ヤクザと関係を持つことのどこがコンプラ違反なのか:読めば分かるコンプライアンス(8)(2/2 ページ)
今回は、前回掲載した小説部分で取り上げたヤクザが会社にやって来た場合のコンプライアンス問題について、筆者が分かりやすく解説する。
コンプライアンスとヤクザの関係
コンプライアンスとは、結局のところ、企業の社会的信頼を維持・向上させていくことだといえると筆者は思う。その点からすると、反社会的勢力と何らかの関係を持つことは企業の社会的信頼を損なうことであり、その意味で、明らかなコンプライアンス違反といえるだろう。
反社会的勢力は、相手企業に入り込むためのすきを探し求めている。世間の耳目を集めるようなスキャンダルをひた隠しにしているような企業は格好の餌食になるだろうし、そのようなスキャンダルが見当たらないときは、相手企業を揺さぶって少しでもすきを作ろうとする。
反社会的勢力に付け込まれないためには、透明性の高い経営を行い、反社会的勢力からの揺さぶりがあっても、毅然(きぜん)とした態度でこれをはねつけることが必要である。
このように、口で“言う”のは簡単である。
しかし、前回の橋本陽一のように、何の前触れもなく、従って心の準備がまったくない状況で、いきなり目の前に反社会的勢力が現れて、言葉巧みに迫られ、脅され、翻弄(ほんろう)されたら、平常心を失ってしまい、毅然とした態度で臨むなどまず無理だろう。少なくとも、毅然とした態度を意識して事態に臨むまでには、かなりの経験を要するはずである。
橋本が、「相手のいう通りにすれば、事態は通り過ぎていく」と弱気になるのも無理からぬことかもしれない。コンプライアンスマニュアルに「反社会的勢力からの揺さぶりは、毅然とした態度でこれをはねつけることが必要である」といくら書いてあっても、それだけでは解決にはならない。
現場の最前線で反社会的勢力に対面しなければならない従業員は、孤独で不安な状況に置かれているのだ。コンプライアンスマニュアルの内容を実現させようと思ったら、現場の従業員をバックアップする体制が必要なのである。
前回の話では、赤城の助言や小林を派遣して橋本と同席させたのも、1つのバックアップ体制の表れとして描いている。枚数制限のある小説として描いているので、事態は簡単に終結を迎えているが、実際にこのような事態が生じたら、こうは簡単にいかないだろう。
しかし、いずれにせよ一番大事なことは、「コンプライアンスはマニュアルを作ってそれで完成ではない」ということである。
マニュアルに書かれていることを実現させるための“具体的な施策”が必要なのであって、反社会的勢力への対応については、現場の従業員をバックアップする体制がその具体的施策なのである。
【次回予告】
次回は、「不正行為やセクハラ」をテーマにした問題を紹介します。不正行為を働いて私服を肥やす公務員の報道を見掛けますが、実際にこのような不正が会社で起こっていたら、会社はどのように対応すればよいのでしょうか。実際にコンプライアンスの観点から分析し、分かりやすく解説します。ご期待ください。
著者紹介
▼著者名 鈴木 瑞穂(すずき みずほ)
中央大学法学部法律学科卒業後、外資系コンサルティング会社などで法務・管理業務を務める。
主な業務:企業法務(取引契約、労務問題)、コンプライアンス(法令遵守対策)、リスクマネジメント(危機管理、クレーム対応)など。
著書:「やさしくわかるコンプライアンス」(日本実業出版社、あずさビジネススクール著)
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