幼いころの“構ってちゃん”が仕事や人生の邪魔をするITユーザーのためのメンタル管理術(5)(1/3 ページ)

なぜプロジェクトが遅延してしまうのか、なぜ自分はうっかりミスを繰り返してしまうのか、なぜあの上司や同僚とうまくいかないのか、なぜ恋人と喧嘩ばかりしてしまうのか、なぜロクでもない男とばかり付き合ってしまうのか――その答えは、あなたの中にいまも息づく“あのころの切ない記憶”が握っている。

» 2010年11月25日 12時00分 公開
[小関由佳(NIコンサルティング),@IT]

ストロークがもらえないと、人はその状態を正当化し始める

 前回『“生き方の癖”が分かれば、仕事も人生も改善できる』では、人から何らかの働き掛けを受けたとき、その受け止め方から「自分や他人をどれだけ肯定しているか」という“承認度”――すなわち“心理的ポジションの基本傾向”が分かる「心の中のOK牧場」というマトリクスをご紹介しました。

 また、そうした心理的ポジションの基本傾向は幼少期に形成されるものの、心掛け次第で「物事をより良く受け止められるようにしたり、心を良い状態に保ったりすることができる」ことも解説しました。

 ところが、いくら意識していても、仕事を解雇された、彼女に別れを告げられたなど、何らかの出来事が原因で心が制御不能になるシーンがあります。そうなると“心のストロークバンク”にはマイナスのストロークが増え、そのうちストローク自体が枯渇し……という状態になり、どこかで自分を認めてあげないと、心の健康が保てなくなっていきます。

 そこで周囲とのコミュニケーションを通じて、あるいは、自分で自分自身を肯定するなどして、プラスのストロークを増やしていければ良いのですが、得てして“正当化”という問題が生じてきます。「ストロークがもらえない」ことに傷つきたくないために、「自分はどうせダメだから、ストロークがもらえない状態が当然だ」「相手が悪いんだから仕方ない」などと、ストロークがもらえない状態に意味付けして、ギリギリの状態で、そうした状況を肯定し始めるのです。

 具体的には、何らかの行動を通じて、「自分がダメ」「相手が悪い」「何をしても無駄」といった「自分にとってのNOT OK」が「正しいこと」だと証明しようとします。前回は、そのような“非生産的で、自ら嫌な感情を味わう行動パターン”を「心理ゲーム」と呼ぶことまでをご紹介しました。

 今回はこの「心理ゲーム」について詳しく解説していくのですが、以上のような説明では、一見、自分には関係ないもののように感じる方も多いかもしれません。しかし、意外と誰にとっても身近な問題であり、時間を無駄に費やしてしまうのが、この心理ゲームなのです。

 平たく言えば、心理ゲームとは毎度“同じ公式”を繰り返しては「ほらね、やっぱりね」と“NOT OK”であることを自分自身で証明し、わざわざ不快な感情を抱く、というものです。例えば、皆さんは以下のような行動に心当たりはありませんか?

  • 毎度毎度、深酒をして二日酔いしては後悔する
  • 毎度毎度、本番になると失敗してしまう
  • 毎度毎度、暴力的な男性と付き合ってしまう

 なぜ、そのような行動を取ってしまうのか、本人も分かりません。

しかし、「あぁ、またやっちゃった」「どうして自分はこうなんだろう」「やっぱり、ダメだなぁ」という感情を味わっては後悔しながらも、気付けばまたやってしまっているのです。もちろん、こうした感情のトーンは誰もが同じでも、具体的な行動パターンは人それぞれです。今回は、こうした「本人も無意識のうちに作り出した悪い行動パターン」=心理ゲームのなぞをひも解いていきましょう。

お母さんに見てもらうためには、“ダメな子”でいるしかなかった

 ではまず、以上のような行動パターンが形成される理由と経緯からご紹介しましょう。実はこれも前回解説した「心理的ポジションが幼少期に形成されること」、すなわち「生まれた後の親との関係性」にひも付いているのです。

 というのは、自分で生きていけない幼い子どもにとっては親がすべてです。その親からプラスにせよマイナスにせよ、とにかくストロークをもらうために、子どもなりにコミュニケーションの方法を探し、習得していくことになります。しかし「三つ子の魂百まで」と言うように、大人になってほかの方法でストロークを受け取れるようになってもなお、「幼少期に学んだストローク獲得のための行動パターン」を無意識に繰り返してしまいます。そう、「深酒をしてしまう」「本番で失敗してしまう」といった不毛な行動を繰り返す理由は「ストロークがほしいから」であり、その行動の基本パターンは幼少期に形成されたものなのです。

 具体例で説明しましょう。例えば、Yさんの母親は「子どもを褒めると調子に乗るから、叱ることで常識を身に付けさせるべきだ」という教育方針でYさんに接しました。Yさんにとってみれば、じっとしていても、お手伝いをしても、親からストロークをもらえないことになります。ところが失敗をしたときだけ、「ほんっとに、ダメな子ね! どうしてそうなるの? 何度言ったら分かるの?」という形でストロークが飛んできます。

 第2回「業務改善を狙うなら、遅刻した人に温かく声を掛けよう」で「心の栄養、ストローク」について解説した通り、人はストロークがもらえない状況になると、それがマイナスのストロークでも心にため込もうとします。

従ってYさんの場合、「あ、失敗をすれば、お母さんは僕を見てくれる」「お母さんに見てもらうためには、ダメな子でいるしかない」ということを子どもなりに学ぶわけです。

 Yさんは小学生になり習い事を始めました。しかし「上手にできたよ!」と報告しても、「もっとできるでしょう?」と、母親はそっけない返事しかしてくれず、ほとんど相手にしてくれません。ところが発表会などで失敗をすると、「練習ではできていたでしょう?」「どうしていつも失敗するの?」「恥ずかしい!!」などと、やはり強烈なストロークが飛んでくるのです。

 失敗をしては、母親の怒りを買う。そして「ほら、やっぱりね。僕はダメな子なんだ」と『“NOT OK”を証明しながらストロークバンクに栄養をため込むパターン』をさらに強化していく――これがYさんの「心理ゲーム」が形成され、強化されていったメカニズムなのです。

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