コンプライアンスの定義が分からない方へ:読めば分かるコンプライアンス(2)(2/2 ページ)
今回は、前回掲載した小説部分で取り上げたコンプライアンス問題について、筆者が分かりやすく解説する。
法令に違反しなければ何をしてもよいのか
「コンプライアンス=法令遵守」という認識(定義付け)には、落とし穴が潜んでいます。
それは、「コンプライアンス=法令遵守」とだけ認識していると、「法令に違反しなければ何をしてもよい」という考えが生まれ、企業不祥事に発展する可能性が生じるということです。
そこまで極端ではなくても、「法令に違反していなければ問題はない」という締まりのない考え方に陥りやすいのは事実でしょう。
「コンプライアンス=企業の社会的信頼を維持向上させること」と考えれば、法令以外にも順守すべき事柄はあるし、それが順守されていない状況があれば、「法令に違反していないから問題はない」と放置するのではなく、その状況を是正し、将来の再発を防止するための措置を講じることが必要だと認識し、実行することになります。これがいわゆるコンプライアンス活動の表れ方です。
本作品第1話では、「法令以外に順守すべき事柄」として、「社内情報」を題材に取り上げています。
作中で大塚マネージャが語っているとおり、「社外(居酒屋など)で社内事情を話してはならない」という法律は存在しません。しかし、だからといって、社員が居酒屋で社内情報を大声で話すという状況を放置しておくのは、「コンプライアンス上まずいだろう」ということは直感的に理解できます。ただし、「どこがどのようにまずいのか?」という、その論理的な認識の仕方が見えないのです。
顧客、従業員、取引相手という人々とは日常的に接しているために、彼らの期待とか、何をすれば彼らの信頼を失うかといったことも分かるので、コンプライアンス上問題とすべき事柄も考えることができます。
しかし、居酒屋で社内情報を大声で話すという状況のように、顧客も従業員も取引相手も関係しない場合には、なぜステークホルダーの信頼に背くことになるのかが把握しにくいのです。加えて、それについて定めている法令が存在しないとなると、それがコンプライアンスの問題なのかどうか、といった根本的な部分から分からなくなります。
こういった場合は、「株主の期待」という視点で考えると分かる場合が多いものです。第1話では、「株主の期待」という視点で見ると、社員が居酒屋で社内情報を大声で話すという状況もコンプライアンスの問題としてとらえ得るということを描いています。
実際の企業で第1話のような状況が生じたら、あるべきコンプライアンス活動としては、まず、神崎のような社員に対して自分の行動がコンプライアンス上どのような問題を含んでいるかを説明して納得させ、同じ過ちを繰り返さないように指導することが必要でしょう。
そして、将来の再発を防止するために、社内情報を精査して、営業秘密として管理するための物理的・手続き的体制を整えて、コンプライアンスとの関連性を踏まえて社内的に周知徹底することが必要です。
【次回予告】
次回は、ライバル企業へ転職することに対するコンプライアンスの問題を取り上げます。引き抜きなどでライバル社へ転職することが昨今多くなってきています。その際に注意すべき点はどこにあるのでしょうか。お楽しみに。
著者紹介
▼著者名 鈴木 瑞穂(すずき みずほ)
中央大学法学部法律学科卒業後、外資系コンサルティング会社などで法務・管理業務を務める。
主な業務:企業法務(取引契約、労務問題)、コンプライアンス(法令遵守対策)、リスクマネジメント(危機管理、クレーム対応)など。
著書:「やさしくわかるコンプライアンス」(日本実業出版社、あずさビジネススクール著)
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