問題社員を解雇するときのポイントは?:読めば分かるコンプライアンス(20)(2/2 ページ)
今回は、前回の小説部分で取り上げた、問題社員を解雇するケースについて、筆者がコンプライアンスの観点から分かりやすく解説する。
問題社員の解雇
そして、今回のテーマは、問題社員の解雇である。
一般的に、解雇は労務問題の中でも代表的なトピックだが、その中でも特に、いわゆる問題社員の解雇は微妙な要素を含んでいる。その問題行動が横領、詐欺、暴行などの犯罪に該当する場合などは、それほど迷うことなく解雇という判断をするだろうし、誰が見てもその判断をおかしいとは思わないだろう。
しかし、職場の秩序を乱すとか、従業員としてのパフォーマンスが悪い/低いなどの場合は、当事者の「解釈」という主観的な要素が入り込んでくる。
管理職は、問題社員の行動は解雇理由とされて当然の深刻な問題行動だと解釈しても、当の問題社員は自己の行動を問題行動とは思っていない、という状況である。このような状況下で、管理職側が「労働関連法令の理念」を考慮せず、「経営の理念」の発想だけで条件反射的に「そんなやつはクビだ!」と決めてしまうと、必ず労務問題としてこじれてしまう。
作品中の柏木は、自分が問題社員であるとは露ほども認識しておらず、逆に正しいことをやっているぐらいに信じ込んでいる一種の確信犯として描いた。
大塚マネージャは、「経営の理念」の発想だけで条件反射的に対処しがちな上司として描いているが、それでも、辛うじて「労働関連法令の理念」とのバランスを図らねばならないというセンサーを働かせている。「経営の理念」と「労働関連法令の理念」とのバランスを図るという視点さえ持っていれば、労務問題は回避できるということを描いたつもりである。
繰り返しになるが、経営者および管理職は、労働者保護という「労働関連法令の理念」を満たしながら、利益追求という「経営の理念」を実現していかなければならない。これが、労務問題におけるコンプライアンスの考え方である。
今回の作品で、筆者は「経営の理念」と「労働関連法令の理念」のバランスが重要だということを描きたかった。
つまり、「労働関連法令の理念」を考慮せず、「経営の理念」の発想だけで条件反射的に対処するのは重大な誤りであると同時に、「労働関連法令の理念」だけを重要視するあまり、「経営の理念」の発想を忘れることもバランスを欠いていることになると思うのである。
作品中の大塚の最後のせりふがその考えを表現しているのだが、読者の皆さんはどのようにお考えだろうか。
【次回予告】
次回は、「下請法に抵触するケース(業者イジメ)」について解説します。多くの企業では、下請け企業に助けてもらって事業を進めていますが、その立場を利用して、いわゆる「業者イジメ」をしているケースもあります。次回はこの「業者イジメ」について、具体的な対策とともに分かりやすく解説します。ご期待ください。
著者紹介
▼著者名 鈴木 瑞穂(すずき みずほ)
中央大学法学部法律学科卒業後、外資系コンサルティング会社などで法務・管理業務を務める。
主な業務:企業法務(取引契約、労務問題)、コンプライアンス(法令遵守対策)、リスクマネジメント(危機管理、クレーム対応)など。
著書:「やさしくわかるコンプライアンス」(日本実業出版社、あずさビジネススクール著)
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