幼いころの“構ってちゃん”が仕事や人生の邪魔をするITユーザーのためのメンタル管理術(5)(3/3 ページ)

» 2010年11月25日 12時00分 公開
[小関由佳(NIコンサルティング),@IT]
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問題行動は、上司と部下など“固定した関係性”で生じやすい

 心理学理論、TAでは、こうした「心理ゲーム」の分かりやすい事例として「私はバカ者ゲーム」というものを用意していますので、ここで紹介しておきましょう。

 「僕はバカなんだよ」

 「おまえはバカじゃないよ」

 「いや、僕はバカなんだ」

 「バカじゃないよ。夏休みのキャンプのとき活躍してたじゃないか。先生がお前のこと褒めてたぞ」

 「先生がそんなこと褒めてくれるわけないじゃないか」

 「いや、先生から直接聞いたんだって」

 「親には良いように言うもんだよ。先生は僕のこと、バカって言っているよ」

 「そりゃ、冗談で言ってるんだよ」

 「いや、バカなんだ。学校の成績を見りゃ分かるじゃないか」

 「バカじゃない。勉強はやればできるんだよ」

 「努力はしているよ。でも頭が悪いんだよ。タネも悪いし」

 「頭は悪くない。もっと努力したらどうだ?」

 「でも、どうせバカなんだよ、意味ないじゃないか」

 「やってもみずに言うんじゃない!」

 「どうせバカだから無駄なの!」

 「バカじゃない!」

 「バカだ!」

 「バカじゃないって言ってるだろ!! このバカ野郎!」

 これは子どもが仕掛けている心理ゲームです。お父さんに「バカ野郎!」と言わせる結末に向けて進んでいきます。父親はまんまと乗ってしまい、お互いに嫌な感情を味わいます。子どもは「ほらね、僕はバカなんだ」、もしくは「ほら見てみろ、どうせバカって言うんだろう?」という“I'm not OK”や“You're not OK”の嫌な感情を味わいながら、ストロークを心にため込むんですね。

 つまりこの子の場合、「僕はどうせバカだから」と言うことが、構ってもらう、すなわち“ストロークをもらえる手っ取り早くて確実な手段”なのです。この場合も、反抗的な「AC」が見事なまでに父親の「CP」を引き出しています。

 これに似たケースはたくさん存在します。例えば親子や夫婦関係において、「何度言ったら分かってくれるの?」「いい加減にしてちょうだい!」「今度こそ約束よ?」などという言葉が交わされるのをよく耳にしませんか? こうした言葉も多くの場合、「心理ゲーム」の一端なのですね。

 いろんな所でいろんな人が、特に夫婦や親子、上司と部下、恋人同士などの“固定した関係性”において、幼少期に起因するそれぞれに固有の行動によって、非生産的なストロークのもらい方を繰り返してしまっているのです。

人や自分を責める前に“構ってちゃん”に戻っていないか確認しよう

 では、心理ゲームを避けるためにはどうすれば良いのでしょうか? そのためには、まず「自分の心理ゲーム」の存在に気付きましょう。そして、それは「単なる幼いころの癖」だと認識して、それが自分のものであれ、人のものであれ、ゲームに乗らないようにしましょう。

 そもそも、心理ゲームを始めたのは「手っ取り早く確実にストロークを得ること」が目的だったのです。いま、私たちは大人になり、幼少期に作り上げた悪いゲームパターンを繰り返して嫌な感情を抱かなくても、もっと良い方法で良いストロークを得て、心を満たすことができます。なぜ、不毛な問題行動を繰り返してしまうのか? 幼少期の記憶をたどってみてください。そういう手を使って親に構ってもらっていたのでしょうか? それが分かれば、それが“癖”のようなものであり、いまも同じ手段を使い続けることが賢明でないことに気付けるはずです。

