一方で、生データを可視化できることには、高度な分析環境の実現において2つのメリットが期待できるという。1つは経営層の理解だ。特に、BIを導入済みの企業の場合、そのレポート内容に懐疑の念を抱いている経営層も多いという。
「従来のBIの使い方としてはレポーティングが中心だが、そのレポートは中間管理職とIT部門の手が入った加工されたデータだ。加えて、手元に来るまでに時間がかかっている。この点を嫌い、自身の視点でリアルタイムに生データを見たいと考えている向きも多い。実際、ユーザー企業の中には、営業本部長や経営層自身がQlikViewを使って自分で分析アプリを作ってしまった例もある」
もう1つはデータマネジメントの重要性への気付きだという。例えば、商品の販売データと顧客別の売上データなどを可視化する際、データの管理部門によってデータの締め日が異なっていたとする。この場合も、「QlikView上で一元的に可視化し、何らかの洞察を得ることはできるが、そうしたデータの不整合も含めて可視化される。このため、より正確かつ深い分析を行うために、データの均質化に向けて自然とモチベートされる例もある」という。
また、QlikViewは各部門のバックエンドにあるデータベースをデータソースとする。この点で、「従来のようにMicrosoft Office Excelを使って、個々人がデータを加工したり、分析したりしていたことで、共有データの在りかが分からなかったり、データが更新されていなかったりといった、データガバナンスの課題に悩んでいた組織ほど、導入効果を実感しやすいかもしれない」という。
ドライバー氏は、日本におけるビッグデータ活用の状況について、「多くの企業は、分析に大きな関心を寄せながらも、データの収集・蓄積、データ整備、スキルの習得といった点に目を奪われ過ぎているのかもしれない」とコメントする。
「もちろんデータ活用に向けた準備も大切だが、いくらビッグデータを持っていても、持っているだけでは価値は引き出せない。まずは今あるデータを実際に目で見て、今何が起こっているのか、複数のデータ間にはどのような関連があるのかを考え、探ってみることが大切なのではないだろうか。SASやSPSSを使った高度な分析環境の実現も、実際にデータを見て、自分の頭で考える土壌を作ることがその第一歩になるだろうし、そうした文化があれば分析結果は一層生きてくると思う」
「SASやSPSSがデータサイエンティストのための分析ツールだとしたら、QlikViewはビジネスユーザーのための分析ツール」と話すドライバー氏。高度な分析を行うためには、分析スキルの問題をはじめ数々のハードルはあるものの、対策を練ったり準備を進めている間も市場は動き続けている。そして企業がデータからビジネスに役立つ知見を得たいのは、まさに“今”だ。
外部の分析サービスを使う、投資をして分析処理基盤を整備するなど、選択肢はさまざまだが、データをビジネスに生かす上で最も大切なのは、データ活用の目的を明確化することと、自社のビジネスに照らしてデータを見る目を養うことにある。
その点、ドライバー氏が勧めるように、ビジネスのプレーヤー自身がデータを見て、そこから得た発見を自らビジネスに生かしていくやり方なら、“分析で一番大切なこと”を見失うこともないのではないだろうか。スキルやツールばかりが重視されがちなトレンドにある中で、こうしたエンドユーザー主体の取り組みも、ビッグデータの本格活用に向けた1つの有効なアプローチと言えるのかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.