複数OSからなるサーバ群を仮想化で統合特集:仮想化構築・運用のポイントを探る(4)(2/2 ページ)

» 2010年09月01日 12時00分 公開
[伏見学,@IT情報マネジメント編集部]
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さまざまなサーバOSが混在した環境

 このように学内でさまざまな議論がなされた末、2008年5月から仮想化によるサーバ集約の具体的な検討が始まった。

 まずは同大学の基本的な要望をRFP(提案依頼書)でまとめ、11社のシステム業者に声掛けした。それに対して7社から提案があったため、「同大学のニーズを最優先」(ICT教育センター担当の福井宗明氏)して8月下旬までに3社に絞り込んだ。次のステップでは技術力や品質の高さを重視し、最終的には10月にネットワールドを協力会社とするニッセイコムをシステムインテグレータとして選定するとともに、ヴイエムウェア製のサーバ仮想化ソフトウェア「VMware Infrastructure 3」およびバックボーン・ソフトウェア製のバックアップソフトウェア「NetVault Backup」の導入を決定した。また、今回の仮想化プロジェクトでは、約50台のサーバを日立製作所のブレードサーバ「BradeSymphony320」2台に集約することとなった(現在はほぼすべてのサーバが集約を完了している)。

 協力会社および製品の選定を終え、いよいよ本格的な仮想化プロジェクトがスタートした。ところが、いざ仮想サーバを構築するうえでいくつかの課題が存在した。その1つがゲストOSの種類の多さである。大学内にあった約50台のサーバには、Windows(2000、2003)のほか、Linux系はRedHat、FedraCore、Debian、CentOSと複数のディストリビューションが混在していた。「条件の異なるサーバが多数あったので、VMwareでサーバを仮想化するときに、デバイスを認識しなかったり、移行時にデータが抜け落ちたりなどの問題が発生した。試行錯誤しながらOSごとに調整し、1つ1つクリアしていった」と岡原氏は話す。

 既存の物理サーバを仮想サーバへ移行する際のデータ連携も注意が必要だった。同大学では基幹業務システムを仮想環境に移行して正式稼動させるのに、場合によっては1週間以上もVMware上での動作検証作業が必要なものもあった。しかし当然、その期間にサーバを止めておくことなどできないどころか、その間にも随時、物理サーバではデータが更新されているので、どうしても双方のデータに差異が出てきてしまうのだった。

 「仮想サーバに移行したシステムを実際にユーザーに見てもらい、データの内容にも操作性にも問題ないことをその都度確認するわけだが、その過程において何度かデータの不整合によりシステムを停止しての再調整作業が要求される事態も発生した」(岡原氏)

 P2V(Physical to Virtual:物理環境から仮想環境への移行作業)に関しては、特定の型通りに行ったのではなく、協力会社にも判断を仰ぎながら、その場の状況に応じて臨機応変に進めていったという。

ALT 湘北短期大学の学内システム構成図

いかに資源を振り分けるか

 こうした準備期間、移行作業を経て、2009年4月に仮想サーバを正式稼動させた。計画が遅延するほどの問題もなく約1年で仮想環境を構築できたポイントについて、内海氏は「事前にシステム全体のデザイン設計を行うのはもちろんのこと、作業の優先順位を明確にし、システムや人員の資源をいかに効率良く振り分けるかが重要だ」と強調する。100%すべてを完璧に実行しようと考えるのではなく、物事がうまく運ばないことを想定し、余裕を持たせてプロジェクトに取り組むのが肝要だとしている。

 「コミュニケーション」もプロジェクトがスムーズに進む鍵となった。岡原氏が学内ユーザーと外部協力会社の間に立ち、ユーザーの要求をうまく吸い上げながら協力会社に提案を行った。ユーザーがどのような業務サイクルでシステムを利用しているか、システムが停止したときのリスクは何かなどを事前に把握していたため、ベンダやシステムインテグレータから質問を受けても、すぐにリスク分析して、迅速に対応できたのだ。

 「システム部門であるICT教育センターとユーザーとの距離は近く、常にコミュニケーションを図っている。こうした日ごろの取り組みが結果的にプロジェクトの円滑化に貢献した」(岡原氏)

仮想化で消費電力を4割削減

 現在のところ仮想サーバの運用面でも、パフォーマンスの低下などのトラブルは特にないという。一方、サーバの仮想化により、以前の環境と比較して消費電力を40%削減したほか、ハードウェアの運用コスト削減など目に見える形のメリットが生まれてきている。「仮想環境においてオープンソースソフトウェア(OSS)の活用リスクが低いことが実証できれば、OSにまつわるコストも今後さらに削減できる」と岡原氏は意気込む。

 「湘北短期大学では電気や水道、ガスのように、ITも生活において不可欠なインフラだという認識を持って学内の環境整備に取り組んできた。今回の仮想化プロジェクトによってコスト削減を実現したことで、経営陣からさらなる信頼を得ることができたのだ」(内海氏)

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