製造業は“ITシステムの使いこなし”がキモIT担当者のための業務知識講座(4)(2/3 ページ)

» 2010年11月17日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

受注生産のメーカーでも、マーケティングリサーチは必須

 ただ、マーケティングリサーチは、受注生産方式の製造業においても非常に重要な取り組みと言えます。自社で完成品を作り、それを販売している場合、売り上げを伸ばすためにリサーチが不可欠となるのは当然のことですが、BtoBで部品などを提供している製造業にとっても欠かせない取り組みと言えるのです。

 例えば、ある製品の部品を受注生産で作っている製造業者があったとします。その部品の納入先は特定の企業なのですから、一見、マーケティングリサーチなど必要ないようにも思えます。

 しかし、その部品もいずれは完成品の一部となることは間違いありません。つまり、たとえ直接の納入先が完成品メーカーでなかったとしても、最終的にはその部品は完成品メーカーに納品されることになります。そして完成品メーカーは、計画生産――すなわち、完成品が「売れる」見込みを持って各部品を発注し、完成品を製造しているわけですから、そのメーカーにとっては「完成品の市場特性や、求められている性能・品質、販売見込みなどを理解したうえで、部品を製造、納入してくれる業者」の方が、売り上げを伸ばすうえで何かと有利なわけです。そして、そうしたニーズに基づいて、部品の発注先を選ぶこともできます。

 従って、BtoBで受注生産を行う製造業にとっては、いかに選んでもらうか――すなわち、「マーケティングリサーチによって、完成品メーカーや直接の顧客企業のニーズを先回りして必要な準備ができるか、期待に応えられるか」が、他社と差別化を図り、自社を選んでもらうための鍵となるのです。

 ただ、こう説明すると「選んでもらうため」という側面が目立ってしまいますが、そもそも完成品が売れてくれなければ、自社が作っている部品に対する需要もなくなってしまいます。この点で、受注生産方式の製造業にとってもマーケティングリサーチが重要なのは、“顧客企業とともに生き残る必要があるため”と説明した方が、より正確と言えるでしょう。

 しかし受注生産型の製造業、特に中小企業においては、残念ながらマーケティング分野の遅れが顕著です。特にCRM/SFAなど、営業・販売支援関連のITツールの導入が進んでいません。顧客企業に対する自社の位置付けを高めるうえで、受注生産方式の中小企業には、より積極的なIT活用が期待されます。

製造業の業務プロセス

 さて、以上のように、製造業者としてのスタンスは受注生産、計画生産で大きく異なってきますが、製造業の本来機能である「製造プロセスの流れ」自体は大きく変わるものではありません。そこで、製造活動の“軸”を確認するために、ここではBtoBの受注生産業務を例に取って、その業務プロセスを俯瞰(ふかん)しておきましょう。

■製造業、12の基本的な業務プロセス

引き合い 顧客企業からの製造依頼を受けて、自社の設備や体制で対応可能か否かを検討します。
見本製作 顧客企業から提示された図面や仕様書を基に、見本製作を行います。図面や仕様書がない場合は、写真や現物を基に、写真や現物もない場合は、システム開発と同様に要件定義作業を行います。
設計 顧客企業に見本を承認してもらえたら、本製品を製造するための製品設計を行います。特殊な案件の場合、技術部門が製造方法自体を立案したり、製造に必要な新しい治具を設計したりします。
積算・見積もり 設計に基づいて、材料費や設備費、工数などを導き出し、そこから経費と納期を積算して、顧客企業に提示します。
受注 顧客企業から数量、希望納期についての注文を受け付けます。
生産計画 指定された納期を基に、設備や要員の能力、稼働状況を考慮して、工場に製造指示を出すスケジュールを計画します。
手配・調達 生産計画に基づき、工場への製造指示書を発行します。また、製造指示のタイミングに合わせて、必要な材料や資材を調達します。
製造 製造指示に基づき、工場で製造に着手します。製造活動の善し悪しが納期、コスト、品質のすべてに影響を与えるため、作業日報などにより、確実な進ちょく管理を行います。
検査 受注生産では最終工程で製品の品質を確認する製品検査を行います。ただし、計画生産やロットサイズが大きい受注生産では、最終工程で不良が発見された場合、ロット単位で廃棄しなければならないため、製造の各工程で検査しながら製造を進める「工程内検査」を基本としています。
納品 納品計画に基づき、納品します。
請求・入金 納品手続きに伴い、代金を請求し、入金を確認します。
実績分析 利益を確実に確保するために、「積算・見積もり時に設定した製造原価の範囲内で製造が行われたか否か」を分析します。特に「新規に設計した工程や製造方法は適切であったか」「リピート受注時には、新規の設計内容を基に効率的に対応できたか」などを重視して分析を行います。

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