製造業は“ITシステムの使いこなし”がキモIT担当者のための業務知識講座(4)(3/3 ページ)

» 2010年11月17日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]
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ほぼすべての業務プロセスに支援システムが存在

 さて、以上で製造業務の全プロセスをざっと俯瞰しましたが、これらの随所でITシステムが活躍することになります。以下では12のプロセスのうち、ITシステムが大きな効果を発揮する9つのプロセスを紹介しましょう。

■見本制作

このプロセスではCAD(Computer Aided Design)が業務を支援します。顧客企業からCADで使う情報を電子データとして提供してもらうことで、イチからデータを入力することなく、設計作業を効率化することも一般的に行われています。

■積算・見積もり

積算根拠となる単価や工数情報に正確性を担保できなければ、後の工程で予期せぬ損失を招くことがあります。そこで、このプロセスでは顧客企業からの引き合いや受注情報に基づいて単価や工数情報などを管理するExcelや販売管理システムが活躍することになります。いずれを使用する場合も、「単価や工数情報などを確実に管理し、変更があれば、極力タイムラグなく更新できる機能」が重要な要件となります。

■受注

新規受注の場合、顧客企業から受け取った製品の希望数量、希望納期などの注文データを、受注管理システムや販売管理システムに入力して管理します。リピート受注の場合は、以前の発注の際に使った既存データを、顧客企業からEDI(電子データ交換)を使って提供してもらい、受注管理システム、販売管理システムに取り込むケースが一般的です。

 ただ、注文データのほかにも「図面データ」「仕様書」「製造上の留意事項」など、さまざまな製品関連情報が存在します。そこでPDM(Product Data Management)を使って各種製品関連データを製品単位でひも付けて一元管理したり、生産設備管理、業務フロー管理、サプライヤとの情報共有などを実現するPLM(Product Lifecycle Management)と連携させて、製造プロセスを効率化する例も増えています。

■生産計画

スムーズに製造活動を進めるためには、機械設備の点検・準備作業や、シフト替えなど製造要員の“段取り時間”なども考慮に入れて、「類似した作業をひとまとめにする」「特定の設備、要員に作業が集中しないよう作業を平準化する」などのきめ細かな“調整”が求められます。そこで顧客企業から指定された納期を基に、スケジューラを使って具体的な製造日程計画を策定します(計画生産を行う大企業の場合、この前に需要予測を行うことが鍵となります。これについては後述します)。

■手配・調達

ここではMRP(Material Requirements Planning)機能を持つ生産管理システムが活躍します。受注データから必要な部品や工程を自動的に展開したり、それを基に製造指示書を発行したり、部品の実在庫水準に基づいて発注データを生成したりすることができます。納品物にバーコードを貼付し、倉庫への部品の納品状況、工場での部品の消費状況をリアルタイムに把握する場合もあります。そうしたデータを基に調達を行うのです。

 ただ、円滑・確実な調達のためには、製造に必要な「部品」「工程」「材料」「設備」「要員」などを緻密に算出する必要があります。従って、MRPを有効活用するためには、まずは工場資産のマスタデータを整備することが1つの条件となるのですが、管理者が不在、明確に決まっていないといった理由から、管理がなおざりになりがちな例も多いようです。

■製造

製造現場では、予期しない客先都合により、飛び込みで指示が入ってきたり、設備トラブルなどの発生によって、その対応に追われるとも少なくありません。よって、このプロセスでは確実な工程管理が必要になります。そこで工程管理システムを使って、作業の進ちょくを確実に管理します。バーコードや無線ICタグを利用して、各工程の着手および完了時点を把握することで、製造の進ちょく率や出来高をリアルタイムに把握できるシステムも存在します。

 また、近年はCADデータからNC(数値制御)工作機械に入力するためのNC(数値制御)プログラムを生成し、ネットワーク経由でNC工作機械にロードするCAM(Computer Aided Manufacturing)を活用するケースも増えています。特にリピート受注時には、新規受注時に作成したNCプログラムを再利用できることから、CADを使って作図や製造方法の設計ができる技術者の需要が高まっています。この点で、いまやソフトハウスのSE以上にコンピュータに強い“SE化した製造要員”が増加する傾向にあるようです。

■検査

検査には手間と専門知識が求められるため、作業のボトルネックとなっているケースが少なくありません。このプロセスを支援するITシステムとしては、受注データと検査データをひも付けた管理を実現するトレーサビリティ支援システムや、検査データを分析して問題発見に役立てるデータマイニングツールなどが挙げられます。ただ、製造業の業務知識と、データマイニングのノウハウの両方に精通する人が少ないため、検査結果の分析に取り組んでいる企業は少ないのが実状のようです。

■納品

本来、受注生産では長期的な在庫は発生しないはずですが、実際には、リピート品の即納要求に対応するため、作り置きした在庫品が存在しています。注文データとは別に、先の予定を含めた生産計画データを送付する顧客企業も多く、現実的には受注生産型の製造業も在庫リスクが発生しているのです。加えて、長期にわたって滞留する在庫については、最終的には廃棄処分が必要となることもあります。この点で、在庫回転率(完成入庫から納品出荷まで)を監視する倉庫管理システムが求められます。

■請求・入金

顧客企業から指定された伝票を使ったり、専用のEコマース・システムを使って請求手続きを行うケースが一般的です。ただ、取引先ごとに手続き方式が異なることもあるため、この分野を支援するITシステムとしては、各顧客企業の要求に答えながらも、処理操作を簡略化、一元化できる仕組みが求められます。

計画生産は需要予測が最大のポイント

 さて、以上のように製造のほぼ全プロセスにわたってさまざまなITシステムが活躍しているわけですが、最後にもう1つだけ、計画生産型の製造業にとって不可欠なシステムを紹介しておきましょう。

 言うまでもなく、計画生産で最も重要なのは需要予測です。「どれだけ作れば良いのか」を見誤れば、いくら適切に製造活動を行ったとしても、在庫の山を築くことになるためです。予測が必要なのは需要のボリュームだけではありません。「いつ、どれだけの需要が起きるのか」といった季節変動なども考慮しないと、必要なときに品切れが起きてしまいます。特に食品など、長期間の作り置きができない製品では、きめ細かな需要予測の重要度が極めて高くなります。

 こうした需要予測の鍵となるのがBI(Business Intelligence)です。これを、数理統計を使って過去の販売データや出荷データなどを分析するSCP(Suply Chain Planning)と連携させて、緻密な販売計画、需給計画、生産計画の立案を行うのです。これはSCMの核となる機能をつかさどるものですから、詳しくご存じの方も多いのではないでしょうか。ただ、流通先である卸売業/小売業が独自に販促イベントなどを行っており、その実績をメーカーに還元していないためにデータに不備が生じ、需要予測がうまくいかない、というケースもあるようです。この点では販売パートナーとの情報共有システムが求められると言えるでしょう。


 さて、いかがだったでしょうか。製造業には常に在庫リスクの問題が付いて回るため、「いかに必要な数量、必要な時期を予測し、無駄のない計画を立て、効率的に実行するか」が求められます。すなわち、ITツールの得意分野である「省力化・効率化」がキーワードとなるだけに、ITシステムが多くのシーンで活躍することになるわけです。システム開発をはじめ、ITに直接携わる立場の皆さんにとって、製造業はその知識を仕入れておくべき最も重要なフィールドと言えるのではないでしょうか。

著者紹介

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

MBA/システムアナリスト/公認不正検査士

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了
  • 信州大学大学院工学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。



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