 そうした気付きを得たら、素直に良いストロークを受け取り、相手にも素直に良いストロークを渡すよう、積極的に心掛けましょう。「この企画書、良くできているじゃないか!」と言ってもらったら喜びましょう。「かわいいね、優しいね」と言われたら「ありがとう、嬉しい」と受け取りましょう。人に褒めてもらえなくても、料理がおいしくできた、遅刻しなかった、ユーザー企業に提案を喜んでもらえた、システム障害を未然に防いだ、きれいなソースコードを書けた、といったときには自分で自分を褒めてあげましょう。心理ゲームに走ることなく、意識的にプラスのストロークを素直にやり取りするのが、問題行動を避ける最善の解決方法だと私は思います。

 これは会社においてだけではありません。お子さまがいらっしゃる方なら、子どもが正しい行動を取ったときに、夫婦や恋人同士であれば嬉しいときに、「5つの心の自我状態」でいう「Free Child(自由な子供)」で、プラスのストロークを素直に発しましょう。

 要は、幼少期から「正しいことをすれば、愛される」というパターンを身に付けさせれば、“ストロークほしさの不健全な心理ゲーム”の形成を抑制できますし、大人になってから心理ゲームの不毛さに気付いたとしても、良いストロークを交換するよう心掛けていれば、ストローク不足から心理ゲームに陥ることなく、常に心のストロークバンクをプラスのストロークで満たしておける“良いパターン”を強化できると思うのです。

 もちろん、私も「常にできているか?」と言われるとそうではありません。でも何か嫌な感じがしたときには、これまでにお伝えしてきたTAの理論――「心の栄養、ストローク」「5つの心の自我状態」「心の中のOK牧場」――を用いて自分を振り返ります。つまり「ストロークバンクにプラスのストロークが不足していないかな?」「相手と自分はどういう自我状態で交流しているのかな?」「心理的ポジションは“自分も相手もOK”になっているかな?」「もしかしたら、心理ゲームじゃないかな?」と、セルフカウンセリングを行い、不毛な心理ゲームに費やす時間を減らしているのです。

 自分が変われば、コミュニケーションが変わり、相手が変わります(少なくとも相手の自分への印象は変わるはずです)。上司や同僚、部下との関係、そしてビジネスも、徐々にかもしれませんが、必ず改善していけるはずです。特にビジネスを効率的に進めるためには、部門内、業務部門間、そしてユーザー部門とIT部門など、異なる職責にある人同士のコミュニケーションの在り方が大きなカギを握っています。

 たとえ情報共有システムがあっても、各種業務システムのデータ連携体制ができていても、プロジェクト管理ツールなどがあっても、根底にスタッフ同士の気持ちの良いコミュニケーションがなければ、ビジネスプロセスを円滑に運用することは難しいのです。自分を責めたり、人に当たり散らしたりする前に、まずストローク不足を疑い、自分にも相手にもプラスのストロークを発するよう心掛けてみてください。


 さて、今回までを通して、幼少期のストロークの受け方による性格形成への影響や、いまの自分の性格の問題、また生き方を変えるためのヒントが、少しずつ見えてきたのではないでしょうか?

 人は皆、「幼少期に人生の筋書きを書く」と言われています。これをTAでは「人生脚本」と呼んでいます。人生脚本は、人生におけるあらゆる場面で、その人の決断や選択に影響を及ぼします。ある人が自由にのびのび生きているのも、その会社に入ったのも、いまのポジションにあるのも、何かに苦しんでいるのも、あらゆることに妥協してしまうのも、上司と揉めてしまうのも、特定のものに関心があるのも、すべては「人生脚本」に描かれたとおりに物事が進んでいるのです。

 次回は、この「人生脚本」についてお伝えしたいと思います。

著者紹介

小関由佳(おぜき ゆか)

NIコンサルティング コンサルタント。 広島大学大学院教育学研究科修了。教育心理学の研究を活かし、NIコンサルティングにて人事、採用、教育企画などに取り組み、その一環としてTA(交流分析)やNLP(神経言語プログラミング)を中心とした心理学の研究、活用を行う。特に自身の「ストローク理論」をIT日報に活用した「日報ストローク」、IT日報のコメントで上司と部下のコミュニケーションを分析する「コメント交流分析」、リフレーミング手法を日報に応用した「日報GOOD&NEW」は、心理学の企業組織への適用手法として注目を浴びている。


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