮想化をコア技術とするクラウドコンピューティングも実現段階に入ってきたいま、本特集ではアナリストやユーザー企業などへの取材を通じて、仮想化技術活用のポイントを考えていく。

» 2010年07月05日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT情報マネジメント編集部]

サーバ仮想化が浸透する一方で、運用管理が課題に……

 米ヴイエムウェアがハイパーバイザー型の仮想化ソフトウェアを開発したことがターニングポイントとなり、多くの企業に急速に浸透した仮想化技術。日本でも2008年を境に導入企業が急増し、ハードウェアを集約してコスト削減を狙う「サーバ仮想化」は、もはや当たり前の取り組みとなった(図1参照)。さらに昨今はSaaSをはじめとするクラウドサービスも進展し、クラウドコンピューティングを実現するうえで重要な技術基盤となる仮想化技術は、いまや企業にとって欠かせないテクノロジとなっている。

ALT 図1 サーバ仮想化を実現する仮想化ソフトウェア市場は2008年以降、急速に拡大し、今後もさらなる伸びが見込まれている(IDCジャパン調べ)

 しかし、その一方で、従来の物理環境と仮想環境が混在してシステムインフラが複雑化したことにより、その運用管理に課題を感じるユーザー企業も急速に増えつつある。また、仮想化技術のメリットを認識し、これほどまでにサーバ仮想化が浸透していながら、その適用は一部のシステムやテスト環境にとどめ、本格展開には踏み出していないケースも多い。

 こうした状況を受けて、@IT情報マネジメント編集部では2010年1月、「仮想化に関する課題」について読者アンケートを行った。その結果、図2のとおり「社内エンジニアの知識・スキル不足」「システムのパフォーマンス低下」をはじめ、主にシステムインフラの複雑化に起因する数々の課題が浮き彫りになった。

ALT 図2 @IT情報マネジメント編集部が2010年1月に実施した読者アンケートの結果、コスト削減を狙って“サーバ仮想化”が進む一方で、「社内エンジニアの知識・スキル不足」「システムのパフォーマンス低下」をはじめ、運用管理に悩むユーザー企業が増えつつあることが分かった≫

 今後、仮想化技術はクラウドコンピューティングの実現基盤として不可欠なものとなり、より高度な運用が求められるようになることは間違いない。“サーバ仮想化によるコスト削減”というトレンドも一巡したいま、“仮想化技術の真のメリットを引き出せる構築・運用のポイント”を真剣に考えなければならないフェイズに入ったといえるだろう。

 では、仮想化のメリットを享受できる構築・運用のポイントとは何か???それを考えるためには、まず現状の問題を整理することが大切だ。そこで本特集の第1回目は、仮想化技術に深い知見を持つ2人の専門家に話を聞き、仮想化技術活用の現状と課題について、それぞれの視点からあらためて整理してもらった。

「何が、どこで、どう動いているのか」を把握する仕組みが不可欠

 仮想化技術の活用について、「ユーザー企業、SIerともに、“仮想化技術のメリットを引き出すための方法論”がまだ確立されていないことが、現状の大きな課題」と指摘するのは、IDCジャパン ソフトウェアリサーチアナリストの入谷光浩氏だ。入谷氏は、「いわゆる“定石”と呼べるようなノウハウがまだなく、各企業がさまざまなやり方を模索している段階。今後の早急なノウハウ蓄積が期待される」と前置きしたうえで、仮想環境構築・運用管理において“いま注視すべきポイント”を大きく3つに整理した。

 まず1つ目は、「システムに障害が発生した際の問題の切り分け、原因個所の特定」だ。従来なら、物理サーバの稼働状況を監視していれば、システムに問題が発生した際も故障したハードウェアを交換・改修することで対応できた。しかし現在は、単一の物理サーバ上で複数の仮想サーバが稼働している。よって、従来のように「“目で見て”問題個所を特定することができない」からだ。

