「ユーザーの視点」を導入・運用プロセスに組み込もうビジネス視点の運用管理(5)(2/2 ページ)

» 2011年07月07日 12時00分 公開
[福田 慎(日本コンピュウェア ),@IT]
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大切なのは、既存のプロセスと結び付けること

 前のページでは「負荷テストと結び付ける」ことの重要性を述べましたが、実はこの既存の管理体制と“結び付ける”ということが、エンドユーザー体感監視を生かす大きなポイントなのです。引き続き、エンドユーザー体感監視を効果的に活用するためのポイントを見ていきましょう。

■ITILの中にエンドユーザー体感監視を位置付ける

 「エンドユーザー体感監視の導入」と言うと、どうしても「パフォーマンス問題の早期検知や原因究明」といった“日々の運用上の効果”ばかりに注目してしまいがちです。しかしエンドユーザー体感監視の効用はそれだけではありません。これによって得られるパフォーマンス情報は、サービスレベル管理をはじめとするITILのさまざまなプロセスでも効果を発揮するのです。

 特にサービスレベル管理とエンドユーザー体感監視は密接な関係にあります。サービスレベル管理はエンドユーザー体感監視がなければ成立しませんし、エンドユーザー体感監視の導入は、サービスレベル管理の第一歩となります。サービスレベル管理とは、言い換えれば「ITシステムがエンドユーザーに提供しているサービス品質を数値化して管理するプロセス」のことですから、その最も重要な指標は、おのずと「エンドユーザー体感監視で得られるパフォーマンス情報」ということになるのです。

 しかし、ITILの中でエンドユーザー体感監視が有効なのは、サービスレベル管理だけにとどまりません。

 例えば、サービスレベル管理で得たパフォーマンス情報を利用することで、「サーバやネットワーク機器のリソース不足がパフォーマンスに影響を及ぼし始めているか」、正確に知ることができるようになります。すなわちキャパシティ管理にも役立つのです。このほか、可用性管理にもサービスレベル管理で得たパフォーマンス情報が役立ちます。

 このようにエンドユーザー体感監視とITILは密接な関係にあり、ITILのプロセスにエンドユーザー体感監視を取り入れることが、エンドユーザー体感監視の有効な活用につながるのです。

ALT 図3 エンドユーザー体感監視で得た情報はサービスレベル管理、キャパシティ管理、可用性管理にも役立つ。すなわち、エンドユーザー体感監視をITILのプロセスに組み込むことで、その効用は一層大きくなる


 以上、エンドユーザー体感監視を効果的に活用するためのポイントを3つご紹介しました。これらのポイントに共通するのは、「エンドユーザー体感監視で、誰が、何をするのかを明確にする」という点です。つまり前述のように、既存のプロセスと結び付け、組み込むことに大きな意味があるのです。

 というのも、エンドユーザー体感監視を導入するきっかけは、実際に起こっているパフォーマンス問題の原因究明や問題解決である場合がほとんどです。そのため、多くの企業では問題が解決してしまうと、エンドユーザー体感監視に あまり取り組まなくなる傾向にあります。しかし、これまで見てきた通り、エンドユーザー体感監視は、運用現場で継続的に利用することによって、より大きな効果を発揮します

 つまり、その効用を引き出す最大のポイントは、パフォーマンス管理の責任者を明確にするとともに、負荷テスト、ITILなど既存の取り組みと連動させることで、エンドユーザー体感監視を組織内に根付かせることにあると言えるのです。

企業ITの変革期、APMは全企業に不可欠となる

 最後に、エンドユーザー体感監視の今後について考えてみたいと思います。本連載でも何回か触れてきましたが、今日のITシステムは仮想化、クラウドをはじめとする新しい技術によって大きく変わろうとしています。このようなITの変革期には、これまでもパフォーマンスに関する問題が必ずクローズアップされてきました。例えば10年ほど前、Webシステムが急速に広まった際もそうでした。

 現在、企業の基幹システムに浸透し始めているクラウドも、当初はセキュリティが最大の懸念事項と言われていました。しかし多くの企業への導入が進んだ今日では、パフォーマンスを懸念事項として挙げる企業が増え、実際にあらゆるパフォーマンス問題が報告されています。これに伴い、クラウドプロバイダが示すSLAの中身が注目されるようになりつつあります。

 こうした状況を見ていると、自らITシステムの管理を行うにしろ、クラウドなどの外部サービスを利用するにしろ、「エンドユーザー体感監視に基づいたサービスレベル管理が必須」の時代が来ることが予想されます。

 一方で、エンドユーザー体感監視も日々進化しています。例えば、最近注目されている技術「WAN最適化」対応したツールも登場しています。

 この「WAN最適化」ソリューションとは、一般に、パフォーマンスの改善を目的に「WAN回線の両端、例えば本社側と営業所側にWAN最適化用のネットワーク装置を設置し、WANを流れるパケットを制御することによってWAN部分の高速化を図る」といったものですが、その回線を流れるパケットの種類、設定、ユーザー数などによって得られる効果に大きな差が出ます。つまり、「パフォーマンスがどれだけ改善したのか」をできるだけ正確に計測し、判断する必要があるのですが、いくつかのエンドユーザー体感監視ツールはその計測・分析を実現しているのです。

 また、ここ数年で急速に進んだ端末の多様化も、エンドユーザー体感監視の視点から見ると新しい課題と言えるでしょう。iPod、iPadなどはすでに多くの企業で採用されています。ブラウザも多様化し、Firefox、Chromeなどが一般的に使われるようになりました。「端末が変わる」ことはエンドユーザから見たパフォーマンスに想像以上に影響を与えます。

 従来のエンドユーザー体感監視は「端末の種類」という点にはあまり注意を払ってきませんでした。しかし今後は、パフォーマンスに影響を与える要素の1つとして、慎重に考慮する必要が出てくるでしょう。すでに、ツールによってはさまざまな端末をシミュレートできるものも登場しつつあります。


 さて、5回にわたってエンドユーザー体感監視=APMについて説明してきましたが、いかがだったでしょうか。 従来、エンドユーザー体感監視とは、一部のネットビジネス関係者か、パフォーマンス問題に悩んでいる人が使うものでした。しかし、クラウドをはじめとするIT環境の変化が、エンドユーザー体感監視を全ての企業に必須のものに変容させつつあるのです。

 今後、皆さんも何らかの形でエンドユーザー体感監視に関わることが増えてくることでしょう。本連載が、その導入・運用を考える際の参考になれば幸いです。

著者紹介

▼著者名 福田 慎(ふくた しん)

日本コンピュウェア 営業本部 シニアソリューションアーキテクト。長年に渡り、ITサービス管理の分野に従事。 BMCソフトウェアや日本ヒューレット・パッカードなど、米国リーディングカンパニーの日本法人にて、プリセールスとして数多くの案件に携わり、IT部門が抱える課題解決を支援。現在は日本コンピュウェアにて、シニアソリューションアーキテクトとして顧客企業への提案を推進する傍ら、講演活動にも積極的に取り組み、アプリケーションパフォーマンス管理の啓発活動を展開している。


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