システム革新のヒントは“コンシューマ発”にあり“革新を起こす”新アーキテクチャ活用術(1)(2/2 ページ)

» 2012年06月15日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]
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プライベートクラウドは海外拠点展開の切り札

 さて、A社が直面した課題を整理すると、次のようになります。

  1. バンコク工場を開設するために、6カ月間で生産管理システムを立ち上げる必要がある
  2. 生産管理システムは国内工場で導入している生産管理システムと同じものが必要
  3. バンコクでシステムを導入し保守運用体制を構築するのは、費用と要員の両面から難しい

 これらに対し、A社が解決策として選んだのは、「現行の国内の生産管理システムにバンコク工場用のシステムを追加し、これをネットワーク経由で利用する」という対策でした。国内システムへの接続は、専用線を使って現地からアクセスして利用します。これで工場開設までの短い期間で、システムを利用できる環境を確実に整備できる目処が立ったのです。

 タイは日本との時差が2時間ですから、システムの運用についても日本側で対応が可能でした。また、2年後には生産管理システムを導入して計5年経つことから、このタイミングでサーバの増強や分割、機能の見直しを行うことにしました。これに伴い、現時点では対応していない英語やタイ語などへの対応策や、さらなる海外進出なども視野に入れた検討を行うことを決めたのです。

 一見すると消極的な対策に見えるかもしれません。しかし、無理なスケジュールで海外にシステムを導入するのは無謀です。大手企業ならお金も人材も潤沢にありますが、限られたリソースで、失敗せずに計画を進めるためには、このような対応が1つの成功方法となるのです。

 このやり方は、いわゆる「プライベートクラウド」のアーキテクチャを採用したものです。これにより、サーバやシステムは国内に置いて、これを海外工場からネットワーク接続することによって、現地のユーザーは拠点内にシステムがあるかのように利用することができます。一方、保守サポートの大半は国内で対処できるので、海外で短期間で確実にシステムを稼働させる手段としては非常に有効と言えるのです。A社のようなクラウドの活用パターンは近年急速に浸透しています。

最新のアーキテクチャが古い業務システムを再生させる!

 コンシューマモデルのアーキテクチャを俯瞰すると、その多くが「必要なサービスを、すぐに、手軽に使いたい」というニーズに応えたものであることが分かります。また、「多数のユーザーが利用可能とすることでコストを大幅に減らせる」という特徴があります。クラウドの技術にもいろいろありますが、やはり「必要な時に、スピーディかつ手軽に利用できる」という考え方が基軸になっていると言えます。企業ITの世界でも、機能要件を精細に詰めてきめ細かく構築するようなケースより、とにかく「早く、安く、手軽に」というケースでの利用を中心に、クラウドの導入が進んでいるようです。

 なお、今回ご紹介したA社はプライベートクラウドの事例ですが、複数のユーザーが巨大なシステムを共有する仕組み――パブリッククラウドをグローバル拠点展開に利用している企業もあります。例えば、セールスフォース・ドットコムのCRMシステムは、パブリッククラウドのサービスとして多くの企業に利用されていますが、日立建機はこれを中国/アジア新興国の代理店向け営業支援システムとして全面的に採用しています。

 自社でサーバを持つことなく、必要な時に、必要なタイミングでシステムを利用でき、必要がなくなれば契約を止めれば良いだけなので、撤収するのも簡単です。海外のビジネス状況は刻々と変化していますので、柔軟かつコストパフォーマンスの高い仕組みがベストマッチするというわけです。


 以上のように、既存の業務システムに新しいアーキテクチャを導入することで、従来の発想では実現が難しかった要件に対して、適切なソリューションを生み出すことができます。この連載では、こうした「新しいアーキテクチャを採用した業務システム」について、さまざまな事例や試みを紹介していきたいと思います。

Profile

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。SAPを中心としたシステムの設計導入支援を行う株式会社エス・アイ・サービスにて、ERP導入のセカンドオピニオンサービスも提供している。


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