物理/仮想の混在環境とはいえ、特別な運用管理方法が求められるわけではない。大切なのは、これまでも行ってきた運用管理の基本を徹底し、洗練させることだ――国内トップシェアを誇る運用管理製品「JP1」を提供する日立製作所は、仮想化を生かすコツについて、このように主張する
ハイパーバイザー型仮想化ソフトウェアの登場を受けて、日本でも2008年から導入企業が急増した仮想化技術。“サーバ仮想化によるコスト削減”のトレンドも一巡したいま、多くの企業はクラウド化も視野に入れつつ、「全社のITリソースを有効活用できる環境をいかに整えるか」という課題にフォーカスしつつある。
だが、仮想化のメリットは知っていても、それを引き出すためのノウハウについては十分に浸透しているとは言えない。ゆえに、仮想化技術の適用は一部のシステムやテスト環境にとどめ、本格展開には踏み出せていない企業が多いのが実情だ。
そこで本特集『仮想化構築・運用のポイントを探る』では、「仮想化を本格展開するためのポイント」を5回にわたって探ってきたわけだが、第6回目となる今回は、13年連続で国内トップシェアを記録(テクノ・システム・リサーチなどの調査)している運用管理製品「JP1」を提供している日立製作所に、現実的な観点からそのポイントを聞いた。
日立製作所の場合、同社自身も「JP1」を使って仮想化技術に取り組んでいる経緯がある。具体的には、2009年から2012年9月までの約4年間で、日常業務に影響を与えることなく、約800台のサーバを約300台に集約統合する計画に乗り出しており、2009年度で200台の削減に成功したという。
同社 販売推進本部 販売推進部 JP1販売推進センタ センタ長の鎌田義弘氏は、「そこから得た知見をベースに、定期的に仮想化活用セミナーを開催しているが、聴講客の反応は非常に良く、多くの企業が具体的な運用ノウハウを求めていることを実感している」とコメント。そこで今回も同社自身の取り組みに沿って、物理/仮想サーバの混在した環境下における具体的な運用ノウハウと、その実現を支えている製品機能を紹介してもらった。
まず同社では、仮想化技術を本格活用するに当たって、以下の「4つの実現目標」を掲げたという。
鎌田氏は、「これらは仮想化技術の導入を進めていった手順であるとともに、物理/仮想の混在環境を有効活用するうえで配慮すべきポイントでもある」と解説。このうち、まずはシステムインフラの現状を把握し、リソース使用を柔軟に制御できる環境から整備するために、サーバ稼働管理製品「JP1/Performance Management」を活用したという。
本製品は物理/仮想マシンの稼働状況を監視し、以上の画面イメージのようにシステム全体の健全性を視覚的に表示する。これを情報システム部門が監視し、リソースの過不足が認められた際には、エンドユーザー側にその情報を伝達。リソース割り当ての変更を打診、相談したうえで、変更を実施する体制を築いた。これにより「業務システムに基準通りのパフォーマンスが出ていることを担保しながら、リソースの過不足を見逃さず、有効活用できる体制を整えた」という。
また、鎌田氏は「JP1/Performance Managementがエージェントレスで監視できることもポイントだ」と付け加える。というのも、エージェントが必要な監視製品の場合、監視が必要な全物理/仮想マシンにエージェントをインストールしなければならないうえ、万一エージェントに不良などがあれば、また全サーバに手を入れ直さなければならないためだ。そうした導入の手間とリスクから、「エージェントレス監視機能は本製品の導入の決め手になるほどユーザーの支持を集めているし、既存の環境に極力手を加えないことは、迅速な仮想化導入の1つのコツでもある」と強調する。
なお、JP1/Performance Managementは1台でおおよそ250台までの物理サーバをエージェントレスで監視可能であり、CPU使用率、メモリ使用量、ディスク使用量など、「運用管理上、必要な監視項目はエージェントレスですべて監視できる」という。ただ、「より詳細な監視項目のデータを把握したい」「ネットワーク切断時にも稼働状況を収集したい」という声にも対応し、「エージェント監視との一元監視も実現している」そうだ。
続いて、2つ目の「システムの規模や複雑さに左右されない運用環境の構築」については「業務の遂行を確実に担保できるシステム監視体制を求めた」という。
「例えば、物理サーバが正常に稼働していても、その上で動く仮想マシンに障害が生じていれば、それが支えている業務システムにも問題が生じる。よって、各業務システムから、それを支えている仮想マシン、物理サーバまで、依存関係をひも付けて監視し、“どこで、何が動いていて、どこで障害が起きているのか”一元的に監視・把握できることが不可欠となる」
これについては統合管理製品「JP1/Integrated Management」で実現したという。本製品は、VMware、Hyper-V、また日立製作所のサーバ仮想化機構「Virtage」に対応し、それぞれの専用管理ツールと連携。専用管理ツールの管理下にある仮想マシンと、その上で稼働している業務システム、さらに、その仮想マシンが稼働している物理サーバの情報を自動的に取得し、それぞれの依存関係をツリー状にひも付けて、以下のイメージのように単一の管理画面で表示する仕組みとなっている。仮想マシンの追加、削除、移動を行った際も、自動的に情報を収集することができるという。
「これにより、仮想マシンの配備、削除、移動によってシステム構成が変化しても、システムの“いま”を正確に把握できる。つまり、業務システムに障害が生じた際も、それがどの仮想マシン上で動いているのか、その仮想マシンはどの物理サーバ上にあるのかが分かり、問題個所を迅速に特定できる」
加えて、先に説明したJP1/Performance Managementによって、各物理/仮想マシンの稼働状況も監視している。つまり、各物理/仮想マシンのリソース使用状況と、それらの依存関係を同時に把握できることで、例えば「業務システムAを支えている、仮想マシンBのCPU使用率が高まっている」となれば、早めに仮想マシンBにリソースを割り当てるなどして、システム障害を未然に防ぐことができる。
鎌田氏は、「リソースの有効活用や、それによるコスト削減は確かに仮想化のメリットだが、エンドユーザーにとっては日々の業務を円滑に遂行できることが何よりも大切。つまり、情報システム部門は、サービスレベルを維持しながら仮想化のメリットを引き出さなければならない。その点、“業務に影響を与えずに仮想化技術を導入する”“問題を未然に防ぐプロアクティブな運用管理を実現する”ことは、仮想化活用の最重要ポイントの1つ。JP1/Performance Managementのエージェントレス監視機能もその一環だ」と力説する。
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