あなたの会社の仮想化が進まない理由特集:仮想化構築・運用のポイントを探る(1)(2/3 ページ)

» 2010年07月05日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT情報マネジメント編集部]

仮想環境の構築前に、システムを標準化しておくことも大切

 一方、入谷氏と同様に「運用プロセスの標準化」の必要性を指摘しながら、さらに「仮想環境の構築前に、システムの標準化を考えておくべき」と提言するのは、日本仮想化技術 代表取締役社長兼CEOの宮原徹氏だ。同氏は多くの企業が犯してしまいがちな「いまあるシステムを、そのまま仮想環境に移行してしまう」ことの問題を指摘する。

 「コスト削減を目的にサーバ仮想化を行うとはいえ、既存システムを単純に仮想環境に置き換えるだけでは、ハードウェアの大幅な集約は難しい。また、ハードウェアが減って見た目のシステム構成は簡素化できたとしても、仮想化レイヤが増える分、論理的な構成は確実に複雑化している。従って、既存システムを不用意に仮想環境に移行させると、仮想サーバ台数をいたずらに増やしてしまったり、運用管理の手間やコストをかえって増大させたりすることになりかねない」

ALT 日本仮想化技術 代表取締役社長兼CEOの宮原徹氏

 こうした事態を避けるために、宮原氏は仮想環境を構築する以前に、「自社システムの棚卸しをしたうえで、仮想環境に移行するシステムを絞り込んでおきたい」とアドバイスする。

 具体的には、まず「自社にはどんなシステムがあるのか」、すべて洗い出したうえで、ビジネスにおいて不要なシステムは廃棄する考え方で、“本当に必要なもの”を見極める。そうすれば無駄なハードウェアや保守費用をカットできる。さらに、各システムの重要度を吟味しつつ、仮想環境に移すもの、物理環境に残すものを分ける――すなわち「ゼロベースで、自社にとって必要なシステムを見直す」。あらかじめ無駄なものを省いておけば、より手間なく、低コストで仮想環境を活用できるというわけだ。

 また、システムの選別のポイントは、「システムの“特殊性を排除”すること――すなわち“標準化”にある」という。具体的には、独自の運用ノウハウが求められる“自社開発システム”は極力絞り込み、標準化された運用手順を持つ既成品やSaaS製品で済ませられるような機能なら、なるべくそちらに変更する。「そうすれば仮想環境をより広範囲に適用しやすくなるほか、“そのシステム独自の運用ノウハウ”が減ることで、運用管理の手間やコストも大幅に省ける」。

“仮想環境のサイロ化”に陥っていませんか?

 なお、宮原氏はこうした“標準化”を行う際には、「全社的なシステム構築のグランドデザインがあると望ましい」と話す。具体的には、自社のビジネス目標を基に、『いまどんなシステムが必要なのか、今後どんな機能が求められるのか』を見極め、3〜5年後までの中長期的なシステム構築のビジョンを描いておく。これが必要なシステムと、仮想環境に移すシステムの選別――“標準化”を行う際の判断基準となるためだ。

 「仮想化の真のメリットは、ハードウェアの集約ではなく、ITリソースをプールしておき、必要なとき、必要なだけのリソースを無駄なく、効率的に使えるようになること。従って、従来のようにリソースを部門ごとにサイロ化させたままでは、無駄や重複が多く、このメリットを生かし切れない。全社のリソースを一元管理し、適切に配分する体制があって初めて真の有効活用が可能になる。そうしたサイロ化を改善する意味でも、全社のシステムをゼロベースで横断的に見直すことが大切だ。つまり、仮想化を生かし切るためには、部門ごとにシステムを構築する従来のスタイルを、どこかのタイミングで改善する必要がある」

 以上のような“仮想環境のサイロ化”が、多くの企業で進みつつあることについては、入谷氏も別の視点から警鐘を鳴らす。

 「昨今、話題になっているクラウドコンピューティングも、リソースを外から調達するか、社内で保有するかというスタイルの違いはあれど、あくまで全社のリソースを一元管理し、効率的にユーザーに配分・運用することが核となっている。すなわち、構築前のシステムの標準化、運用の標準化という、仮想化技術を生かし切るための議論なくして、クラウド化の実現はあり得ないといえる」

 そして、多くの企業が仮想化のメリットを認識しながら、なかなか本格展開に踏み切れない“真の理由”についても、「“仮想環境に対する不安”や“運用管理上の課題”よりも、“目先のコスト削減を最終目的としていること”が大きな原因なのではないか」と分析する。

 「つまり、目先のコストカットをゴールとしているため、ハードウェアを集約し、それが達成できた時点で、その後のプランが見えなくなってしまう。まずは全社視点でITリソースを俯瞰(ふかん)し、システムのあるべき姿――グランドデザインをとらえ直すことが大切だ。ビジョンが明確になれば、仮想化技術を導入するロードマップ、運用のフレームワークも描きやすくなり、結局は永続的なコストカットにつながる」

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