幼いころの“構ってちゃん”が仕事や人生の邪魔をするITユーザーのためのメンタル管理術(5)(2/3 ページ)

» 2010年11月25日 12時00分 公開
[小関由佳(NIコンサルティング),@IT]

「構ってほしい」と幼い頭で考えた切ない手段、それが心理ゲーム

 嫌な思いをすると分かっているのに、なぜ同じことを繰り返してしまうのか? それはYさんにとって、「失敗をしてお母さんを怒らせる」というパターンが一番簡単に、そして確実にストロークをもらえる方法だったからです。一言でまとめれば、これがYさんの心理ゲームの“正体”と言えます。

 皆さんにも、「あ、またやっちゃった」という経験はありませんか? そこにはきっと、“あなたなりの心理ゲーム”が存在しているのだと思われます。ちなみに私の場合は、「つい余計なひと言を言ってしまい後悔する」というパターンの心理ゲームを持っています。

 私の幼少期を振り返ってみると、母親はとても忙しかったのでなかなか構ってもらえなかったのですが、何か頼まれたときなどに屁理屈を言って反論するわけです。そうすると「口ばっかり達者で!」「ほんとに屁理屈ばっかり!」とストロークがもらえます。たまに、「よくそんなこと考え付くわねぇ」なんて言われるものだから、調子に乗っちゃうわけですね。私の場合、お母さんに構ってもらうには、「余計なひと言で怒らせる」というのが、“簡単で手っ取り早くストロークをもらえる手段”だったわけです。

 Yさんの場合は、大人になるまでに「何度言ったら分かるの!?」「ごめんなさい」のやり取りを数え切れないほど親子間で繰り返してきたことが容易に想像できます。私の場合も、母親や教師との間で「口答えしない!」「おっと……また怒らせちゃった」のパターンを何度も何度も繰り返しています。さすがに社会に出てからは、このパターンは意識して封印していますが、友人に対してはたまに出ちゃうんですね……ごめんなさい(笑)。

 ともあれ、心理ゲームとは「ストロークをもらいたい」がゆえに基本的な“ゲームパターン”が形成され、その後、習慣的に繰り返されることで、大人になっても無意識に行ってしまうほど、パターンが強化されていくというわけです。

そのうっかりミス、ストローク不足が原因かも……

 さて、このような環境で育ったYさんは職場ではどうなるのでしょう? まず、上司に「うまくできたな!」などと褒められても素直に受け止めることができません。前述のような心理ゲームの蓄積によって、「僕はダメな子=I'm not OK」が基本的な心理ポジションになってしまっているYさんにとっては、上司の褒め言葉が過大評価に聞こえたりして、居心地が悪く感じてしまうのです。“NOT OK”の心理的ポジションにとどまりがちな人はプラスのストロークをもらうのが苦手なんですね。

 すると、徐々にストロークが不足してきます。そうして、子どものときに習得した「お決まりのパターン」でストロークを得たい衝動が顔を出し、本人も無意識のうちに心理ゲームを開始する――すなわちYさんの場合、「ダメな子」になろうとするのです。

例えば、書類や資料でミスが目立つ、ついうっかり大事な会議を忘れてしまう、ついうっかり遅刻をしてしまう、反抗的な態度を取ってしまう、準備不足を幾度となく指摘される……。

 最初の何回かは上司も「次は気を付けろよ」で済ませます。

ところが、Yさんは毎度「申し訳ありません」と言いながら、同じ行動を繰り返してしまいます。そして、「何度言ったら分かるんだ!?」「バカかおまえは!!」「いい加減にしろ!!」などと怒鳴られるようなことになります。

 このやり取りをはたから見ると、「上司がそう言うから、Yさんのモチベーションが下がったんじゃないか?」と思うかもしれません。しかし、Yさんのモチベーションが下がった真因は、Yさんがストロークをうまく受け取れずにストロークバンクを枯渇させてしまったことにあります。そしてストロークバンクを満たすべく、Yさんが(無意識に)仕掛けた心理ゲームに上司が乗ってしまっている状態なのです。

 Yさんは本人も気付かないうちに、自分の心理ゲームのパターンを繰り返し、上司もそれに乗せられて、お互いに嫌な気持ちを味わいます。Yさんは、そんな気持ちを味わいながら、無意識に不足しているストロークをため込んでいるわけですね。

心理ゲームの結論はいつも同じ。不毛な対話を繰り返すだけ

 また、心理ゲームは「無意識に」「非生産的に」「繰り返される」「その人特有のパターン」です。“パターン”ですから、結論も最初から決まっています。Yさんの場合は上記のように、無意識のうちに、『相手に叱られ、自分はダメだと思う、という結論』を導くように心理ゲームが展開されているわけです。このように、ストロークが欲しいばかりに“結論は分かっているのに、何度も何度も繰り返し嫌な感情を味わう”のが心理ゲームの特徴なのです。

 また、Yさんの心理ゲームには「叱ってくれる相手」が必要です。第3回『人間関係とやる気の問題は、こうすれば解決できる』において、「自我状態分析による5つの心のパターン」エゴグラムを紹介しましたが、これにYさんを当てはめると、おそらく「Adapted Child(順応した子供)」(以下、AC)のポイントが高くなっていることでしょう。そして第4回『“生き方の癖”が分かれば、仕事も人生も改善できる』で説明した心理的ポジションを知るマトリクス「心の中のOK牧場」に当てはめれば、その基本的なポジションは「I'm not OK」――「私は駄目、あなたはOK」「私は駄目、あなたも駄目」のいずれか、ということになるはずです。

 ただYさんの場合、もしかすると、あるときを境に「お母さんは分かってくれない」、すなわち“You are not OK”=「私はOK、あなたは駄目」の心理的ポジションに移り、同じ「AC」でも「従順」ではなく「反抗的」な特徴の方が前面に出てくる可能性もありますね。

 いずれにせよ、「AC」は相手の心の「Critical Parent(批判的な親)」(以下、CP)の側面を刺激しますから(第3回の「相手の反応を予測して、人間関係を改善する」を参照)、Yさんが無意識に欲している「叱ってくれる相手」をおのずと用意できることになります。よって、Yさんがゲームを仕掛けやすい上司は「CP」が強いタイプの上司ということになりますね。

 このように、心理ゲームはその人固有の“決まり切った結末”に向けて、本人も無意識のうちに登場人物を選定し、うまく仕掛けられていくわけです。

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