そこで次期システムではまず、ゴルフ場予約システムの機能と会員情報を管理する機能を切り離し、ゴルフ場予約システムと物販システム、どちらかがダウンしても会員システムが生きていればもう片方は引き続きサービスを続行できるような構成を目指した。もちろん、そのほかにもさまざまなセキュリティ施策を新たに取り入れ、堅牢なシステムに作り変える必要があった。
そこで志賀氏らは、セキュリティ事故への対応作業と平行して、現行システムの解析作業に取り掛かった。どの部分をどのように作り変えれば、堅牢で、かつ将来のビジネス拡大にも対応できるIT基盤を実現できるのか? 現行システムのソースコードを追いながら、地道な解析作業が続けられた。しかし間もなく、次期システムの構想は大きな転換点を迎えることになる。
その原因の1つは、コストと時間の問題である。同社は当初、現行システムを改修することによって次期システムを整備する予定だった。しかし、SIベンダにエンハンス作業の見積もりを依頼したところ、莫大な費用と膨大な時間を要することが判明したのである。
「エンハンスをするには、まず現行システムの分析・調査作業を行う必要があるが、これに膨大な工数を要することが判明した。莫大な費用を払って、その結果3年後にようやく稼働するのでは明らかに割に合わないし、現行システムの無駄な機能まで引き継いでしまう。ならば、一から作り直した方がわれわれの業務によりフィットしたシステムを設計できるし、開発リスクも少ないと判断した」(大日氏)
2009年11月、同社は現行システムのエンハンスではなく、新規開発によって次期システムを構築する決断を下す。ちょうど、ハードウェアとソフトウェアの2度目の入れ替えを終え、不正アクセス事故に端を発したセキュリティ対策を一通り終えたタイミングである。志賀氏も、当時下した判断について次のように話す。
「当初は、まず現行システムのエンハンスを行ってから次世代のサービスインフラを構築する予定だった。しかし、セキュリティ事故後の対応が一通り完了し、現状でも当面サービスを提供していけるだけのレベルは十分担保できると判断した」
しかし、同社がシステム刷新を決断した理由は、セキュリティ対策だけではなかった。
実は、セキュリティ事故の対応に追われながらも、同時に同社内ではセキュリティ面以外でも現行システムに対する不満の声があちこちで上がっていた。特に、基幹系システムを改善したいというニーズは、現場からも経営サイドからも上がっていたという。
今回紹介した、システムの老朽化とセキュリティ事故という事情に加え、こうした社内の声の高まりが同時期に集中したことにより、システム全面刷新とERPパッケージ導入の気運が一気に高まったのである。
次回は、このあたりの背景について紹介していきたいと思う。
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