ALT IDCジャパン ソフトウェアリサーチアナリストの入谷光浩氏

 障害に至らなくても、「期待するパフォーマンスが出ない」という可用性の問題もある。物理サーバは正常に動いていても、メモリ不足などの原因によって、その上で動く仮想サーバの稼働率が落ちている、といったケースだ。つまり、従来のように物理サーバの稼働状況だけを監視していても、可用性を確実に担保することはできない。

 「この問題に対応するためには、物理/仮想環境を統合的に監視し、どの物理サーバ上で、どの仮想マシンが動いているのかを正確に把握する仕組みと、各物理/仮想サーバの稼働状況を個別に監視する仕組みが求められる。仮想サーバ上で動くアプリケーションのパフォーマンス管理も重要だ。そのパフォーマンスが低下すれば業務に支障を及ぼしかねない。レスポンスタイムなどを常に監視するのはもちろん、サービスレベルが低下した際には、何がボトルネックとなっているのか、迅速に問題原因を追及するうえで、物理/仮想環境を統合的に監視できる体制は不可欠となる」

 これが2つ目のポイント、「システムの構成・変更管理」につながる。仮想化技術は、ビジネスに必要な仮想サーバを迅速かつ手軽に用意できることがメリットだが、これは同時に「サーバ乱立につながりやすい」ということでもある。また、任意の物理サーバに仮想サーバを移動させられるライブマイグレーションは、システムを止めずに物理サーバをメンテナンスする際などに便利だが、ともすると「いま現在、どこで、何が動いているのか」を正確に把握できなくなる可能性もある。

 「サーバ乱立を防ぐためには、一定の条件を満たし、承認手続きを済ませたうえでなければ利用できない仕組みを作るなど、運用ルールをしっかりと策定する必要がある。一方で、システムの構成情報を常にモニタリングし、“現在の状態”を確実に記録・把握できる体制も求められる。具体的には、CMDB(構成管理データベース)を用意し、社内システムの全構成アイテムの検出・把握や、アイテム間の関係の可視化、変更履歴の記録などを行う。しかし、これが確実に実践できていないケースが多い」

「運用プロセスの標準化」が仮想化活用の大前提

 入谷氏は以上のように述べたうえで、「要は、ITILに基づいた運用プロセスの標準化が、仮想化技術のメリットを引き出すための基盤となる」と強調する。

 「ビジネス展開のスピードアップ、リソースの有効活用といった仮想化のメリットは、『いまシステムがどんな状況にあるのか』を把握し、仮想サーバの配備、障害時の対応などを、スムーズかつ迅速に行えて初めて十分に享受できる。よって、システム構成や稼働状況を可視化する仕組みや、一定の手順に沿ってシステマティックに運用管理作業を行える体制を整備しておく必要がある」

 実際、運用プロセスを標準化できていないケースは多い。特に障害時の対応については、その都度、各システムの運用管理担当者が集まり、各システムの稼働状況などのデータを見ながら、半ば“場当たり的に”原因個所を究明したり、“社内システムに詳しい誰か”の知見に頼って問題を解決するなど、「極めて属人的な運用管理を行っている例が少なくない」。

 「むろん、プロセスの標準化は仮想化とは関係なく、以前から指摘されてきたことではある。しかし、物理/仮想環境が混在してシステムインフラが複雑化している中では、可視化、標準化が一層重要なポイントとなる。昨今の運用管理製品は運用自動化をキーワードにしたものもあるが、これも運用プロセスが標準化できていてこそ有効に活用できる機能。IT活用の基礎を見直すアプローチが大切だ」

 入谷氏はこのように述べ、編集部のアンケートで挙がった「社内エンジニアの知識・スキル不足」「システムのパフォーマンス低下」といった課題も、「運用プロセスの標準化」という根本的な課題に根ざしていることを指摘。逆に、この“標準化”という課題を解決できれば、管理者の知識不足やサービスレベル担保といった問題も解決できる可能性を示唆した。

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