あの“とんでも社員”を解雇させたい!:読めば分かるコンプライアンス(19)(5/5 ページ)
本連載では、あるコンサルタント企業を舞台にして、企業活動とは切っても切れない“コンプライアンス”に関するトピックを、小説の随所にちりばめて解説していく。
そして、最後の審判
3月16日、松岡人事部長の部屋に、大塚と神崎と赤城が集まっていた。
松岡 「神崎、柏木は今日も現場に来ていないのか?」
神崎 「ええ。今日は体調が悪いから休むと新井に連絡があったそうです。新井に確認したところ、今日1日くらいは柏木がいなくても支障がないということだったので、新井に任せることにしました。むしろ、柏木がいない方がやりやすいんじゃないんですか」
松岡 「確かにな……。で、赤城さん。神崎の報告書あるとおり、柏木は1カ月前に改善項目を申し渡しているのに、まったく改善しないどころか、逆にどんどんひどくなっている。作業も妨害しているし、クライアントに迷惑かけても平気だ。これじゃ確信犯ですよ。妥当な解雇理由を証拠付けるには、この報告書で十分なんじゃないんですか?」
赤城 「そうだなぁ。ここまできたら、万が一裁判に訴えられても、会社としてこの報告書で戦って勝つという腹をくくるかどうかの決断のときだということだな。私は、柏木君のもたらす悪影響は無視できないし、また無視すべきでもない状況に至っているので、この報告書をもって解雇するのもやむを得ないと思いますが、松岡さん、どうでしょう?」
松岡 「そうですね、確かに赤城さんのいうとおりだと思いますよ。状況がここまで悪化しているうえに、その証拠がここまでそろっているのなら、会社を守るために柏木君を解雇するのは法的に認められるだろうと思いますよ。ただ……」
大塚 「えっ? まだ何かあるんですか!?」
松岡 「大塚さん、何もそんなにびっくりしなくても……。ただですね、万全を期すために、柏木君にはSEチームリーダーの任を解いて、戒告処分として今後2週間は人事部付きとして、始末書と『今後はこのようなことは2度と繰り返さない』という誓約書の提出を命じます。この戒告処分を拒否したり、または2週間後に始末書と誓約書を提出しないときは、その時点から1カ月後に解雇すると申し渡すことにします」
大塚 「そうですか。取りあえず、柏木をチームリーダーから外していただければ助かります。後は人事部にお任せしますよ。柏木が戒告処分に大人しく従うはずはないんだから、個人的には、さっさと解雇した方が会社のためだとは思いますけどねぇ」
松岡 「まぁまぁ、大塚さん、そんなに感情的にならなくても……。むしろ、現場のマネージャとして、柏木君に最後の指導をしてくれるくらいじゃなきゃ」
打てば響くような対応をする大塚には珍しく、しばらく考え込んだ後で、大塚はいった。
大塚 「まっぴらですね。いって分かるやつなら指導もしますけど、柏木はだめです。いって分かるやつじゃない。でも、私は管理職として部下に対するコンプライアンス上あるいは法律上の必要なことはやった。それでも部下が会社に迷惑をかけるのなら、今度はそのような部下から会社を守るのが、管理職に求められるコンプライアンスになると思いますよ」
【次回予告】
シニアSEの柏木は、社内でも有名な問題社員。今回のプロジェクトでは、神崎とともにチームを組んだものの、自己弁護に走るあまり、クライアントに迷惑をかけてしまいます。そして、柏木の行動は日増しに悪くなったため、ついに上司の大塚は柏木の解雇を決心します。
しかし、企業が社員を解雇するには正当で公平な理由が必要です。そのため、きちんとした報告書を作成することになりました。次回は、このような問題社員の解雇についてコンプライアンスの視点から詳しく分析します。なお、次回は6月9日に掲載予定です。お楽しみに。
著者紹介
▼著者名 鈴木 瑞穂(すずき みずほ)
中央大学法学部法律学科卒業後、外資系コンサルティング会社などで法務・管理業務を務める。
主な業務:企業法務(取引契約、労務問題)、コンプライアンス(法令遵守対策)、リスクマネジメント(危機管理、クレーム対応)など。
著書:「やさしくわかるコンプライアンス」(日本実業出版社、あずさビジネススクール著)
- 発注側は下請法を最低限は理解するべき
- 下請けいじめでストレス発散は犯罪?
- 問題社員を解雇するときのポイントは?
- あの“とんでも社員”を解雇させたい!
- 仕事とストレス、モチベーションの関係
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